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白界の忍、ファンガ

第六話 白界の忍、ファンガ


 短い冬休みが終わり、学年末がやって来た。

 あまりの短さに、雪斗は終業式が昨日、一昨日のことのように思えていた。

 学年末が始まるだけでもダルいのに、嫌なことがもう一つあった。

 それは、休み明けテストである。冬休みの課題から出題されるのだが、雪斗は結局冬休みの課題をサボってしまい、冬休みラスト三日で課題を何とか終わらせた。

 何とか終わらせる事ができただけで、問題は頭に入っていない。

 暗記すれば解けるテストであるのに、雪斗は暗記することができなかった。


(はあ……今日のテスト、赤点取ったら母さんにまたどやされる)


「おはよーっす、雪斗! ヴァイス!」


 勇二が元気よく挨拶してきた。


「おはよう、勇二くん。朝から元気だね」

「もしかして、今日のテスト自信があるのかしら?」


 勇二は、大きく笑った。


「アッハッハ! まさか! 課題自体終わらなかったのに、テストなんかできっかよ!」


 勇二は、宿題を終わらせていなかった。この笑いは開き直りから来るものだった。


「勇二、今年の春から受験生になるというのに、そんな調子で大丈夫なの?」


 ヴァイスは言った。


「いいんだ、いいんだ。私立の学校なら、名前書くだけで受かるって言うし!」

「あなたのご両親の気持ちが分かる気がするわ……」


 ヴァイスは、勇二の自由奔放ぶりに、勇二の将来が心配になった。


「まあまあ、今回のテストの結果なんて内申点にならないってセンコーも言ってたろ? 気軽に行こうぜ気軽によ。ガハハハ!」


 雪斗は、勇二が羨ましくなった。


「つうか、雪斗。ヴァイスはお前の事をずっと見てるだろ? ヴァイスはオレら以外には見えてねえし、テストの答え聞いてもバレねぇんじゃねぇか?」

「そんなのカンニングじゃないか。自分の力で受けないと意味ないよ」

「真面目だなぁ雪斗は。オレがお前の立場だったら、ヴァイスの力を借りるけどな」

「私は不正行為に手は貸さないわ。雪斗は大丈夫だと思ってるけど、もし雪斗が不正行為に手を出しても、私は無視するわ」

「かー、二人して真面目だなぁ! 本当に頭が良ければ、状況を有効に利用するのにな。もったいねぇ」


 話しているうちに、校門が見えてきた。


「あー、あの校門を通ればテストかー!

あーかったりぃ」

「ここまで来たんだから、もう覚悟を決めようよ。僕は決めたよ」


 雪斗は、全力をもってテストに向かうことにした。

「オレは適当にやるぜ。あーめんどくせ……」


 雪斗たちは、約二週間ぶりの学校に登校するのだった。


    ※※※


 新学期早々の試験が終わり、結果はすぐに廊下に貼り出された。


 雪斗は、勇二を引きずりながら結果を見に行った。その結果は。


 全学年九十六人中、雪斗は四十八位、勇二は八十六位であった。雪斗は半分、勇二は下から数えた方が早い結果になった。


「ほら、どうせこんな結果だから、オレは見たくなかったんだよ」


 雪斗の成績は半分、と善戦したように見えるが、それでも一高を目指す者としては、まだまだ足りない成績である。

 ヴァイスに教えてもらって頑張ったと言うのに、と言う気分にならずにいられなかった。


「ドンマイドンマイ、テストなんかこれから先いくらでもあんだろ? 次頑張りゃあいいって!」

「うう……」

「あれ、あれって静香じゃねぇか?」

「え?」


 見てみると確かに、人集りの中に静香がいた。


「よーっす! 静香。テストどーだった?」


 軽い挨拶と共に、勇二は声をかけた。


「あ、勇二くん……」

「こんにちは、静香さん」


 雪斗も挨拶する。


「雪斗くんも、二人ともこんにちは」


 静香は、挨拶し返した。


「静香は何位だった? オレは八十六位だけどな」

「勇二くん、当たり前のように言える順位じゃないよ……」

「あれ……」


 静香は、気恥ずかしそうに結果表に指差した。


 トップ十位内の八位であった。


「は、八位!?」

「す、すげー!」

「そんなに驚くことないと思うけど……」

「いやいや、十分驚くことだって。静香すげー!」

「羨ましいよ、静香さん」


 二人は同時に、静香の成績に驚いていた。


「あんまり目立つのはちょっと……恥ずかしいわ」

「成績がいいことに、恥ずかしがる必要はないよ。一体どのくらい勉強してるのさ?」

「一日二時間、冬休みは時間があったから、一日五時間勉強してたわ。今年は受験生になるんだからこれぐらいはしないと、ね」

「五、五時間……!?」

「オレだったら最初の一時間で寝る自信があるぜ……!」


 二人はまた、驚きに包まれる。


「も、もういいでしょ、私の話は!? それより、気になることが有るんだけど……」

「気になること?」

 ヴァイスが訊ねた。

「うん、今日一日ずっと、誰かに監視されているような気がしたの……」

「あぁ? センコーじゃねぇのか? テスト中ずっと見られてたろ」

「ううん、先生じゃない。なんと言うか、ヴァイスみたいな感じの誰かに見られてた気がしたの……」

「それって、白界の住人なんじゃ!?」

「いえ、白界の住人なら私が気付かないはずがない。相手は白界の刺客よ。それも自分の気配を消す力を持っている、ね」


 ヴァイスは、確信していた。


「ちょっと待てよ。そんなことができるやつがいるってのか!?」


 勇二は、大声を出す。


「一人だけ気配を消せる刺客を知っているわ。名前は色んな呼ばれ方されてるから、はっきりしないのだけど……」

「そんなのに、何で私だけ分かったの?」

「静香の能力がそうさせたのよ。静香自身の感受性が高いから気付けたんだわ」


 静香だから気がつくことができた。もし気付けなかったら、全員まとめて刺客の刃にかかっていたことだろう。


「ヴァイスは、そんな刺客に覚えはあるの?」


 雪斗が訊ねた。


「ごめんなさい、刺客については名前すら知らないの。ただ白界の中でも格別に変わった能力を持っているから、噂に聞いたことがあるだけなの」


 ヴァイスでも知らない刺客による術であった。


「そうだよね。ヴァイスが知ってるなら、もうとっくに刺客の対応はできているよね。だけど怖いな。ヴァイスでも気付けない相手がいるなんて」


 ヴァイスは同意する。


「こうなったら、静香と生活するしかないわね」

「…………へ?」

「えぇ!?」


 雪斗たちは、二人同時に驚きをみせる。


「何を驚いているの? 私何か変なこと言ったかしら?」


 ヴァイスは、本気で分かっていないようだった。


「十分おかしいよ! 何で静香さんと暮らすのさ!?」

「一緒に寝食ともにするだけじゃない。私とそうしているように」

「それがおかしいって言ってるんだよ!」

「雪斗くん、ヴァイスと一緒に暮らしていたの?」

「あー、それはその、ヴァイスは人間じゃないし、僕を守るために一緒に寝てるだけで……!」

「お前ら! やっぱそういう仲だったのか!」


 勇二まで話に入ってきた。


「違うって! 僕たちはやましい事は何も!」


 雪斗は、必死に否定した。そして誰かに助けを求めた。


「待って、みんな!」


 静香が場を納めた。


「どうしたの、静香?」

 ヴァイスが訊ねる。

「また気配を感じたの。その刺客? というものの気配を」

「えっ!?」

 雪斗は驚く。

「ホントか静香!? そいつは今どこにいる!?」

「探す必要は無用。いざ姿を現さん……」


 言葉と共に、白界の刺客が現れた。


 現れたのは、顔に縦の傷跡を持ち、鼻から口にかけて顔半分を隠し、肩まで伸びた髪を一纏めにした、古風な装束を身に纏った男だった。


「に、忍者かアイツ!?」


 新たに現れた刺客は、遥か昔、場所は日本、時は戦国、諜報活動で活躍した(しのび)の姿をしていた。


「我が名は、ファンガ・スレイド。白界に残りし忍の頭目にして白界の刺客四人衆が一人なり!」


 ファンガは名乗った。格好は忍のそれだが、心は武士のように真っ直ぐな男だった。


「……ファンガ・スレイド、思い出したわ。白界の忍者軍団の最後の生き残り……」


 白界で約五百年前、地界の日本は乱世にあり、忍の活動が盛んに行われていた。

 一人の主君のため、戦での勝利を確実なものにするために戦うのではなく、諜報活動を主に戦の裏側で戦況を本軍へ引き寄せる、影の存在。


 五百年前の白界も、別世界から襲来を受けていた。

 そんな時、白界の王は地界を模倣し、忍者軍団を作り出した。

 白界の忍は、完全に戦わないというわけではない。逃げ切れぬと判断した時には、剣を持って戦うこともあった。

 戦乱は、数年にも及んだ。忍者軍団はほとんどが敵の手に落ちた。


 今では頭目のファンガとその配下が僅かに残るのみだった。


 ファンガの気配を完全に消す能力を白界の王に見込まれ、刺客四人衆の一人として、ファンガは仕事をしていた。


「あり得ねえ、白界に忍者がいるなんて……!」


 勇二は、驚き声を上げた。


「そこの女、なるほど、『シー・トリガーパーソン』か。しかし、我の気配を見破るとは見事。殺してしまうのが惜しいくらいだ……」


 ファンガは、値踏みするかのように静香を見た。


「女よ、お前の能力に興味は尽きない。どうだ? 我が忍者軍団に入るつもりはないか? さすればお前の仲間の命は助けようぞ」


 静香が誘いに乗るはずがなかった。


「お断りします。あなたのもとへ行くということは、雪斗くんたちを裏切ることになる。そんな誘いに乗ると本気でお思いですか?」

「ふむ、そうか。非常に惜しいが、『キー・トリガーパーソン』、並びに裏切りの姫の首をいただくとしよう。だが、ここでは全力では戦えん。無関係の人間を巻き込むのは、我の道義に反する。この近くに採石場があるな。そこで戦うとしようぞ……」


 ファンガは、指を弾きならし、魔法を使った。それは転移魔法であり、その場にいた雪斗たちを採石場へと瞬間させた。


「こいつぁ!?」


 そこにはすでに、白界の住人が配置されていた。


「『キー・トリガーパーソン』に裏切りの姫か。討ち取れば何億年と遊んで暮らせるぞ!」


 白界の住人は息巻いていた。


「多勢に無勢、と思うのならばそう言えばよい。お前たちは我が仕向けた兵隊を壊滅に追いやった相手。数で攻めさせてくれよう」


 行け、とファンガが指示すると白界の住人たちは一斉に雪斗たちに襲いかかった。


「雪斗たちは下がってて」


 ヴァイスは言った。そして魔法を発動する。


「サウザンドアイシクル!」


 ヴァイスは、自身の最も得意とする、幾千のつららを放つ魔法で、白界の住人の集団を一掃した。


「相手にならないわね」


 しかし、ファンガはこうなることは想定済であったかのように、慌てることなく腕組みして立っていた。


「ふむ、数で攻めようにも、有象無象の集団では通用せんか。では、これならばいかがかな?」


 ファンガは、再び指を弾いて魔法を使った。すると、地面から傀儡(くぐつ)を二体作り出した。

 傀儡は、ファンガの姿と瓜二つであった。それが二体揃ったところで、ファンガが三人になったようだった。


「驚いたかな? この傀儡、魔法こそ小さなものしか使えぬが、身体能力は我と同様。『キー・トリガーパーソン』と姫君は一人でも戦えようが、二人の『トリガーパーソン』は、二体一でも苦戦を強いられるぞ?」


 ファンガと二体の傀儡は、ファンガを中心に横並びとなった。臨戦態勢である。


「雪斗、ファンガの相手は私がするわ。あなたは傀儡を。恐らく傀儡程度なら打ち破れるはず」


 それから二人とも、とヴァイスは勇二たちに呼び掛ける。


「傀儡とはいえ、相手は白界の刺客。強さは本物よ。危ないと思ったらすぐに逃げて」

「何言ってやがるヴァイス。オレは逃げたりしねぇぞ! 勝つまで戦うぜ!」

「だめだよ、勇二くん。私には分かるの。あの敵の力は私たちを超えているわ」

「静香、お前は雪斗たちを置いて逃げられるって言うのか!?」

「そうは言ってないよ。ただ私の守りの魔法を持ってしても守りきれないかもしれないって言ってるのよ」

「戦いの準備は済んだかな? では始めようぞ!」


 ファンガは、傀儡と共に雪斗たちに襲いかかった。


「はっ!」


 雪斗は、気合いを込め、白界人の姿となった。


「ほう、それが『キー・トリガーパーソン』の力というわけか」

「よそ見をしている余裕がある? なめられたものね……!」


 ヴァイスは、氷の剣を出現させ、ファンガに斬りかかった。

 ファンガは、ヴァイスの剣を剣で受け止めた。


「慌てるな、姫君よ。お前の相手をしてから『キー・トリガーパーソン』の首を取る」

「させないわ……!」


 ヴァイスと白界の刺客の戦いは始まった。


 その横で、雪斗は傀儡の相手をしていた。

 ヴァイスと同じく氷の刃を振るい、傀儡に攻撃していた。

 土塊(つちくれ)の体には斬撃がよく効き、雪斗は傀儡の腕を斬り落とした。


(両腕を失えば、いくらこいつでも……!)


 雪斗はもう片方の腕も斬り落とした。

 確かな手応えを感じていた雪斗であったが、傀儡は信じられないことをした。


 傀儡は、地面の土を足で上手く蹴りあげ、雪斗が斬り落とした腕を再生させたのだ。


(斬っても再生される。急所を突くしかない。でもどこにやつの急所が……!?)


 土塊の体は簡単に崩すことができる。しかし、容易に再生する。ただの人形のようで動きは人のそれであり、ただ破壊すればいいというわけではない。


(どこかにないか? あの人形の弱点は……!?)


 雪斗は目を凝らす。しかし見つからない。

 雪斗がじっと見ている間にも、傀儡は動きを見せた。


 傀儡は空高くジャンプし、魔法の棒手裏剣を放ってきた。


「ゼロディグリーシールド!」


 雪斗は、零度の盾を展開し、棒手裏剣から身を守った。

 正面からの攻撃を受け止められた傀儡は、地面に足がつくと同時に横へ飛び込み、更に棒手裏剣を打ってきた。


(そうはさせるか!)


 雪斗は、盾を半分に割り、左右の守りを展開した。


「飛び道具なら、こっちだって……!」


 雪斗は、つららを出現させ、傀儡に向けて放った。つららは傀儡にヒットし、土塊の体を崩した。


 雪斗の攻撃は当たるものの、傀儡は地の土塊ですぐに再生してしまう。


(やっぱり急所を突かないと倒せない。どこかにあるはず。やつの急所が)


 雪斗は、はっと気が付いた。傀儡には、人間で言うところの心臓がある左胸に、光るものを見つけた。


(あれがやつの急所!?)


 雪斗はついに、傀儡の弱点を見つけた。


(だけど固そうだ。剣じゃ貫けそうにない……)


 傀儡の心臓部は、宝石のような硬度を持っていそうだった。


(剣でだめならこれで……!)


 雪斗は、魔法を使う。


「アイシクルスピア!」


 雪斗は、蒼く輝く氷の槍を作り出した。穂先は、固そうな傀儡の心臓部も打ち砕く強度を持っている。


「これで、終わりだ!」


 雪斗は槍を、傀儡の心臓部めがけて放った。槍は、宝石のような心臓部を砕き、体を貫通した。

 心臓部という支えを失った傀儡は、ただの土塊になって崩れていった。


「よし、勇二くんたちは大丈夫かな?」


 雪斗は、少し離れた所で戦っているであろう勇二と静香の様子をうかがった。


「ライトニング!」


 勇二は、雷で傀儡と戦っていた。しかし、土塊でできた傀儡の体には雷撃は効果が薄かった。


「くそっ!」


 勇二は、攻撃がまともに通らない今の状況に歯噛みした。

 そうこうしている内に、傀儡は棒手裏剣を打ってきた。


「ウィンドシールド!」


 傀儡の棒手裏剣は、静香の風の障壁に抑えられ、地面に落ちて砕け散った。


「大丈夫? 勇二くん」

「ああ、助かったぜ静香」


 二人は、防戦を強いられていた。

 傀儡の攻撃方法は、棒手裏剣の投擲(とうてき)である。それほど速い攻撃ではないので、静香の防御が間に合う。しかし、攻撃方法が限られていた。雷撃は効かず、静香は攻撃魔法を持っていない。

 このままでは、静香の魔力が尽きるまでこの防戦は続く。


(何とかならねぇのか? オレにはみんなと違って魔法は一つしかねぇ。しかもあのデク人形には通用しねぇ。どうすれば……?)


 勇二は、何かないかと辺りを見回した。そうしていると、勇二はあるものを見つけた。それは、小さな鉄骨であった。


(鉄骨……当てりゃ大ダメージになりそうだが……はっ! そう言えば!)


 成績のよくない勇二であったが、理科だけは得意科目だった。故に、以前に授業で習った事を思い出した。


 それは、電磁力についてである。


 電流によって磁界というものが発生し、金属を引き寄せる事ができる。砂鉄が渦状に引き寄せられる現象を見たことがあった。


(電磁力をオレの魔法で発生させて、この鉄骨に磁力を持たせてやりゃ、ひょっとして……?)


 やってみる価値は十分にあった。


(よーし、まずは相手を帯電させて……)


 勇二は、弱い電流を放った。地面の砂鉄が傀儡の体に纏わりつく。


「よっしゃ! こいつを食らいやがれ!」


 勇二は、鉄骨に電気を帯びさせた。


「サンダーショット!」


 勇二は、鉄骨を殴り付けた。電磁力によって帯電した傀儡に、電気を纏った鉄骨は、一気に吸い寄せられていった。

 強い推進力を持った鉄骨は、傀儡の胸部めがけて飛んでいった。そして鉄骨は、傀儡の弱点を貫いた。


「おっしゃ、クリーンヒット!」


 勇二は、十分な手応えを感じ、ガッツポーズをした。


「勇二くん、静香さん!」


 雪斗が駆け寄ってきた。


「おう、雪斗! そっちは片付いたか? こっちは今片付いた所だ」

「二人であの傀儡を倒したの!?」


 戦う力があるとはいえ、雪斗と比べれば足元にも及ばない能力の勇二たちが、傀儡を倒したことに雪斗は驚いてしまった。


「私は、勇二くんの身を守ることしかしてないけどね……雪斗くん、怪我はない? 私なら回復できるよ?」

「大丈夫、この姿でいる間は多少の攻撃じゃ、傷つくことはないからさ」


 それよりも、と雪斗は少し離れた場所で戦っているヴァイスに目をやる。


「ヴァイスが心配だ。なんせ刺客と戦っているんだからね。僕は加勢するよ。二人は安全なところで待ってて!」


 雪斗は走り出した。


「雪斗!」


 ヴァイスとファンガは、激戦を繰り広げていた。

 ヴァイスは、氷の剣を片手に、縦横無尽に攻め来るファンガに当たっていた。

 投擲される氷の棒手裏剣を打ち払うヴァイスであるが、打ち払っても打ち払っても次が来るため、少しずつ被弾していた。


「いかがかな? 姫殿下。忍の技、味わってもらえていますかな?」


 ファンガの攻撃は、一撃一撃は重くはない。しかし、それが蓄積すればだんだん重い一撃を受けてしまうことになる。


「真空刃!」


 ファンガの攻撃が襲い来た。ヴァイスは何とか防いだ。この瞬間がヴァイスの反撃の機会であった。


「サウザンドアイシクル・レインフォール!」


 ヴァイスは、千のつららを撃ち出す魔法を工夫し、雨のように真下に落とすことによってファンガの退路を断った。


「心頭滅却!」


 避けられぬと悟ったファンガは、肉体強化の魔法を使い、雨のように落ちてくるつららから身を守った。


「隙を見せたわね!」


 身を守らんと停止したファンガに、ヴァイスは追撃する。


「ヘイルトルネード!」


 ヴァイスは、大きな(ひょう)の渦巻く竜巻を引き起こした。


「しまった!」


 ファンガは、悪手を打ってしまった。

 ヴァイスの引き起こした竜巻は、砂利(じゃり)をも吹き上げ、ファンガの体をズタズタに切り裂いていった。


「ぐうおおおお!」


 竜巻からは抜け出すことができず、そして雹と砂利の舞い上がる中、切り刻まれるしかなかった。


 やがて、竜巻はおさまった。そこには、傷だらけのファンガが立っていた。


「あれを受けてまだ立っていられるなんてね……」


 しかし、虫の息であった。


「ヴァイス!」


 雪斗は、駆け寄ってきた。


「やったのかい?」

「ええ、致命傷は与えたはず……」

「ヴァイス、雪斗!」


 勇二たちも追い付いた。


 一対四、その上大技を受け、虫の息となったファンガに、勝算は最早なかった。


「これは、我の負けのようだ……」

「そうね、あなたに勝ち目はもう無い。止めを刺す前に一つ訊きたい事があるわ」

「答えるつもりはない、それに我はまだ死ぬわけには参らん……」


 ファンガは、懐に手をいれ、何かを取り出して地に撒いた。

 それは、催涙効果のある煙幕であった。


「ウィンドシールド!」


 静香は、風の巻き起こる盾を顕現させた。

 逆巻く風が、ファンガの起こした煙を跳ね返す。


「ぐわっ! 目が!」


 ファンガは、自ら立てた煙に目を潰されてしまった。


「チャンスだ!」

「止めは僕が刺す……!」


 雪斗は、氷の槍を出現させた。


「食らえっ!」

「待って!」


 ヴァイスが、雪斗を制止した。


「ヴァイス、なんで止めるのさ?」

「彼には訊きたい事がある。それに答えてもらわなきゃ、殺すことはできないわ」


 目の痛みに苦しむファンガに、ヴァイスは歩み寄った。


「答えなさい。白界は、この世界をどこまで侵攻しているの?」

「…………」


 ファンガは、黙りを決め込もうとしていた。ヴァイスは、つららを作り出しファンガの右肩口を突き刺した。


「私は惨殺はしたくない。大人しく答えてくれれば、痛み少なく死なせてあげる」

「仲間は売らぬ……!」


 ファンガは、懐から丸薬を取り出し、口に放り込んだ。ファンガが飲んだ丸薬は何か、答えはすぐにファンガの体に表れた。


「くばあああ!」


 ファンガは、致死量と思われる血を口から出した。

 凄惨な光景に、ヴァイスを除く雪斗たちは目をそらした。


「……それが忍の、忠誠心というものかしら?」


 ヴァイスは眉一つ動かさなかった。

 ファンガは、雪融けするように、体を少しずつ水に変えていく。


「……裏切りの姫よ、これだけは、言って、おく。最早白界に、くっ……貴様に味方する者はいない……全てが敵だ」

「いらないご忠告痛み入るわ。あなたの忍としての働き、この胸に刻み込んであげるわ。安らか、ではないでしょうが、すぐに消滅が訪れるでしょう……」

「裏切りの姫が……!」


 ファンガは事切れた。


「裏切りの姫、ね……」


 最早呼ばれなれているはずなのに、ファンガの忠誠心を見た後だと、背徳感がヴァイスを支配した。


「ヴァイス!」


 雪斗たちは、駆け寄ってきた。


「あいつは!?」

「死んだ、いえ、消えたわ。白にね……」

「白に……」

「私もいつか必ず消える日が来る。一切の例外なく、ね」

「あの忍者、四人衆の一人って言ってたよな? もう一人はガロンとかいうマゾ野郎で、後二人残ってるんだよな? 仇討ちに来ることがあるんじゃないのか?」

「勇二くん、そんなにいっぺんに訊いちゃ答えづらいでしょう?」

「仇討ちなんて無いわ。ファンガほどの忠誠心を持つ者の集まりではないからね。ただ、私に匹敵する力を持っている四人が集められた刺客集団だからね」


 雪斗を守るという茨の道、それが彼らであった。仇討ちするほど統率が取れた集団ではないが、またいつ来るのかは、分からなかった。


「ひとまず、住人でも兵隊でもない大物を倒したわ。白界に僅かな痛手を与えることができたはず。これからも大物を倒していけば、白界の戦力がなくなるわ。そうなれば、父王も……」


 このまま襲い来る刺客を倒していけば、いずれ白界に戦う力がなくなっていくであろう。そうなれば、ヴァイスの父が総大将としてやって来ることだろう。


「そうか、親父さんと戦うことになるのか……」

「もとより、覚悟の上よ。父王は白界で間違いなく最強の力を誇っている。私より大きな魔力を持っているわ。今のままじゃ、正直勝てるかも分からない」

「そんなに強いのか? ヴァイスの親父さん」

「もちろん強いわ。数億年王座について、それでも修行を欠かさなかった。近衛兵団はついているけど、戦いになれば自ら前線に出る人よ」


 ヴァイスの父王は、王国にありがちな、王座にふんぞり返っているような人物ではなかった。

 戦に赴き、その大きな魔力で最前線で戦う王だった。


「いずれ父王とも戦いになる。けど、私は迷わない。実の父といえどその首を取る!」


 ヴァイスの覚悟は、固かった。


「あのさ、すっかり熱くなっているところ悪いんだけど、帰らない? 僕たち上履きのままだよ?」


 雪斗は言った。ここへはファンガに無理やり連れてこられたようなもので、上履きで外に出た上に鞄も学校に置いたままだった。


「いっけねぇ! 学校閉じられたら、バッグ取れなくなっちまう!」


「瞬間移動ならできるわ。教室まで飛ばしてあげる。私の背中に触れて」


 雪斗たちは、言われた通りにする。


「行くわよ……」


 ヴァイスは目を閉じ念じた。ヴァイスたちは光に包まれた。

 そしてその身を空間から消すのだった。

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