第19話 美しい復讐
力が、あまりに大きかった。
体の中で膨れ上がる。指先が痺れる。足の裏から根が生えるような感覚。私が遺跡と一体化していく。境界が溶けていく。
——気持ちいい。
それが最初に思ったことだった。罪悪感なんてなかった。この力が自分のものになっていく感覚は、今まで感じたことのない——充足感だった。
ずっと空っぽだった。
教室の中で、透明人間みたいに存在を消されて。母さんの視線はいつも私をすり抜けて。レンの優しさにしがみつくことでしか自分の輪郭を保てなくて。
でも今、私は満たされている。
力で。知識で。この場所に属しているという、圧倒的な確信で。
——もっと。
もっと欲しい。もっとこの力を。もっとこの光を。もっと——
——おまえは、新たな主になれる。
声が甘くささやく。
——この世界を作り直せ。おまえの手で。おまえの意志で。
世界を、作り直す?
——おまえを疎外したあの世界を。おまえを見ようとしなかったあの人間たちを。全て、おまえの望む形に。
……できるの?
——できる。おまえには、その資格がある。その血が流れている。
頭の中に映像が浮かんだ。
教室。クラスメイトたち。私を見て、笑って、目を逸らした人たち。先生。母さん。
——あの人たちを。
巨樹の種子に?
——望むなら。
心臓が跳ねた。でもそれは恐怖ではなかった。
誘惑だった。
あの人たちが巨樹になる。私を無視した人たちが、私の一部になる。この世界を覆う植物ネットワークの中に組み込まれる。そうすれば、もう誰も私を見ないふりはできない。誰も私を透明にはできない。
——なんて、美しい復讐だろう。
自分の思考に、ぞっとした。
ぞっとしたのに——止められなかった。
力が私の中でうねっている。光が金色から、少しずつ——白く変わっていく。白くて、冷たい光。温かさが消えていく。代わりに、透徹した万能感が全身を満たす。
——そうだ。おまえは、創造者になれる。
私の先祖と同じように。人間を種子に変え、世界を覆い尽くした、あの超古代文明の人々と同じように。
——待って。
頭の片隅で、小さな声がした。自分の声。まだ力に飲まれていない、かすかな私の声。
——あの人たちは、同じことをしたんだ。
人間を種子に変えた。世界を自分たちの思い通りに作り替えた。その結果が——あの繭だ。何百、何千という人間の繭。巨樹の中で永遠に眠り続ける人々。
あれを——私も、やるの?
やる。やれる。やっていい。私にはその権利がある。ずっと疎外されてきた。ずっと居場所がなかった。この力は、その対価だ。
——本当に?
小さな声が問いかける。力の奔流の中で消えそうなほど小さな声。
——本当にそれで、満たされるの?
◇
足元から根が生え始めていた。
比喩ではなく、本当に。私の足から、植物の根が地面に向かって伸びている。肌の上に、葉脈のような模様が浮かび上がっている。髪が伸びて、その先端が光の繊維に変わっている。
遺跡と融合しつつある。
あと少しで、完全にこの場所の一部になる。新たな中枢として。新たな創造者として。
——それでいい。
——それが、私の——
「ハンナ!!」
光が、裂けた。




