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HOME - 巨樹が空を覆う世界で -  作者: lovely plants
第5章 おかえり

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第18話 金色の光

 光の中にいた。


 あたたかい。息をするたびに、光の粒子(りゅうし)が肺を満たしていく。体の輪郭が溶けていく。肌と空気の境目が曖昧(あいまい)になる。どこまでが私で、どこからが光なのか——もう分からなかった。


 でも、怖くなかった。


 生まれて初めて、怖くなかった。


 ずっと感じていた違和感が消えている。教室のガラスの箱。母さんとの見えない壁。世界の底に沈んでいるような感覚。その全部が、嘘みたいに——ない。


 ここには、ある。


 ここには、私のための空気がある。私のための温度がある。私のための光がある。


 ——ここが、私の場所だ。


 金色の光が体を包んでいく。足元から、指先から、髪の一本一本から。衣服の感触が変わった。綿とポリエステルの制服ではなく、もっと柔らかくて、もっと生きているもの。植物の繊維が肌の上を滑るように纏(まと)わりつく。


 見下ろすと、自分の体が金色に発光していた。


 ——綺麗。


 こんなふうに自分を綺麗だと思ったことは一度もなかった。誰とも似ていない薄い髪の色を恥じていた。青みがかった灰色の瞳も好きにはなれなかった。でも今、この光の中で、私の髪も瞳もこの場所と同じ色をしている。


 私は、ここに属しているのだ。


◇


 意識が広がっていく。


 体の境界を越えて、もっと遠くへ。光を通じて、遺跡(いせき)の全体が「見えた」。目で見るのではない。体の内側に、遺跡の地図が流れ込んでくる。


 同心円状の都市。結晶の尖塔(せんとう)。中央の巨大な樹——いや、あれは樹ではない。装置だ。超古代文明(ちょうこだいぶんめい)が作り上げた、生命を制御する装置。


 その装置が、今、私に語りかけている。


 言葉ではなく、もっと直接的な方法で。骨の奥に響く振動。遺伝子に刻まれた記憶。この場所を作った人々——私の先祖たち——の声。


 ——おまえは、帰ってきた。


 はい、と心の中で答えた。


 ——おまえは、継承者(けいしょうしゃ)だ。


 ……継承者?


 ——この場所を。この力を。この世界を。おまえは引き継ぐために生まれた。


 光が強くなった。温かさが増した。同時に、体の中に何かが注ぎ込まれていく。知識。記憶。力。超古代文明が蓄積(ちくせき)した全てが、私の中に——


 ——受け取れ。


 脳が灼(や)ける。


 情報の奔流(ほんりゅう)。数千年分の記憶が一気に流れ込んでくる。超古代文明の歴史。彼らが作り上げた生命技術。巨樹(きょじゅ)の設計図。人間を種子(しゅし)に変換する方程式。世界を覆う植物ネットワークの制御方法。


 かつて肉体を持っていた人々が、自らの体を捨てて意識だけの存在になったこと。朽ちかけた世界を再生するために、人間の命を養分として巨樹を育てたこと。そして、その仕組みを動かすために「鍵(かぎ)」となる人間を——世代を超えて——待ち続けてきたこと。


 全部——全部が、私の中に入ってくる。


 理解した。


 この遺跡は、ただの遺跡ではない。超古代文明の中枢だ。ここから、世界中の巨樹を制御していた。人間を選び、種子に変え、巨樹として世界を覆わせた。


 そして今、その制御権が——私に渡されようとしている。

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