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HOME - 巨樹が空を覆う世界で -  作者: lovely plants
第5章 おかえり

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第21話 残響

 暗い森を、二人で歩いた。


 レンに肩を借りて、一歩ずつ。体に力が入らない。人間の体に戻ったばかりで、まるで長い病気のあとのように足がふらつく。


 森はもう脈動していなかった。声も聞こえなかった。ただ静かな暗闇が広がっている。巨樹の幹の間を縫うように進む。来た道を、逆に辿(たど)る。


「……レン」


「ん」


「ごめん」


「謝んな」


「でも……」


「お前が謝ることじゃない。俺が来たくて来たんだ」


 沈黙。足音だけが、苔の上に柔らかく響く。


「……なあ、ハンナ」


「なに」


「あの光の中——どんな感じだった?」


「…………温かかった。すごく。生まれて初めて、ここが自分の場所だって思えた」


「……そうか」


「でも——レンの手の方が、温かかった」


 レンが何も言わなかった。ただ、肩を貸す力が少しだけ強くなった。


 しばらく歩いて、木々の隙間から夕暮れの光が差し込み始めた。森の出口が近い。


「……なあ」


「なに」


「……ツムギにも、ちゃんと話さないとな」


 ツムギ。その名前が、当たり前のように出てきた。


「ツムギ?」


 意味が分からなかった。なぜ今、ツムギの名前が——


「ああ、お前に言ってなかったな」


 レンの声は、疲れてはいたけれど、穏やかだった。


「お前が学校からいなくなった後——俺が追いかけようとしたら、ツムギが教室の前にいたんだ。俺より先に気づいてた。お前がいなくなったこと」


 心臓が跳ねた。


「ツムギが……?」


「走り出した俺に並んできて、『一人で行く気?』って。止めるのかと思ったら——『一緒に行く』って言いやがった」


 足が止まった。レンの肩を借りたまま、立ち尽くした。


「フェンスまで走った。二人で。でも森に入ろうとしたら、ツムギはダメだった。耳鳴りがして、吐いて。——俺は入れたんだけど」


 エリオのノートの言葉が頭をよぎった。——一部の血筋の者は、森に拒まれない。


「ツムギは入れなかった。でも帰らなかった。フェンスの前に座り込んで——」


 レンが、わずかに笑った。疲れた、でも温かい笑み。


「あいつ、笑ってたんだ。辛そうな顔で。『行きなよ、ハンナちゃんのところに。私はここで待ってるから』って」


 ——ツムギ。


 涙が込み上げた。泣いたばかりなのに、まだ涙が出る。


 知らなかった。ツムギが来ていたなんて。あの子が、好きな人の背中を押して、フェンスの前で待ってくれていたなんて。


 私が光に包まれて恍惚(こうこつ)としていたとき。「ここがHOMEだ」と思っていたとき。力に酔っていたとき。


 ——ツムギは、フェンスの前で、私を待っていた。


「……早く帰ろう」


 声が震えた。


「ツムギに——ありがとうって、言わなきゃ」


「ああ。あいつの唐揚げも、リクエストしとくか」


「……うん」


 足を速めた。ふらつきながら。レンに支えてもらいながら。

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