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やがて、春を知る  作者: マスターオブあんかけうどん


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6


夜には一家揃っての晩餐に招かれた。

セリアはあまり好き嫌いが多い方ではないが、幸いにも食事が口に合いそうなことには胸を撫で下ろした。


当主は多忙で、食事の席を不在にすることも多いそうだ。

口数は多くないが、家族を丁寧に扱う義父に好感を抱いた。


義母は家族の潤滑油のようで、よく喋るが決して騒々しくはない。

男ばかりの一家に娘が増えたことが嬉しくてたまらないらしい。

次男、三男は既に家を出ており、構う相手ができたことが楽しいのかもしれない。


ランドルフは義父以上に口数が少ない。

黙々と食事を進めているが、話はきちんと聞いているらしい。

小さく頷いたり、軽く目を見開いたり、父と目を合わせたり。

言葉より仕草が雄弁らしいので、セリアは今後、彼のことをよく見ていなくてはならないだろう。


食後の時間は解散となり、与えられた自室に下がった。

初日の動きとしては上々だったのではなかろうか。


ブレウィンバラはフォガンタムに比べると日が短く、また夜は冷える。

セリアは初めて見る湯たんぽに温められながら、溶けるように眠った。



翌朝、セリアはメイドに声をかけられてから目を覚ました。


元々寝起きの悪い方ではないが、ブレウィンバラはあまり陽の光が強くない。

邸内に大きな窓が多い気がしていたが、土地に合わせた工夫なのだろう。


朝日の強さで目を覚ました日々が、少しだけ胸を焦がした。


着替えて食堂へ向かうと、ランドルフが朝食をとっていた。


「おはようございます」

「よく眠れましたか」

「はい、おかげさまで」


ランドルフは基本的に口を開くことはなく、セリアもまた、無駄口は叩かなかった。

静かな時間が流れる。


ブレウィンバラのパンは色が濃く、少し酸味があって硬い。

けれど蜂蜜は甘くてやさしいし、バターは温められていて塗りやすい。

紅茶も濃くて香りが強いが、ミルクも濃厚なので丁度よくなるようだ。


食事を楽しめるありがたさを実感していると、声がかかる。


「セリア殿、今日のご予定は」

「特にこれといったものは。荷解きと、お義母様のご指示を仰ごうと思っていました」


ほんの一瞬、ランドルフは考えるように視線を下げた。

が、すぐにセリアと目を合わせ直した。


「ではこの後、時間をいただけますか」

「もちろん。何をいたしましょう」

「少しだけ散歩を。あぁ、服はそのままで構いません」

「ありがとうございます」


気の利く人だ。

セリアが何を気にしたのかをすぐに察したのだろう。


一度自室に戻って支度を整え、玄関へと向かう。

ランドルフは既に待っていて、セリアの姿を認めると腕を差し出した。


門を出て、少し歩く。

息が上がるほどではないが、標高が高いせいで少し苦しい。


ランドルフは明らかにセリアに合わせて歩いてはいるが、脚が長いためにそもそもの歩幅が広い。

二歩でなんとか彼の一歩に追いつけそうだ。


「すみません、歩かせすぎてしまいました」

「私も慣れずに申し訳ありません。もっと歩くようにしなくてはいけませんね」

「では、散歩の時間をとりましょう。こちらでは案外歩くことが多いので」


しばらく進むと、開けた丘に出た。


「セリア殿、こちらへ。足元に気をつけて」


そう言って手を引くと、一番高い位置に二人並んで立つ。


「まぁ……!」


そして見えたのは、ブレウィンバラの領地だった。


澄み切った空の下、遠くには青く霞むように山嶺が見える。

中心部には整った街道に沿うように家々が並び、人々の営みが見える。


少し向こうにあるのは、麦畑だろうか。

今はまだ広大な土地が整えられているだけだが、秋には黄金の麦穂が風にそよぐのだろう。


「元々、ここは砦でした。今は城壁もなく、商業が栄え、農地も増えました」

「歴史のある土地なのですね」

「ここが、私たちが守る地です」


静かな声だった。

セリアは、婚約者の少し鋭さのある横顔を見上げた。

そしてもう一度、焼き付けるようにこの景色を一望した。

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