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「私はその情の深さと気高さに感銘を受けました。そして貴女ならきっと、あの寒く暗い、痩せた地でも愛してくださると確信した」
「お、お恥ずかしいわ。私、まるで記憶になくて」
「貴女にとっては特別な会話ではなかったのでしょう」
セリアは初めて、自分を見るランドルフの瞳の温度に気がついた。
「そして私は急ぎ父に繋ぎをとり、フォガンタム子爵に面会を申し入れました」
「父に?」
「貴女を妻に迎えたいと直談判するためです」
「えぇっ!?」
果たして、こんな澄ました顔でとんでもないことを言っている自覚はあるのだろうか。
セリアはランドルフのことが分からなくなってきた。
理知的でいつでも落ち着いていて、どちらかというと万事ゆったりと動く印象だったのが、音を立てて崩れていく。
「当然、義父上は非常にお困りのご様子でした。ご迷惑は承知していましたが、私はどうしても貴女をブレウィンバラへお迎えしたかった」
「そんなこと、父は一言も話してくれませんでした」
「それは……」
ランドルフは怪訝な顔をしたが、すぐに思い至ったようで、申し訳なさそうにセリアを見た。
「あぁ、なるほど。どうやら私はお義父上も誤解させてしまったようです」
「誤解?」
「昼にお話ししているときにも何かが妙だとは思っていました。お義父上は、私と貴女がもともと交流があったように思われているのかもしれません」
「そんなばかな」
「確かに初めて子爵とお会いしたとき、貴女と実際にお話しして強く惹かれたことを訴えました。ただ、私が身分を隠していたことまではお話ししなかったと思います。何しろ気が急いていたというか、必死だったというか……」
ランドルフは己の言葉足らずにすっかりしょげているようだが、どう考えても父の早合点が悪い。
つまり父は、二人は既に見知った仲で、その上でランドルフがセリアに惚れ込んで婚姻を望むに至ったと誤解しているということだ。
あまりの有り得なさに頭痛がするものの、いきなり名門伯爵家の嫡男が乗り込んで来て娘を寄越せと言い出したとあれば少々の同情は覚えるし、その混乱ぶりも想像がつく。
だが、それが本当だとしたら。
父は双子のどちらでも良いからとセリアを差し出したわけではなく、
「はじめから、私を……?」
小さく頷き、そしてランドルフは一歩、セリアに近づいた。
「申し訳ありませんでした」
「え?」
「私が貴女に婚約を申し込んでしまったばかりに、カーティス殿との縁談を壊してしまいました」
「あ、いえ、カーティスと私は婚約関係にあったわけでは」
「ですが貴女は、彼とこの地を守る覚悟だった」
「それは……」
「貴女にその覚悟を捨てさせてしまったのだと、カーティス殿と話して理解しました。本当に、申し訳ありませんでした」
ランドルフの静かな瞳が揺れている。
色の薄い髪は月が透けて光り、夜風に舞う。
「それでも私は、貴女を諦めることはできません」
セリアはその淡い光に、ブレウィンバラの夜を見た。
初めて自分から婚約者の手を取る。
薄くて大きなそれから緊張と期待とを感じとり、セリアは笑った。




