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やがて、春を知る  作者: マスターオブあんかけうどん


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9/18

9

ランドルフは執務を終え、自室に下がることにした。

既に夜は更け、邸内はおおよそ寝静まっている。


音のない廊下を進み、婚約者の部屋の前を通る。


このところ、彼女の様子が気がかりだった。

婚約者として見事なまでに役割をこなしているが、

どうも近頃はどこか捨て鉢というか、魂が抜けたような静けさがある。

元々物静かな方ではあったが、年相応の振る舞いは見せていたはずなのに。


いつからだっただろう。

頭を巡らせると、どうも義妹からの手紙が届いたあたりからのように思われた。


足を止めて思案にふけっていると、ふと、何かが聞こえた気がした。


――泣いている。


ランドルフは足音を立てないようにして自室へと向かった。


ブレウィンバラの夜は深い。

誰もが夜明けを待っている。



ある日、当主夫妻は社交のために不在で、ランドルフとセリアは二人で昼食をとった。

特に会話らしい会話はないが、二人にとってはこれが常であったし、セリアはこの時間も嫌いではなかった。


「少し歩きませんか」

「はい、ぜひ」


二人は食堂を出て、庭に向かう。

セリアはすっかりランドルフの歩幅を覚えたし、ランドルフもまた、セリアの速さを覚えた。


「こちらのお庭では、秋には何が咲くのですか」

「花のことはよく分かりませんが、麦のことは分かります。一面が黄金色に輝いて、夕日に煌めく様は壮観ですよ」

「早く見たいわ。楽しみですね」


ランドルフはそう言って微笑む婚約者を見て、決意した。


「セリア殿。冬が来る前に一度、フォガンタムへ行きませんか」

「えっ?」

「まだ直接フォガンタムの義父上へご挨拶ができていませんし」

「……そう、ですね」

「父にはもう相談してあります。貴女さえ良ければ、共に」

「承知しました。お供いたします」


婚約者の責務を果たそうということだ。

礼儀を重んじるランドルフが、直接父に挨拶したいというのは頷ける。


ただ、セリアは内心憂鬱だった。

既に心はブレウィンバラに馴染んでいたし、なにより、フォガンタムへ戻ればどうやってもアリスやカーティスと顔を合わせることになる。


避けるようにしてここへ来てしまったし、実のところ、手紙の返事も書いていない。

今更どんな顔をすればいいのか分からなかった。

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