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やがて、春を知る  作者: マスターオブあんかけうどん


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3/18

3

カーティスは自身の婚約が調ったと聞き、いよいよかと思った。


翌日、実父の遣いをかねてフォガンタム邸を訪れ、未来の義父に挨拶してから中庭に向かう。

双子がいるだろうと思っていたが、そこにいたのはセリアだけだった。


いつも通りお茶の用意はされているのに、彼女は真っ白な顔色で立ちすくんでいる。

普段は綺麗にまとめている髪も下ろしたまま、服もとりあえず着ただけのようだ。


「セリア」

「カーティス……」

「顔色が悪い。座った方がいいんじゃないか」

「婚約の件、聞いた?」

「もちろん。俺はアリスと結婚するんだろ」

「あなたはそれでいいの……?」


カーティスは何を聞かれているのか分からなかった。


「だって決めるのは俺たちじゃない。俺はお父上がセリアだと言えばセリアと、アリスだと言うならアリスと結婚するだけだよ」

「そんな言い方……」

「どうしたんだよ、セリア。君はあのブレウィンバラに嫁入りするんだろ? すごいじゃないか!」

「ど、どうしてあなた、そんなに平気そうなの?」

「いや、セリアは何にそんなに戸惑っているんだ?」


二人の会話はまるで平行線だった。

何かがおかしい。

セリアはだんだん、平静を保つことが難しくなっていた。


「だって、私、ずっと貴方と結婚するんだって思ってた。貴方と二人で、この家を守っていくんだって」

「それは俺もそう思っていたよ」

「じゃあなぜ!? なぜ貴方はそんなに落ち着いていられるの!?」


とうとう声が大きくなってきたセリアに、カーティスは恐れすら感じていた。

こんなにも感情をむき出しにする彼女は初めてだった。


「お、落ち着けって。どうしちゃったんだよ」

「貴方と結婚するのは私だって、みんな思っていたはずでしょう!?」


鬼気迫るセリアの勢いに気圧される。

一体、彼女はなぜこんなにも取り乱しているのだ。



「いや、俺だってずっとセリアなのかなと思ってはいたよ。でも、アリスだって言われたら、あぁそうなのかと思うだけだよ」


セリアは絶句した。

そして数秒かけてカーティスの言葉を咀嚼したあと、震える声で呟いた。


「どちらでも構わなかったってこと……?」


セリアの顔から表情がごっそりと抜け落ちた。

すがるように伸ばしていた手も、宙に浮いたまま二人の間で止まっている。


カーティスは自身の失言に気づいてはいたが、ただ、間違ったことを言ったとは思わなかった。

事実、ハッキリと自分の相手がセリアだと言われたことなど、これまで一度もなかったのだから。


「セリア、君と俺とは別に恋仲だったわけじゃない。君だって俺に恋をしていたわけでもないだろ?」

「わ、私は、貴方を夫になる人だと思って見てきたわ。愛情だってある」

「俺だって君に愛情はある。きっと良い奥さんになるってずっと思っていた」

「じゃあ!」


また過敏に反応したセリアを抑えるように、カーティスは彼女の両肩に手を置いた。

そして、幼い子供に言い聞かせるように言葉を続ける。


「でも、それはアリスだって同じだよ」


セリアの瞳から涙がこぼれた。

カーティスはあえてそれを拭うことはしなかった。

彼はもう、その資格を持っていない。


「俺にとってはアリスだって奥さんになる可能性がある女の子で、君と同じくらい、良い家族になれると思っているよ」


セリアはいよいよ立っていられなくなった。

裾が汚れようが、構わず芝生の上に座り込む。


呼吸が浅い。

今自分が息を吸っているのか吐いているのかすら分からない。

カーティスが何か言っているが、もう言葉には聞こえない。


周囲が騒がしい気がする。

でも、何も見えない。何も聞こえない。


水の中に沈んでいくように、セリアの意識は遠のいていった。



次にセリアが目を覚ましたのは自室のベッドだった。

父が枕元で何か言っているが、頭の中に霧がかかったようで理解できない。


諦めたように父が出て行くと、入れ替わりにアリスが入ってくる。

何かを話しかけてきたが、やはり音でしかない。


すすり泣きが聞こえる。

泣いているのは妹なのか自分なのか。


セリアにはもう、何も分からなかった。

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