魔力の暴走
第五話 力の暴走
雪斗は、両手を広げ、大の字になってヴァイスを背後に、仁王立ちし、メンデルを睨んでいた。
「『キー・トリガーパーソン』……姫を殺してからお相手しようと思っていましたが、自ら出てくるとは、手間が省けましたよ」
メンデルは、不敵な笑みを浮かべている。
「ヴァイス、大丈夫?」
「雪斗、その力は……また?」
「やっと分かったんだ。これは零番目鍵、『ゼロディグリーシールド』だよ」
雪斗がこれまで、咄嗟に使ってきた蒼い盾を顕現する魔法は、雪斗が『キー・トリガーパーソン』になると同時に習得していたものだった。
名を『ゼロディグリーシールド』という、冷気によってあらゆるものを凍らせ、無に帰す魔法だった。
「ヴァイス、ここまで奴を攻めてくれてありがとう。ここから先は僕が戦うよ!」
「一人だけいい格好させねぇぞ、雪斗!」
勇二が雪斗の横に並んだ。
「オレも戦うぜ」
「勇二くん。そうだね、力を貸して」
「はっ、言われるまでもねぇっての!」
勇二が先攻を仕掛けた。
「ライトニング!」
勇二は、雷撃で先手を取った。青い稲妻がメンデルに迫る。
「ふん、この程度の電撃……!」
メンデルは、ブラッドブレードで勇二の雷撃を受け止めた。攻撃を受け止めたことにより、ブラッドブレードの切れ味は更に増した。
「アイシクル!」
雪斗は、メンデルの攻撃する隙を与える間もなく、つららを放った。
「無駄だ無駄だ、それ!」
メンデルは、つららを断ち斬った。
「死になさい、『キー・トリガーパーソン』!」
メンデルは、つららを斬った勢いそのままに、雪斗へと斬りかかった。
「ライトニング!」
「ちぃ……!」
勇二の稲妻によって、メンデルは後退を余儀なくされた。
雪斗と勇二、一人一人の攻撃はそれほど強くはないが、合わされば厄介だとメンデルは思った。
「……正直、お二人の力を甘く見ていましたよ。ここから先は容赦しません。本気の本気でお相手いたしましょう!」
メンデルは、雪斗たちに襲いかかった。
「ライトニング!」
勇二は稲妻を放つ。
「もうこれ以上同じ手は食らいませんよ!?」
メンデルは、雷が落ちる瞬間を狙ってジャンプした。しかし、この行動は仇となった。
「アイシクル!」
空中では自由が効かず、メンデルは雪斗のつららをまともに受けた。
「ぐああ!」
メンデルは、地に叩きつけられた。
「チャンスだ! 行くぜ雪斗!」
「うん! ん……?」
追撃しようとした雪斗の心に、白界の刺客、ガロンと戦った時のように、声がした。
(汝、新たなる力を得たり)
雪斗も大きな魔法が自身の中に渦巻いているのを感じた。
(これが、僕に宿っている力……!?)
雪斗は、その大きな力に、驚きを隠せなかった。
(汝、未だ受容足り得るに能わず。しかし、発せよさすれば汝の敵を退けん)
「シュネーシュトルム!」
雪斗は発すると、ダイヤモンドに引けを取らない硬度の雪が、吹雪となってメンデルに激しく吹き付けた。
「あれは、雪斗の新たな魔法。白界でも使用者が少ない大魔法ね……」
ヴァイスは言った。
「ぐわあああ!」
メンデルは、雪斗の起こした吹雪に飲まれ、ダイヤモンドの固さの雪にその身を切り裂かれていった。
やがて吹雪が止むと、全身を切り裂かれ血まみれとなったメンデルが、かろうじて立っていた。立ってはいたが、メンデルは最早虫の息であった。
「あれを食らって、まだ生きてるなんて、奴はどんな体してやがるんだ!?」
勇二は叫んだ。
「落ち着いて、勇二くん。後一撃攻撃を食らわせられれば倒せるよ……」
「雪斗……?」
雪斗は、片手につららを携え、瀕死のメンデルに歩みよった。
「一つ訊きたい事がある。白界の兵隊はお前たちの他にいるのかい?」
「ごほ……それを訊いて何になるというんだ、ぐおっ!?」
雪斗は、メンデルをつららで突き刺した。急所を僅かに外している。
「楽に消えたければ、僕の問いに答えろ。さもなくば八つ裂きだ」
雪斗の様子が明らかにおかしかった。穏和で、戦いを好まない雪斗が、メンデルを脅すような真似をしている。
「雪斗! 相手はもう戦えない。さっさと止めを刺すんだ!」
勇二が言うと、雪斗は勇二を睨んだ。
「僕の邪魔は、しないでくれるかい、勇二くん」
「うっ……」
その目は、見る者に恐怖を与えるのに十分だった。
「まずいわね……!」
「ヴァイス、もう立って平気なのか? まずいって、何がまずいんだ?」
「雪斗は長い間白界人の姿をしている。白界人の力が暴走してしまっているんだわ」
「暴走だって!?」
「メンデル兵士長を倒しても収まらないかもしれない。そうなったら私たちで同士討ちすることになるかもしれないわ……」
ヴァイスたちが話している間にも、雪斗のメンデルへの拷問ともいえる攻撃は続いていた。
「まだ言う気にならないか。どうせ最後は殺す予定だ。手足の一本なくしても僕は構わないよ。さあ、さっさと答えろ!」
雪斗は、つららをメンデルの右肩口を突き刺した。
「ぐおうっ!」
メンデルは、利き手が使えなくなった。メンデルは最早戦うことができなくなった。
「そこまでよ、雪斗!」
ヴァイスが雪斗とメンデルの間に立って、雪斗を制止しようとした。
「ヴァイス、どういうつもりだい? そこをどきなよ。その男と一緒に串刺しになりたいのかい?」
「雪斗、落ち着きなさい。あなたは今、白界の魔力に支配されているのよ。これ以上いったら、あなたはただの殺人鬼になってしまう。お願い、ここで思い止まって!」
「煩わしいね」
雪斗は、つららの槍を顕現させた。
「これ以上は面倒だ。二人まとめて刺し貫く」
「雪斗!」
「死になよ!」
雪斗が槍を投げようとしたその時であった。
「ライトニング!」
勇二が、雪斗に向かって雷撃を放った。雷撃は狂いなく雪斗に当たった。
「ゆう、じ……」
完全に不意を打たれ、雪斗はダメージを受けた。
雷を受けたため、雪斗は感電し、気を失った。同時に白界人化も解けた。
これを好機と見たメンデルは、逃亡を図った。
「覚えてなさい! 裏切りの姫と『キー・トリガーパーソン』!」
「逃がすかよ!」
ヴァイスは、追撃しようとする勇二を止めた。
「ヴァイス、何故止める!?」
「メンデル兵士長は、もう戦えないわ。復讐を図ることはできない。それより雪斗を回復させなきゃ。静香、お願いできるかしら?」
「は、はい!」
こうして、雪斗たちは白界の兵隊を退けたのだった。
雪斗たちの戦いぶりを木の上から観察する者がいた。顔半分を布で隠した男である。
(白界の兵隊を容易く退かせるとは、さすがは『キー・トリガーパーソン』……)
白界の兵隊をけしかけたのは、この男だった。地界の『キー・トリガーパーソン』の命を確実に取れるよう力量を計ったのだった。
その結果、分かったのは、絶対に侮れない存在である事だった。白界の大魔法をも使う魔力を持つ、真向勝負を挑むのには都合が悪かった。
(我の技を以て撹乱するしかあるまいな……)
謎の男は消えていった。
※※※
白界の兵隊との戦いから、一週間が経った。だれも大きな怪我をする事もなく、全員無事であった。
ヴァイスと雪斗は、雪斗の部屋で一週間前の戦いについて話し合いをしていた。
「僕にそんなことが……!?」
雪斗は、白界の魔力に暴走していた事を覚えていなかった。
「覚えていないようね。まあ、無理もないわ。白界の魔力に飲まれかけていたのだから……」
雪斗は、はっきりとした覚えは無かったが、朧気ながら覚えていたことがあった。
それは、雪斗に力が宿る度に心に聞こえる声だ。
「ヴァイス、今まで言っていなかったけど、僕が新しい魔法を使えるようになった時、心に声がするんだ。その時言われたんだ。お前では使えないみたいなことを……」
「それは、雪斗に宿った『キー・トリガーパーソン』の声よ。激しい戦いに向けて、あなたに力を与えたのでしょうけど、裏目に出てしまったようね」
雪斗の『キー・トリガーパーソン』の能力は、意思こそ無いが、持っているかのように語りかけてくることがある。雪斗の能力の度合いを教えてくれるのだ。
「『キー・トリガーパーソン』の力は、雪斗にホイホイ与えてしまうようね。でも、それだと雪斗の身の丈に合わない魔法も与えてしまう。これはなおさら早く白界の魔力に慣れる訓練をしなくちゃならないわね……」
「白界人の姿になっても平然としていられる事だね?」
「その通りよ」
「でも、これまで通りやってても、意味はあるのかな?」
「あなたはこれまでの訓練で白界人の姿に慣れることはできてるわ。そこでこんな訓練をするのはどうかしら。寝食以外はずっと白界人の姿で過ごすのよ」
ヴァイスの提案は、尋常ではなかった。
「戦いでもないのにあの姿になり続けるの!?」
「雪斗、あなた、白界人の姿でいつづけると、好戦的な性格になってたじゃない? 相手を必要以上に傷付けて止めを刺さなかった。現にメンデルに逃げる隙を与えてしまったでしょう?」
先日の戦いで雪斗は、相手をいたぶる事に一種の快感を得ていた。
メンデルの他に仲間がいるのかどうか問いかけるように見せかけて、メンデルの苦悶の声を聞くことに、雪斗は快楽を感じていた。
「分かったかしら? 今のあなたに必要なのは、敵で遊ばず冷静でいられる精神力よ」
実際にメンデルを弄んでいた雪斗は、ぐうの音もでなかった。
「分かったよ、ヴァイス。でも銀髪に金色の目になって、不良だって、母さんに怒られないかな?」
小雪が、実の息子に起こった変化をうけいれてくれるかどうか分からなかった。
「それについては私から小雪に伝えるから、心配は要らないわ。さあ、善は急げよ、変身しなさい」
「本当に頼んだよ。……はあああ」
雪斗は、白界人の姿に変身した。それと同時に、誰かと戦いたい衝動に駆られた。
「強く力を込めすぎよ。それじゃあメンデルの時のようになるわよ?」
「そ、そうか。もう少し力を抑えてみるね……」
雪斗は、オーラが立ち上らないように手加減した。
雪斗は、銀髪に金の瞳を持った白界人と同じ姿となった。
「どうかな?」
「姿はそれでオーケーよ。戦いたい衝動はない?」
「うん、だいぶ落ち着いてきたよ。それで、いつまでこの姿でいればいいの?」
「今日は初日だし、六時間くらいその姿で過ごすわよ」
「ろ、六時間も!?」
「本当は半日過ごしてもらいたい所だけど、力の消耗が激しいから六時間にしておいてあげるわ」
半日ではないにしても、六時間は雪斗にとって長かった。今こうしているだけでも、精神力が削られていくのを感じている。
「……これ、いつまで続けるの?」
「冬休みの間一日たりとも欠かさなければ、大体消費なくその姿でいられるようになるわ」
「冬休みの間ずっと!?」
「たかだか二週間かそこらでしょ? さあ、訓練はもう始まったわ。その姿のままとりあえず宿題やっちゃいなさい」
「ふえぇ……」
雪斗は、情けない声を上げるのだった。
雪斗は仕方なく、言われたように冬休みの宿題を始めた。
ヴァイスは、一歩も動かず、腕組みして雪斗の後ろに立っていた。
「ねぇ、ヴァイス……」
「何かしら?」
「そうやって黙っていられると、気が散るんだけど……」
「雪斗がサボらないように見ているのよ。宿題はもちろん、力の扱いの訓練をね」
「で、でも……」
「質問があれば受け付けるわよ? 正直、
私の方もこうやってるのは暇だからね」
「え、じゃあ英語の質問いいかな?」
「いいわよ」
雪斗は、ヴァイスから英語の解説を受けた。ヴァイスの解説はとても分かりやすく、雪斗の疑問は氷解した。
「ヴァイスって本当、教えるのが上手いよね?」
ヴァイスは、ギフテッドの上、英才教育を受けてきた。知識量は十分すぎるほどある。
よく天才は周りに理解されない事がよくあるが、ヴァイスは違った。分からない者がどこで分からなくなっているのかを理解し、教えている。指導者としても天才であった。
「私はそんなに教えることが得意ってわけじゃないんだけど」
「謙遜しちゃって、本当は得意なくせに」
雪斗は、意地悪っぽく言った。
「でも本当に助かってるよ。学校の先生よりも分かりやすいからね」
「それならよかったわ。……そろそろ二時間経つわね。体に異常はない?」
「始めた最初はメラメラするような感じがしてたけど、今はそんなんでもないかな?」
「ならいいのだけど。言い出した身で言うのもなんだけど、今やっている訓練は精神力を極端に削るものだから、辛くなったら暴走する前に止めていいのよ?」
「暴走する事があるの、この訓練!?」
「最初に言っておくべきだったわね、ごめんなさい。でもその様子なら大丈夫ね」
「……参考までに訊くけど、もし暴走したら僕はどうなるの?」
「衝動のまま辺りを凍りつかせるでしょうね。空間だけでなく、時の流れも……」
「それってかなりまずくない!?」
雪斗の魔力が、凄まじいほどに隠されている証拠であった。時の流れさえ凍らせるのは、雪斗には想像できないことだった。
「大丈夫よ。それ以上大きな力を発揮しなければ、暴走しても私の力で抑えられる。あなたは白界人化を使いこなせるように集中すればいい」
とはいえ、すべき事は白界人の姿になって時間を過ごす事である。さすがに暇を持て余してしまう。
「ヴァイス、他にやることないの? 勉強は終わったし後四時間暇なんだけど」
「別に訓練だからって特別な事はしなくていいのよ。娯楽に興じていても構わないわ」
娯楽と言ってもやることは限られていた。マンガやライトノベルはすでに読み終わっているし、ゲームもほとんどクリアしている。
(ん、待てよ。これなら……)
雪斗は、何か思いついた。
「ねぇ、ヴァイス。ヴァイスも暇でしょ?」
「私は常に、あなたを守る役目を帯びている。暇な時間なんてないわ」
「まあまあ、そう言わずに。格ゲーがあるんだ。一緒にやらないかい?」
「格ゲー……対戦格闘ゲームの事?」
「よく知ってるね。『アンダーデイブルーファイターズ』っていうゲームなんだけどやってみない? 初心者でも楽しめるのがウリなんだ」
ヴァイスは引かれた。
「……やってみたい」
「決まりだね、じゃあやろう!」
雪斗は、ゲームソフトをゲーム機にセットし、コントローラーを二個用意した。
「はい、これを使って」
雪斗は、コントローラーを一つ、ヴァイスに手渡した。
ヴァイスは、コントローラーを受け取ると、しげしげと見回した。
「あはは、そんなに珍しいかい?」
「ゲームなんて白界にないから、新鮮だわ」
「実際に対戦する前に、少しトレーニングしようか。初心者でも楽しめるって言っても、触ったことがないんじゃ分からないだろうからね」
「ぜひお願いしたいわ」
ゲームは、トレーニングモードから開始した。
雪斗は、持ちキャラを選択する。背中から鉤爪を出した、まるで蜘蛛のようなキャラクターである。年格好も雪斗にそっくりだった。
「ずいぶん変わったキャラクターをつかうのね?」
ゲームに馴染みのないヴァイスでさえ、なんとなく分かる玄人向けのキャラだった。
「使ってみれば意外と簡単だよ? それで、ヴァイスはどのキャラにするのかな?」
「私は……」
ヴァイスは、カーソルを動かして色々なキャラを選んでいる。スタンダードなキャラを選んだかと思うと、これじゃない、と別のキャラにする。
重量級の大柄なキャラにしたのかと思いきや、これも違うとカーソルを移動する。
キャラ選びに少し時間をかけて、最終的にはこれと決めた。
「私はこれにするわ」
「め、冥王!?」
雪斗は驚いた。何故ならヴァイスが選んだキャラは、このゲームの中で一番操作が難しい反面最強キャラだったからだ。
「ヴァイス、別のキャラにした方がいいよ! そのキャラは上級者向けだよ」
「上級者向けなの? ならいいじゃない。使いこなせれば即上級者になれるってことじゃない?」
あくまでポジティブに考えるヴァイスであった。
「それで、遊び方を教えてくれるんでしょ?」
「ああ、うん。まあ、使いたいキャラを使った方が上達が早いか。じゃあ操作方法を教えるね。方向キー前後で前進、後退、前連打でダッシュ、後ろ連打でバックステップ」
ヴァイスは操作する。移動は問題なかった。
「上入力でジャンプ、斜め上を入れれば斜めジャンプになるよ。それからジャンプ中にもう一回上を入れると二段ジャンプができるからね」
これも問題なくこなした。
「じゃあ、ここからが攻撃。Aボタンで弱攻撃、主に立ち回りに置いて使うかな。Bボタンで中攻撃、まずまずの威力の攻撃ができるよ。次はCボタン。威力は一番高いけど外すと痛い目に遭うから気をつけて。最後はDボタン、押し続けている間超必殺技を使うゲージを貯めることができるよ。うん、まあこんなところかな」
「意外と単純なのね」
「ボタンを押すだけなら簡単だけど、コマンド入力は難しいよ? 特にヴァイスが選んだキャラなんかそれはそれは難しいよ」
「コマンドってどんなのがあるのかしら?」
「下、斜め下、前に入力する、いわゆる波動コマンドが一般的かな。飛び道具を出すのに使うことが多いね」
「他に覚えることはあるのかしら?」
「格ゲーの鬼門、コンボができなきゃ試合にならないから、コンボ練習は必須だよ。自分で作ってみてもいいけど、最初はミッションモードでコンボを練習するといいよ」
雪斗は、ヴァイスにミッションモードをさせるため、一旦自分のコントローラーの無線を切った。
「雪斗はやらないの?」
「ミッションモードは一人用だからね、少し練習してから対戦しよう」
「なんか悪いわね、実戦を繰り返してから色々覚えようとしてたんだけどね」
「いいのいいの。ある程度動かせるようになってからでないとお互いに面白くないからさ」
ヴァイスは、ミッションモードを開始した。
まずは初級。初心者同士の戦いに使えるコンボを練習する。ヴァイスは難なくクリアした。
「この程度? もっと難しいのはないの?」
「初めてにしては良くできてるよ。でもまだ中級と上級があるからね。有頂天になるのはまだ早いよ?」
じゃあ、次、とヴァイスは中級ミッションを始める。なんとこれも難なくクリアしてしまった。
「なによ、簡単すぎるじゃない。もっと難しいコンボはないの?」
「ヴァイス、一応確認しておきたいんだけど、初めてなんだよね? このゲームやるの」
「当たり前じゃない。白界にはゲームなんて噂程度にしかないんだから」
「……このまま上級ミッション行っちゃう?」
「もちろんよ、すぐにクリアしてみせるわ!」
ヴァイスは、意気揚々と上級ミッションに挑戦する。
さすがに上級だけあって、初中級のミッションほどすらすら行かなかったが、これもクリアしてしまった。
「ミッションモード全部クリアしたわよ」
雪斗は、驚きに満ちていた。
ヴァイスは、ただでさえ難しいキャラクターを選んだにも関わらず、超難関のミッションさえクリアしていった。アンダーデイブルーファイターズを初めてやったはずなのに、腕前は格ゲーマーのそれであった。
「操作は大体分かったわ。対戦しましょう? 負けないわよ」
「僕だってこのゲームはやり込んでいるんだ。全く初めての初心者には負けないよ!」
雪斗は、コントローラーを接続した。
「さあ、本番だよ!」
雪斗とヴァイスの戦いは始まった。ラウンドワンが始まると、雪斗はキャラを後退させた。これがこのゲームの開幕での常套手段であった。
ヴァイスも同じように行動した。これでお互い手の届かない間合いになった。
「先手はもらったよ!」
雪斗は、キャラをダッシュさせて、下Bの下段ガード不能の攻撃を仕掛けた。
対するヴァイスは、斜め後ろ下を入力して雪斗の攻撃を防いだ。
(この技はガードで九フレーム不利だ。キャンセルして下Cを入れなきゃ……!)
これもガードされてしまった。雪斗は、とっさに下Aを入力して隙を消した。不利フレームは三であり、ヴァイス側が先に動ける。
(相手はあっさりミッションクリアしたといっても初心者。立ち回りまではまだ甘いはず! ここは最速暴れだ)
雪斗は、持ちキャラの最速技、Aボタン攻撃を押した。
ヴァイスは、下B攻撃を押していた。
(そんな、重ねてる……!?)
ヴァイスの攻撃は、雪斗の行動を咎めていた。カウンターヒットとなり、ヴァイスのコンボタイムになる。
ミッションモード全部クリアしただけあって、ヴァイスはコンボを落とさない。
雪斗は、手痛いダメージを負った。しかし、まだ試合の態勢は決まっていない。ゲームはまだ始まったばかりだ。
(固めはそんなに激しくない、反撃のチャンスだ……!)
雪斗とヴァイスは、攻守交代した。雪斗を攻めていたヴァイスが守りに入る。
防御は教えていなかったが、ヴァイスは、雪斗の打撃固めを防いでいた。
(なかなか崩れないな……! だったらここはこれだ!)
雪斗は、しゃがみガードが出来ない中段技を振った。しかし。
(立った!? 上級者でもガードが難しいのに、立ちガードした!?)
中段技は、しゃがみガードができない強力なものだが、技後の不利フレームが大きく、確定反撃となりうる諸刃の剣であった。
「隙だらけよ、雪斗」
またヴァイスのコンボタイムが始まる。
キャラクターの体力は、大体一万ほどである。雪斗の使うキャラの体力は一万五百で、三千以上のダメージを二度も受け、後ワンコンボでノックダウンとなる。
(まだヴァイスに一撃も加えられてないのに、このまま負けてたまるか……!)
雪斗は、ひとまず落ち着いてしゃがみガードを固める。防御に徹しようというつもりだった。そこへヴァイスが仕掛けたのは。
「ここで中段!?」
雪斗は、思わず声に出してしまった。そしてそのまま何もできずにコンボを完走され、パーフェクトでラウンドを取られてしまった。
次のラウンドでも、的確に攻撃を受け、やはり何もできないままパーフェクト勝ちされてしまった。
雪斗はこのゲームでキャラ部門全世界五位の実力を誇っていたが、今日、それもたった一時間練習しただけの初心者に負けてしまい、ショックを受けていた。
「格ゲーって難しいって噂を聞いてたけど、意外と簡単ね」
「ヴァイス、キミって本当に格ゲー未経験なんだよね?」
「そうよ、更に言えばまともにゲームをやったことすらないわ」
雪斗は、さらにショックを受けた。
「けど面白いわね、格ゲーって。全世界大会があるのも頷けるわ」
「リベンジだよ、ヴァイス。初心者に負けてこのまま引き下がるのは悔しいからね。今度はダメージを与えるよ!」
「いいわ、返り討ちにしてあげる」
その後連戦をした雪斗だったが、ヴァイスに五十連敗し、一度も勝てなかった。キャラ性能差があったものの、ヴァイスは見事使いこなし、ラウンドすらも落とさなかった。
「ヴァイス、一体どうやったら中段立てたり、投げ抜けをほぼ百パーでできるのさ?」
「簡単なこと、見えているからよ。中段が出されたり、投げを仕掛けられてるのがね」
ヴァイスの防御性能は、人並み外れた動体視力によるものだった。
「もしかして、起き上がり際に無敵技で切り返してたけど、それも見えているの?」
「それはさすがに厳しいけど、ギリギリ見えるわ。まあ、見えたところで返しのコマンド入力するのは難しいことだけどね」
ヴァイスはなんと、五、六フレームの弱攻撃が見えていた。だからこそナイスタイミングで無敵切り返しができていたのだ。
「もう、人間じゃないよ、それ……」
「ええ、人間じゃないわ。白界の姫よ」
「いや、そう言うことじゃあ……まあいいか」
全てはヴァイスが普通の人間ではないことから可能になっている事だった。
「ヴァイス、今日は引き下がるけど、次は負けないよ! 手癖は読めたからね!」
ヴァイスは、小さく笑った。
「いつでもいいわよ? またパーフェクトゲームにしてあげるから」
絶対の復讐を誓う雪斗であった。




