第17話 光の在処
根の回廊が、狭くなっていった。
さっきまでは歩いて通れた隙間が、一歩ごとに身を圧してくる。肩が引っかかる。壁に手をついて体を横にし、少しずつ押し進む。
「うぅ……狭い……」
両側の根は温かかった。脈動していた。その奥に無数の繭が埋まっている。人を飲み込んだ植物の壁。——さっきまでの恐怖は消えていた。代わりにあるのは、奇妙な安堵感。
声が導いている。奥から聞こえる。
暗がりの中に、四角い開口部が見えた。自然にできたものではない。何者かが造った——入口。縁にかすかな光が走っている。
根の壁に体を押し込み、最後の隙間をくぐり抜けた瞬間——
息が、止まった。
目の前に、都市があった。
巨大な地下空洞。天井を覆い尽くす巨樹の根の遥か向こうから、白い光が降り注いでいる。同心円状に広がる街路。崩れかけた建造物の列。苔に覆われた結晶の尖塔が何本も何本も、天に向かって突き出している。
そして都市の中央に——巨大な樹のような構造体が聳え立ち、その頂部から光が溢れ出していた。
「え……!?」
声が漏れた。空洞に反響して、いつまでも消えなかった。
「こ、ここは……何?」
足が勝手に一歩踏み出した。壁面の結晶に、恐る恐る手を伸ばす。触れた瞬間——指先から振動が流れ込んできた。低く、深い共鳴。骨の奥がじんじんと熱を帯びる。
「声が……聞こえる。ここが……HOME?」
呟いた瞬間、空気が変わった。
都市の中央の構造体から、光の筋が蔓のようにゆっくりと伸びている。私に向かって。
「何かが……近づいてくる……」
根が再び通路を形作っていた。でも今度は違った。根が自ら道を開けている。私を通すために。暗い螺旋の回廊が、奥へ奥へと続いている。その先に、金色の光が脈打っていた。
足が吸い寄せられるように回廊を進んだ。一歩ごとに金色が濃くなる。
そして——手のひらの上に、光があった。
金色の球体。拳ほどの大きさ。いつの間にか両手を差し出していて、その上に光が降りてきていた。
「この光……温かい……」
指先から全身に染み渡る温もり。巨樹の幹に触れたときと同じ——いや、もっと深い。もっと私に近い温度。
光を持ったまま顔を上げると、通路の壁の繭が呼応するように脈打っていた。
「もっと種子が……呼んでる、私を……」
足が進む。光の球体を両手に抱えたまま。通路の壁面に、小さな光の球がいくつも灯り始めた。蛍のように。星のように。暗闇が、金色に染まっていく。手の中の光が溢れ出し、腕を伝い、全身を包んでいく。
抗えなかった。抗う気もなかった。
光の奥へ、落ちていった。
第4章 The Orphic Cradle 了




