第18話 金色の光
光の中にいた。
あたたかい。息をするたびに、光の粒子が肺を満たしていく。体の輪郭が溶けていく。肌と空気の境目が曖昧になる。どこまでが私で、どこからが光なのか——もう分からなかった。
でも、怖くなかった。
生まれて初めて、怖くなかった。
ずっと感じていた違和感が消えている。教室のガラスの箱。母さんとの見えない壁。世界の底に沈んでいるような感覚。その全部が、嘘みたいに——ない。
ここには、ある。
ここには、私のための空気がある。私のための温度がある。私のための光がある。
——ここが、私の場所だ。
金色の光が体を包んでいく。足元から、指先から、髪の一本一本から。衣服の感触が変わった。綿とポリエステルの制服ではなく、もっと柔らかくて、もっと生きているもの。植物の繊維が肌の上を滑るように纏わりつく。
見下ろすと、自分の体が金色に発光していた。
——綺麗。
こんなふうに自分を綺麗だと思ったことは一度もなかった。誰とも似ていない薄い髪の色を恥じていた。青みがかった灰色の瞳も好きにはなれなかった。でも今、この光の中で、私の髪も瞳もこの場所と同じ色をしている。
私は、ここに属しているのだ。
◇
意識が広がっていく。
体の境界を越えて、もっと遠くへ。光を通じて、遺跡の全体が「見えた」。目で見るのではない。体の内側に、遺跡の地図が流れ込んでくる。
同心円状の都市。結晶の尖塔。中央の巨大な樹——いや、あれは樹ではない。装置だ。超古代文明が作り上げた、生命を制御する装置。
その装置が、今、私に語りかけている。
言葉ではなく、もっと直接的な方法で。骨の奥に響く振動。遺伝子に刻まれた記憶。この場所を作った人々——私の先祖たち——の声。
——おまえは、帰ってきた。
はい、と心の中で答えた。
——おまえは、継承者だ。
……継承者?
——この場所を。この力を。この世界を。おまえは引き継ぐために生まれた。
光が強くなった。温かさが増した。同時に、体の中に何かが注ぎ込まれていく。知識。記憶。力。超古代文明が蓄積した全てが、私の中に——
——受け取れ。
脳が灼ける。
情報の奔流。数千年分の記憶が一気に流れ込んでくる。超古代文明の歴史。彼らが作り上げた生命技術。巨樹の設計図。人間を種子に変換する方程式。世界を覆う植物ネットワークの制御方法。
かつて肉体を持っていた人々が、自らの体を捨てて意識だけの存在になったこと。朽ちかけた世界を再生するために、人間の命を養分として巨樹を育てたこと。そして、その仕組みを動かすために「鍵」となる人間を——世代を超えて——待ち続けてきたこと。
全部——全部が、私の中に入ってくる。
理解した。
この遺跡は、ただの遺跡ではない。超古代文明の中枢だ。ここから、世界中の巨樹を制御していた。人間を選び、種子に変え、巨樹として世界を覆わせた。
そして今、その制御権が——私に渡されようとしている。




