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HOME - 巨樹が空を覆う世界で -  作者: lovely plants
第5章 おかえり

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第19話 美しい復讐

 力が、あまりに大きかった。


 体の中で膨れ上がる。指先が痺(しび)れる。足の裏から根が生えるような感覚。私が遺跡と一体化していく。境界が溶けていく。


 ——気持ちいい。


 それが最初に思ったことだった。罪悪感なんてなかった。この力が自分のものになっていく感覚は、今まで感じたことのない——充足感(じゅうそくかん)だった。


 ずっと空っぽだった。


 教室の中で、透明人間みたいに存在を消されて。母さんの視線はいつも私をすり抜けて。レンの優しさにしがみつくことでしか自分の輪郭を保てなくて。


 でも今、私は満たされている。


 力で。知識で。この場所に属しているという、圧倒的な確信で。


 ——もっと。


 もっと欲しい。もっとこの力を。もっとこの光を。もっと——


 ——おまえは、新たな主になれる。


 声が甘くささやく。


 ——この世界を作り直せ。おまえの手で。おまえの意志で。


 世界を、作り直す?


 ——おまえを疎外(そがい)したあの世界を。おまえを見ようとしなかったあの人間たちを。全て、おまえの望む形に。


 ……できるの?


 ——できる。おまえには、その資格がある。その血が流れている。


 頭の中に映像が浮かんだ。


 教室。クラスメイトたち。私を見て、笑って、目を逸らした人たち。先生。母さん。


 ——あの人たちを。


 巨樹の種子に?


 ——望むなら。


 心臓が跳ねた。でもそれは恐怖ではなかった。


 誘惑(ゆうわく)だった。


 あの人たちが巨樹になる。私を無視した人たちが、私の一部になる。この世界を覆う植物ネットワークの中に組み込まれる。そうすれば、もう誰も私を見ないふりはできない。誰も私を透明にはできない。


 ——なんて、美しい復讐(ふくしゅう)だろう。


 自分の思考に、ぞっとした。


 ぞっとしたのに——止められなかった。


 力が私の中でうねっている。光が金色から、少しずつ——白く変わっていく。白くて、冷たい光。温かさが消えていく。代わりに、透徹(とうてつ)した万能感(ばんのうかん)が全身を満たす。


 ——そうだ。おまえは、創造者になれる。


 私の先祖と同じように。人間を種子に変え、世界を覆い尽くした、あの超古代文明の人々と同じように。


 ——待って。


 頭の片隅で、小さな声がした。自分の声。まだ力に飲まれていない、かすかな私の声。


 ——あの人たちは、同じことをしたんだ。


 人間を種子に変えた。世界を自分たちの思い通りに作り替えた。その結果が——あの繭(まゆ)だ。何百、何千という人間の繭。巨樹の中で永遠に眠り続ける人々。


 あれを——私も、やるの?


 やる。やれる。やっていい。私にはその権利がある。ずっと疎外されてきた。ずっと居場所がなかった。この力は、その対価(たいか)だ。


 ——本当に?


 小さな声が問いかける。力の奔流の中で消えそうなほど小さな声。


 ——本当にそれで、満たされるの?


◇


 足元から根が生え始めていた。


 比喩(ひゆ)ではなく、本当に。私の足から、植物の根が地面に向かって伸びている。肌の上に、葉脈(ようみゃく)のような模様が浮かび上がっている。髪が伸びて、その先端が光の繊維に変わっている。


 遺跡と融合(ゆうごう)しつつある。


 あと少しで、完全にこの場所の一部になる。新たな中枢(ちゅうすう)として。新たな創造者として。


 ——それでいい。


 ——それが、私の——


「ハンナ!!」


 光が、裂けた。

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