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やがて、春を知る  作者: マスターオブあんかけうどん


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10/18

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黄金の稲穂を見届けてから、ランドルフとセリアはブレウィンバラを立った。


来るときはじっと馬車の床を見つめていたセリアだが、今回は窓から景色を楽しんだ。

よくよく見ていれば、進むごとに木の形や道の広さが変わっていく。

伯爵家の馬車は子爵家の馬車より大きく揺れが少ないが、それでも道によって揺れの程度に差があることにも気がついた。


前回より多くの宿場に寄りながら馬を休ませ、時間をかけて行程を進めた。

そうしていよいよフォガンタム領に入り、馬車を降りて辺りを見回す。


不思議な感覚だった。


セリアの記憶よりずっと道が狭く、人と人との距離が近い。

考えてみれば、馬車や馬での移動の経験があまり無かったのはこのせいか。

どこまでも平らで、景色を広く見るような場所はない。


あちらこちらで鉄を叩く音がする。

煙突から上がっているのはパンではなく、鉄を焼く煙だ。


「懐かしいですか」


キョロキョロと視線を彷徨わせるセリアを落ち着かせるように、ランドルフは自分の腕に置かれた手を撫でた。


「はい……いえ、懐かしいというか、なんだか知らない土地のように思えて」

「記憶と違った?」

「……私、本当は何も見ていなかったのかもしれません」


セリアは知らなかったのだ。


土地によってパンの色が違うこと、風の匂いが違うこと。

高いところでは息が切れること。

階段を上り下りしたり、馬に乗ったりすると脚が痛くなること。

立ったまま食べるビスケットが、特別美味しいこと。


「……あなたが改めてフォガンタムの良さに気づいたのであれば、ブレウィンバラへ来ていただいた意義がありました」


思わぬ言葉に、セリアは婚約者を見上げる。

ランドルフはどこか寂しげな瞳でセリアを見ていた。


「ランドルフ様……?」


一体それは、どういう意味ですか?

尋ねようとした言葉は、少女の声にかき消された。


「セリア!」

「……アリス!」


門をくぐり間もなく邸内というところで、片割れが転がるように駆け寄ってきた。

はしたなくて恥ずかしいという気持ちと、引き裂かれた半身と再会した歓喜。


思わず婚約者の腕をすり抜け、セリアも走った。

そして、双子は強く抱擁した。

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