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カーティスは自身の婚約が調ったと聞き、いよいよかと思った。
翌日、実父の遣いをかねてフォガンタム邸を訪れ、未来の義父に挨拶してから中庭に向かう。
双子がいるだろうと思っていたが、そこにいたのはセリアだけだった。
いつも通りお茶の用意はされているのに、彼女は真っ白な顔色で立ちすくんでいる。
普段は綺麗にまとめている髪も下ろしたまま、服もとりあえず着ただけのようだ。
「セリア」
「カーティス……」
「顔色が悪い。座った方がいいんじゃないか」
「婚約の件、聞いた?」
「もちろん。俺はアリスと結婚するんだろ」
「あなたはそれでいいの……?」
カーティスは何を聞かれているのか分からなかった。
「だって決めるのは俺たちじゃない。俺はお父上がセリアだと言えばセリアと、アリスだと言うならアリスと結婚するだけだよ」
「そんな言い方……」
「どうしたんだよ、セリア。君はあのブレウィンバラに嫁入りするんだろ? すごいじゃないか!」
「ど、どうしてあなた、そんなに平気そうなの?」
「いや、セリアは何にそんなに戸惑っているんだ?」
二人の会話はまるで平行線だった。
何かがおかしい。
セリアはだんだん、平静を保つことが難しくなっていた。
「だって、私、ずっと貴方と結婚するんだって思ってた。貴方と二人で、この家を守っていくんだって」
「それは俺もそう思っていたよ」
「じゃあなぜ!? なぜ貴方はそんなに落ち着いていられるの!?」
とうとう声が大きくなってきたセリアに、カーティスは恐れすら感じていた。
こんなにも感情をむき出しにする彼女は初めてだった。
「お、落ち着けって。どうしちゃったんだよ」
「貴方と結婚するのは私だって、みんな思っていたはずでしょう!?」
鬼気迫るセリアの勢いに気圧される。
一体、彼女はなぜこんなにも取り乱しているのだ。
「いや、俺だってずっとセリアなのかなと思ってはいたよ。でも、アリスだって言われたら、あぁそうなのかと思うだけだよ」
セリアは絶句した。
そして数秒かけてカーティスの言葉を咀嚼したあと、震える声で呟いた。
「どちらでも構わなかったってこと……?」
セリアの顔から表情がごっそりと抜け落ちた。
すがるように伸ばしていた手も、宙に浮いたまま二人の間で止まっている。
カーティスは自身の失言に気づいてはいたが、ただ、間違ったことを言ったとは思わなかった。
事実、ハッキリと自分の相手がセリアだと言われたことなど、これまで一度もなかったのだから。
「セリア、君と俺とは別に恋仲だったわけじゃない。君だって俺に恋をしていたわけでもないだろ?」
「わ、私は、貴方を夫になる人だと思って見てきたわ。愛情だってある」
「俺だって君に愛情はある。きっと良い奥さんになるってずっと思っていた」
「じゃあ!」
また過敏に反応したセリアを抑えるように、カーティスは彼女の両肩に手を置いた。
そして、幼い子供に言い聞かせるように言葉を続ける。
「でも、それはアリスだって同じだよ」
セリアの瞳から涙がこぼれた。
カーティスはあえてそれを拭うことはしなかった。
彼はもう、その資格を持っていない。
「俺にとってはアリスだって奥さんになる可能性がある女の子で、君と同じくらい、良い家族になれると思っているよ」
セリアはいよいよ立っていられなくなった。
裾が汚れようが、構わず芝生の上に座り込む。
呼吸が浅い。
今自分が息を吸っているのか吐いているのかすら分からない。
カーティスが何か言っているが、もう言葉には聞こえない。
周囲が騒がしい気がする。
でも、何も見えない。何も聞こえない。
水の中に沈んでいくように、セリアの意識は遠のいていった。
次にセリアが目を覚ましたのは自室のベッドだった。
父が枕元で何か言っているが、頭の中に霧がかかったようで理解できない。
諦めたように父が出て行くと、入れ替わりにアリスが入ってくる。
何かを話しかけてきたが、やはり音でしかない。
すすり泣きが聞こえる。
泣いているのは妹なのか自分なのか。
セリアにはもう、何も分からなかった。




