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夜には一家揃っての晩餐に招かれた。
セリアはあまり好き嫌いが多い方ではないが、幸いにも食事が口に合いそうなことには胸を撫で下ろした。
当主は多忙で、食事の席を不在にすることも多いそうだ。
口数は多くないが、家族を丁寧に扱う義父に好感を抱いた。
義母は家族の潤滑油のようで、よく喋るが決して騒々しくはない。
男ばかりの一家に娘が増えたことが嬉しくてたまらないらしい。
次男、三男は既に家を出ており、構う相手ができたことが楽しいのかもしれない。
ランドルフは義父以上に口数が少ない。
黙々と食事を進めているが、話はきちんと聞いているらしい。
小さく頷いたり、軽く目を見開いたり、父と目を合わせたり。
言葉より仕草が雄弁らしいので、セリアは今後、彼のことをよく見ていなくてはならないだろう。
食後の時間は解散となり、与えられた自室に下がった。
初日の動きとしては上々だったのではなかろうか。
ブレウィンバラはフォガンタムに比べると日が短く、また夜は冷える。
セリアは初めて見る湯たんぽに温められながら、溶けるように眠った。
翌朝、セリアはメイドに声をかけられてから目を覚ました。
元々寝起きの悪い方ではないが、ブレウィンバラはあまり陽の光が強くない。
邸内に大きな窓が多い気がしていたが、土地に合わせた工夫なのだろう。
朝日の強さで目を覚ました日々が、少しだけ胸を焦がした。
着替えて食堂へ向かうと、ランドルフが朝食をとっていた。
「おはようございます」
「よく眠れましたか」
「はい、おかげさまで」
ランドルフは基本的に口を開くことはなく、セリアもまた、無駄口は叩かなかった。
静かな時間が流れる。
ブレウィンバラのパンは色が濃く、少し酸味があって硬い。
けれど蜂蜜は甘くてやさしいし、バターは温められていて塗りやすい。
紅茶も濃くて香りが強いが、ミルクも濃厚なので丁度よくなるようだ。
食事を楽しめるありがたさを実感していると、声がかかる。
「セリア殿、今日のご予定は」
「特にこれといったものは。荷解きと、お義母様のご指示を仰ごうと思っていました」
ほんの一瞬、ランドルフは考えるように視線を下げた。
が、すぐにセリアと目を合わせ直した。
「ではこの後、時間をいただけますか」
「もちろん。何をいたしましょう」
「少しだけ散歩を。あぁ、服はそのままで構いません」
「ありがとうございます」
気の利く人だ。
セリアが何を気にしたのかをすぐに察したのだろう。
一度自室に戻って支度を整え、玄関へと向かう。
ランドルフは既に待っていて、セリアの姿を認めると腕を差し出した。
門を出て、少し歩く。
息が上がるほどではないが、標高が高いせいで少し苦しい。
ランドルフは明らかにセリアに合わせて歩いてはいるが、脚が長いためにそもそもの歩幅が広い。
二歩でなんとか彼の一歩に追いつけそうだ。
「すみません、歩かせすぎてしまいました」
「私も慣れずに申し訳ありません。もっと歩くようにしなくてはいけませんね」
「では、散歩の時間をとりましょう。こちらでは案外歩くことが多いので」
しばらく進むと、開けた丘に出た。
「セリア殿、こちらへ。足元に気をつけて」
そう言って手を引くと、一番高い位置に二人並んで立つ。
「まぁ……!」
そして見えたのは、ブレウィンバラの領地だった。
澄み切った空の下、遠くには青く霞むように山嶺が見える。
中心部には整った街道に沿うように家々が並び、人々の営みが見える。
少し向こうにあるのは、麦畑だろうか。
今はまだ広大な土地が整えられているだけだが、秋には黄金の麦穂が風にそよぐのだろう。
「元々、ここは砦でした。今は城壁もなく、商業が栄え、農地も増えました」
「歴史のある土地なのですね」
「ここが、私たちが守る地です」
静かな声だった。
セリアは、婚約者の少し鋭さのある横顔を見上げた。
そしてもう一度、焼き付けるようにこの景色を一望した。




