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「娘が大変失礼をいたしました」
「こちらこそ姉君をなかなかお連れできず、お寂しい思いをさせて申し訳なく思っています」
アリスが飛び出したことはフォガンタム子爵にとっても想定外のことで、使用人含めて大変な慌てようであった。
早々に双子は引き離され、子爵は冷や汗をかきながら改めてランドルフを客間へと案内した。
紅茶を飲み、ようやく肩の力を抜いた様子で子爵が場を仕切り直した。
「それにしても、相変わらずのご壮健で安堵いたしました」
「義父上もお変わりなく。ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした」
「そのようなことは。ランドルフ殿もご多忙のことでしょうから」
セリアは、ランドルフと父とは初対面ではないのだな、と不思議に思った。
てっきり当主同士のやり取りで決まった婚約だと思っていたが、そういうわけでもないらしい。
所詮セリアは女ということだろうか。
要するに、男性だけで全てを決めたということだ。
なんとなく面白くなさを感じ、セリアはミルクの入っていない紅茶を飲んだ。
その後も父とランドルフの会話は続き、セリアはそれを聞き流していた。
彼はセリアをよく立てて話してくれたが、父はあまり本気にしてはいないようだった。
その後、客室へと通される。
セリアの自室はもう、この邸にはないのだ。
覚悟していたよりは寂しさはないが、置いていった調度品の行き先は気になった。
懐かしい顔のメイドに声をかけつつ荷解きの指示をしていると、ノックの音がした。
「セリア、今、いい?」
「アリス! 大丈夫? 叱られなかった?」
「とーーーーっても叱られたわ。……だから、抱きしめて」
そう言って、アリスは甘えるようにセリアに抱きついた。
前は同じ香りがしたのに、今はもう違う香りになってしまった。
それでも、抱擁はお互いの溝を埋めるかのように、彼女たちの心を酷く慰めた。
「あのね、中庭にお茶を用意しているの。よかったらお茶にしない? その……婚約者の方もお招きして」
それはランドルフを招くということでもあるし、そして、カーティスを招くということだ。
セリアは一度目を伏せた。
そして小さく息を吐き、もちろん、と微笑んだ。
ランドルフを伴って中庭に向かうと、既に見知った顔がいた。
こちらの姿を認めるとすぐに立ち上がり、握手を求めて手を差し伸べる。
「ブレウィンバラ伯爵が嫡男、ランドルフです」
「アリスの婚約者のカーティスです。お会いできて光栄です」
カーティスは一瞬セリアを見て口元で微笑んだあと、アリスに向かって腕を出した。
そして椅子を引いてアリスを座らせる。
以前と変わらぬはずなのに、不在の間に確かに縮まった距離がセリアの胸を少し焦がした。
ランドルフもまた、セリアをエスコートしてくれる。
改めてカーティスと比べると、壊れ物のようにそっと扱ってくれている。
なんとなく、アリスが揶揄うようにこちらを見ている気がして頬が熱を持つ。
そしてテーブルに用意されたクッキーがローズマリーであることに気がつき、思わず笑みがこぼれた。
自分のものだけ、1枚多い。
そんなセリアの様子を、ランドルフは静かに見ていた。




