8話 カナリデの思い
時刻は朝の3:52。職業勇者の試練まで残り00:08:00。
自分は傷が痛くて何もできない。ずっと座ってるだけだ。不甲斐ない。
ヤヤーンの一匹が目の前に現れた。俺は抵抗することなくぼーと眺めた。
ヤヤーンからぎゃあああと飛び掛かられると同時にバサリとヤヤーンは後から切られた。
「何故逃げないのですか!?」
「…………」
「次はちゃんと逃げるなり私を呼ぶなりしてくださいね」
……ふっ……俺ってば死ねないのかな……。
カナリデはヤヤーンを纏めて串刺しにするなどして倒しまくっている。
Lv1→Lv2
今表示がありレベルが上がった。
「君のレベルは上がってないか……」
「ん……? あの――」
「俺のレベルは2になった。ま、微々たる差か。ステータスは……見ても分かんないや」
「……」
カナリデよく眠くないな。
「眠くないの?」
「昼寝! してしまっていたので!」
敵を倒しながら答えてくれた。……一通り敵も片付いた。
時間も残りわずかとなった。
強制転移か……パーティー登録していたらあの子も巻き込んでしまうのか。流石にこれまでだ。
解除できるか試してみる。
俺はパーティ欄を弄ってみる。
《カナリデ・ホンナーアとパーティを解除しました》
「あ」
できた。
向こうにも表示がいったようだった。カナリデがずしずしとこちらに駆け足でくる。
「戻してください戻してください……」
その目からは涙が流れていた。俺は驚いてたじろぐ。
「でも……」
「私は村の皆の分まで役に立ちたいんです」
「村?」
「……私のことをお話します……」
◆◆◆
1年前の話です……まだ1年前です……まだ私に天使の輪がなかった頃。
「お母さん手伝いますよ」
「あらありがとう」
ココナタ村と言う発展している訳でもないし小さいけどのどかで気持ちの良い所に住んでいた私、カナリデ・ホンナーア16歳は楽しく過ごしていた。
数は多くないが村の人たちも私に良くしてくれる。
時間は朝、父が私に話し掛けてきた。
「カナリデ、これからは村の手伝いとして畑やら料理店のアシスト、お世話になってる売店の店員とかしたいんだって……ちょっと多くないか?」
「いいんです! 私モンスターみたいなエネミーを倒したりとかはできないからこういうことで役に立ちたいんです!」
「そう言って働きすぎて倒れるなよ」
「分かってますよ」
そして、私はこの歳だが母のお腹は膨れていた。
「その時は妹に助けてもらっちゃいますも〜ん!」
「あ! それいいなー」
父も悪ふざけでそう言う。私と父は母のお腹に笑顔で近づく。
「急に近づかれると心臓に悪いし話をこっちにいつも持ってきすぎ、疲れる」
「あ、はい……」
「はい……」
父と私は母の機嫌を素早く察知しその場から離れた。
◆◆◆
そしてその日が来た。
それはなんてこと無いただただ普通に過ごしていた時。
家の中、広間で。
ピーーンと体中から力が溢れ出てくるように体が圧倒的に強くなっていった。
「え? なにこれなにこれなにこれ!!」
私の騒ぎを聞きつけ父と母が駆けつけてくる。
「お父さんお母さんなんか体変なんです!」
「おい……カナリデ頭になんかあるぞ」
父は私の頭の上に指を差した。
私は急いで鏡を見た。
すると、私の頭上に天使の輪が出ていた。
「ええええ!!!!」
そして家は皆で慌て、村の人にも聞き周りこのことを調べた。
天使の輪。種類が天使のものだけが付く物。
別にそこまでは良かった。
調べてる最中にアレは起こってしまった。
「「「「ズドーーーーーーーーーンッ!!!!」」」」
物凄い衝撃と揺れを起こし光の柱が村を包んだ。
そして私の村は……村の人は、消えてしまった。
衝撃過ぎて頭の整理が追いつかなかった。
後に分かったことだが、天使になるとその周りの村は生贄として謎の大きな光によって消失させられる。その光は永続的なものだった。
そう、消えたのは私の村だけではない……。
村を管理する国で大量の資産、人を消した罪が課せられた。
光の柱が数十年の間に2回以上も撃たれた記録はないが、天使が生きている限りまた来るため国に残すことはできず私は反抗できないように奴隷落ちを言い渡され国外追放とされた。それが死刑にされない妥協案だった。
何処かの国で良い主人に巡り合えれば良い人生となれるだろうと望みを託されて――。
◆◆◆
「私は消えた村を探したい。誰かの役に立って村の皆に報いたいんです!!」
俺はカナリデの話を聞いていた。
00:01:01、00:01:00、00:00:59……。
残り時刻も回ってきていた。
「あなたは選ばれた人です! 私は邪魔になるかもしれないし从ニの目的の隔たりにもなるかもしれませんが……あなたの力を、どうか私に貸してください!!!」
…………。
俺はパーティ登録ボタンのウィンドウを目の前に出していた。
その画面を眺める。
00:00:21、00:00:20、00: 00 :19……。
「俺の力ね……」
◆◆◆
高校へ入学したての頃。俺の噂は既に伝わっていて各々のグループができ始めていた時。グループの1人の男が輪に入ろうとした俺に言った。
「俺は仲間を大事にするんだ。お前みたいな友達も作らず大事にしない奴は嫌いなんだよ」
「……作らなかったんじゃなくて……できなかったんだ……」
「同じだろ! 後俺言い訳する奴も嫌い。仲間が言ってたお前とは関わるなって、なら俺はそうする。仲間を信じられない奴は何も信じられないクズだから。俺は仲間を信じる」
そこから俺は何も言えなかった。言うのがどうでもよくなった。
◆◆◆
忘れていた。
仲間……嫌いな言葉だ。
第一仲間を大事にするってわざわざ口に出して言う奴は、仲間以外を大事にしないと言っているようなものだ。
全ての人を大事にしろとは言わないが、大半の人間を大事にしないんだ、仲間だってその時は大事にするんだろうが何か大きなことが起これば直ぐ縁を切るだろう……そんな関係……俺はいらない。
「俺は君の力にはなれない――」
00:00:00
俺の目の前の景色はギュンっと変わり姿は消えた。一瞬見えたカナリデの表情が、痛い程に気持ちが伝わってくる訴える目線を向けながら落胆していたように見えた。
俺は登録ボタンを、押さなかった……。




