12
しばらくの歓談のあと、ランドルフはカーティスを散策へ誘って席を立った。
「ねえセリア、ランドルフ様ってお散歩がお好きなの?」
「違うわ、私たちが二人で話せるようにしてくださったのよ」
「そういうこと! 少し怖い方なのかと思ったけど、お優しいのね」
思い返せば、セリアはランドルフを怖いと思ったことはない。
確かに口数は少ないし表情もあまり変わらないが、それでも不思議と暖かさがある。
目線を動かせば、少し離れたところでカーティスとランドルフが立ち話をしている。
いつもより砕けた様子に、同世代の男性同士だとこうなのだなと、婚約者の新しい一面を見た。
久しぶりの姉妹の会話は止まることがなかったが、晩餐の前に一度解散することにした。
一同は中庭を後にするが、途中、カーティスがそっとセリアに話しかけてきた。
「元気そうでよかった」
「カーティスも」
「うん。君、かなり大切にされているもんな」
「……そうね。とても義理堅い方だから」
「は? 何を言ってるんだ?」
「え?」
どうも会話が噛み合わない。
もう少し話したい気持ちもあったが、あまり妹の婚約者と二人きりで話すものではない。
ランドルフの視線も気になり、セリアは早々に会話を切り上げた。
晩餐には子どもたちにフォガンタム子爵夫妻を加えての大人数となった。
会話が飛び交い、よく食べ、よく笑う。
セリアは久しぶりの柔らかいパンを楽しんだが、ただ、あの硬くて黒いパンと蜂蜜が恋しかった。
すっかり意気投合したのか、食後はまたランドルフとカーティスが二人で何やら話し込んでいる。
少し寂しいような気持ちもあったが、アリスがセリアの側にいたがったこともあり、今はこの時間を楽しむことにした。
フォガンタムの街は夜でも多くの火が灯る。
溶かした鉄を保つために、昼夜問わず火を絶やさない工房があるためだ。
寝支度を整えたもののまだ眠気が来ず、セリアはバルコニーで涼むことにした。
「眠れませんか」
なんとなく、来るだろうと思っていた。
ランドルフはいつもセリアを独りにはしない。
「ランドルフ様も?」
「こちらは夜でも明るいので」
手すりに身を任せ、夜風を楽しむ彼の横顔を観察する。
湯を使ったのか、常とは異なり前髪で額が隠れている。
こうすると案外に幼いのだな、と。
セリアはまた一つ、婚約者の新たな顔を見つけた。
「……顔に何かついていますか」
「いいえ。婚約者の顔を眺めていただけです」
ランドルフが口元に手をやる。
視線を彷徨わせたあと、セリアの方に向き直った。
「セリア殿、お話ししたいことがあります」
「はい」
「先ほどカーティス殿から指摘を受けました。貴女が、何か誤解をしているようだと」
「誤解?」
セリアは催促するように目の前の婚約者を見つめ返した。
「以前にもこちらへ来たことは既にお話ししました。そのときに、貴女と妹君をお見かけしたことも」
「はい」
「その、このようなことを言うと気味が悪いと思われるかもしれませんが」
そういってランドルフは目を伏せた。
額が見えていないこともあるのか、彼にしては自信が無さそうな、まるで少年のような顔をしている。
「そのときに、私は貴女に惹かれました」
「えっ?」
「もちろん貴女を美しいと思いました。ただ、そうではなくて」
ランドルフはそこで言葉を切った。
言葉を探しているようでも、口にするのを躊躇っているようでもある。




