↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HOME - 巨樹が空を覆う世界で -  作者: lovely plants
最終章 隣の席

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/29

最終話 薄緑の朝

 数日が経った。


 サイレンはもう聞こえない。街は静かだった。あの夜、倒れていた人々のことも、肌に現れた緑色の線も、誰も話題にしなくなっていた。最初から何もなかったみたいに。


 教室に行くと、ツムギの机がなかった。


 なかった、というのは正確ではない。最初からそこに机がなかったかのように、教室の配置が変わっていた。


「——ねえ、ツムギの机は?」


 隣の席にいた女子に聞いた。


「ツムギ?誰?」


 別のクラスメイトにも聞いた。先生にも聞いた。


 誰も知らなかった。


 栗色の髪をリボンでまとめた、花みたいに笑う女の子のことを。唐揚げを多めに作ってくる子のことを。誰とでもすぐに打(う)ち解(と)けて、教室の空気をいつも柔らかくしていた子のことを。


 誰も、覚えていなかった。


 レンにも聞いた。


「レン——ツムギのこと、覚えてる?」


 祈るような気持ちだった。レンだけは。レンなら。


「……ツムギ?」


 レンの目に、何も浮かばなかった。


「知らないな。誰だ、それ」


 膝から力が抜けた。


 巨樹(きょじゅ)を「当たり前のもの」として受け入れるように。空があること、海があること、重力があることと同じように。ツムギが最初からいなかったことが——世界の「当たり前」になっていた。


 私だけが覚えている。


 あの笑顔を。あの声を。あの夜のメールを。「おかえり」と言ってくれた、最後の言葉を。


 教室に、薄緑の光が差し込んでいる。誰かが窓を開ける。誰かが笑う。先生が出席を取る。ツムギの名前は、呼ばれない。


 それでも——朝は来る。何も変わらない朝が。


 私の机の隣に、薄緑の光だけが静かに揺れていた。



HOME - 巨樹が空を覆う世界で - 完



* * *



最後までお読みいただきありがとうございます。もし「面白かった」と感じていただけたら、感想コメントやレビューを書いていただけると、とても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。