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それからは穏やかな日々だった。
義母はなにくれと義娘の世話を焼き、教え、時に諭した。
伯爵夫人として、その自尊心の低さを許さなかった。
ランドルフは暇を見つけては婚約者を散歩へ連れ出した。
時には馬に同乗させることがあり、初めて馬に乗った夜、セリアは身体の痛みに苦しんだ。
翌朝のぎこちない歩き方を見て、ランドルフが密かに笑ったことを見逃さなかった。
恨めしげに睨む婚約者を、さらに笑ったことも。
街の人々との交流も繰り返してきた。
ランドルフと共に歩けば、人々は声を掛けてくる。
おいしそうな食べ物を差し出され、セリアは初めて立ったまま物を食べた。
もらったものを断れずに全て食べ、夕食に差し支えて叱られたことがある。
途中で止めなかったことでランドルフまで叱られていて申し訳なく思ったが、本人は特に気にしていない様子だった。
ただし苦言を呈しながらも義母は笑いを堪えきれてはいなかったし、
義父からは一言、次からは持ち帰りなさいと言われた。
ブレウィンバラ一家は真面目で、余計なことはせず、贅沢を好まない。
だが日々を慈しみ、静謐で、他人を尊重した。
季節はもう夏になり、緑の麦穂が風にそよぐ音が聞こえる。
一通の手紙が届いた。
そういえば、無事に到着したことを報告する手紙を父に出して以来、実家への連絡を怠っていた。
自分も大概情が薄いのだなと、セリアの胸に苦いものが広がった。
ブレウィンバラ邸には南向きの温室がある。
陽光を集めるための部屋で明るく暖かいので、セリアはすぐに気に入った。
いつもはそこで本を開くのだが、今日は違う。
「手紙ですか」
しばらくするとランドルフが現れ、自然な仕草でセリアの隣に座る。
「はい。妹から。息災にしているようです」
父も母も変わりなく過ごしていること、度々ローズマリーのクッキーを焼いてもらうこと、その度にセリアに会いたくなること。
そして、なんとかカーティスとうまくやっていること。
全てが綴られていた。
もしこれがカーティスの話題を避けた手紙であったら、きっと穏やかではいられなかっただろう。
妹は全て分かっていて、きちんと手紙に認めたのだ。
読み終えたことを察したのか、隣に座って紅茶を飲んでいたランドルフがポツリと話し出した。
「実は以前、フォガンタムへ行ったことがあります」
「まぁ。そうでしたか」
「ここは砦でしたし、今でもその機能自体は残っています。フォガンタムは鍛治が盛んですから」
思い返すような間があった。
ランドルフの視線が紅茶を離れ、セリアに向かう。
「そこで、あなたを見ました。妹君と共に街に降りていらした」
「……!」
「領民たちが姫様、姫様と。大きな声で話しかけては、皆で笑っていた」
「なんだかお恥ずかしいわ。ブレウィンバラに比べたら、少々粗野な気風ですから」
「いえ、皆明るく快活で。驚くばかりでした」
息を漏らすように、ランドルフは小さく笑った。
そしてもう一度紅茶を飲んだ。
「これほど領民たちに愛されているのならば、きっと素晴らしい方たちだろうと思いました」
「……ありがとうございます。妹も、きっと喜びますわ」
この時、ランドルフは違和感を覚えた。
いつも通りに微笑んだセリアだったが、何かが。
しかしすぐに領地の話が続き、確認する間もなく薄れていった。




