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その日、ランドルフは初めてフォガンタム領を訪れていた。
父に代わって日用品から農具、武具まで、あらゆるものを買い付けなくてはいけない。
物の価値と相場を知り、目利きを鍛えるために与えられた仕事だ。
想像よりは小さな街だが、どの工房で何を頼めるかを訪ね歩く必要がありそうだ。
ランドルフは身分を隠すために身なりを変え、腹に力を入れてから宿を出た。
あちらこちらから鉄を叩く音がする。
火を扱うからなのか、単に気候が違うのか、どうも暑い。
日差しの強さにも慣れない中、ランドルフはあちこちの工房を覗いては品物を吟味した。
しばらくの後、少し歩き疲れたので適当な日陰で立ち止まっていると、賑やかな声が聞こえてきた。
何の気なしに視線を向けると、身分の高そうな女性たちが人々に囲まれていた。
「姫様方! 今日はどちらまで?」
「そうね、どうしようかしら」
「新しい髪飾りを作ったんです。ぜひ見て行ってください」
「素敵! 絶対に見たいわ!」
「あとでうちにも寄ってってくださいよ!」
「約束するわ」
噂には聞いたことがあった。
フォガンタム子爵には双子の娘がいて、どちらも美しいと。
恐らく彼女たちがそうなのだろう。
確かに二人とも美しい髪を持ち、健康そうだ。
だがランドルフは仕事の方が気がかりだったし、それ以上の興味は持てなかった。
人混みを避けるため、彼女たちが向かうのとは反対に進むことにした。
いくらフォガンタムの日は長いとはいえ、あちこちを回ればさすがにそれも沈み始める。
今日のところはここで最後にしようと、農耕具を扱う工房へ向かう。
朴訥とした職人は気前がよく、既に完成している道具をいくつも見せてくれた。
どのような作物を作るのか、土の固さ、雨の量。
そういったことを聞き取り、必要であれば形どころか鉄の硬さまで調えてから納めてくれるという。
これこそが鍛治の街。
本物の職人の仕事に触れ、ランドルフはその表情には出ないながらも感激していた。
そうして必要な話を終えた頃、細くも芯のある声がした。
「ご熱心ですね」
振り返ると、双子の片割れだった。
柔らかな色の瞳の、まだ少女の顔をした娘だ。
「突然ごめんなさい。私は領主の娘なので、お気持ちが嬉しかったのです」
「こちらの職人は噂通りの素晴らしい腕ですね」
「光栄ですわ。どちらからいらしたのですか?」
「北方から。主人の言いつけで農具の入れ替えに」
「そうでしたか。北の土は乾燥しやすくて、少し硬いのでしょう?」
よもやそのような方向に話がいくとは思っておらず、ランドルフは面食らった。
「驚きました。お嬢様がそのようなことをご存知とは」
素直に驚きを伝えると、少女は照れたように笑った。
「当然です。道具は使うためにあるのですから」
「それは……その通りですね」
そして彼女は胸を張った。
「きっとこの農具たちが、あなたの地の民を守ります」
ランドルフは胸を打たれた。
その後何を話したのか、既に気もそぞろになっていて記憶が薄い。
気づけば少女は去っており、唯一、かろうじて名だけは尋ねておいた己を褒めた。




