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ランドルフは執務を終え、自室に下がることにした。
既に夜は更け、邸内はおおよそ寝静まっている。
音のない廊下を進み、婚約者の部屋の前を通る。
このところ、彼女の様子が気がかりだった。
婚約者として見事なまでに役割をこなしているが、
どうも近頃はどこか捨て鉢というか、魂が抜けたような静けさがある。
元々物静かな方ではあったが、年相応の振る舞いは見せていたはずなのに。
いつからだっただろう。
頭を巡らせると、どうも義妹からの手紙が届いたあたりからのように思われた。
足を止めて思案にふけっていると、ふと、何かが聞こえた気がした。
――泣いている。
ランドルフは足音を立てないようにして自室へと向かった。
ブレウィンバラの夜は深い。
誰もが夜明けを待っている。
ある日、当主夫妻は社交のために不在で、ランドルフとセリアは二人で昼食をとった。
特に会話らしい会話はないが、二人にとってはこれが常であったし、セリアはこの時間も嫌いではなかった。
「少し歩きませんか」
「はい、ぜひ」
二人は食堂を出て、庭に向かう。
セリアはすっかりランドルフの歩幅を覚えたし、ランドルフもまた、セリアの速さを覚えた。
「こちらのお庭では、秋には何が咲くのですか」
「花のことはよく分かりませんが、麦のことは分かります。一面が黄金色に輝いて、夕日に煌めく様は壮観ですよ」
「早く見たいわ。楽しみですね」
ランドルフはそう言って微笑む婚約者を見て、決意した。
「セリア殿。冬が来る前に一度、フォガンタムへ行きませんか」
「えっ?」
「まだ直接フォガンタムの義父上へご挨拶ができていませんし」
「……そう、ですね」
「父にはもう相談してあります。貴女さえ良ければ、共に」
「承知しました。お供いたします」
婚約者の責務を果たそうということだ。
礼儀を重んじるランドルフが、直接父に挨拶したいというのは頷ける。
ただ、セリアは内心憂鬱だった。
既に心はブレウィンバラに馴染んでいたし、なにより、フォガンタムへ戻ればどうやってもアリスやカーティスと顔を合わせることになる。
避けるようにしてここへ来てしまったし、実のところ、手紙の返事も書いていない。
今更どんな顔をすればいいのか分からなかった。




