決着
「さぁ、早くこっちへ来い、ローラ。そうしなければこの体ごとイヴを殺すぞ」
エルヴィンはそう言って、自分の首に剣をあてがった。
「そんなことしたらお前は体を失うだけだ」
フェインが冷静に言うと、エルヴィンは薄ら笑いを浮かべた。
「はっ、体なんていくらでもあるだろ。イヴの兄たちだって俺にとっては都合の良い器だ。こいつらもそれを心得ている」
エルヴィンの言葉にイヴの兄たちは目を合わせ大きく頷く。
(この人はどこまで身勝手で傲慢で残酷なの?生前から何も変わっていない……!)
ローラはエルヴィンの言葉に呆然とする。百年前も身勝手で傲慢で自分のことしか考えないような王子だった。
ローラを平気で殺そうとしたこの男は、王位継承が相応しくないと判断されて断罪されたのに、死んでも反省するどころか変わらずに身勝手で傲慢なままだ。
「イヴには長く付き合っている大切な女がいるんだとよ。イヴが死んだらその女はどう思うだろうなぁ?イヴが死んでその女が悲しむことがあれば、それはローラ、あんたのせいだ」
イヴの兄がそう言ってへらりと笑った。
(イヴにそんな人が……!)
イヴは兄たちのとは違ってちゃんと自分自身を生きている、大切に思う人がいても当然なのだ。そんな人なら尚更、ちゃんと生きて国に帰さなければいけないのに。
ローラはさらに目を大きく見開いてエルヴィンを見つめる。エルヴィンのことだ、ローラが行かなければ平気でイヴを殺すだろう。
「貴様ら!どこまでクズなんだ!!」
ヴェルデが怒鳴るとクローが笑みを浮かべたまま肩をすくめた。
「そんなに刺激して大丈夫ですか?イヴの首が吹っ飛んでしまいますよ」
クローの言葉に連動するようにエルヴィンは首にあてた剣に少し力を入れる。するとエルヴィンが憑依しているイヴの首から一筋の血が流れた。
「やめてください!」
ローラの悲鳴のような声が響き渡る。
「嫌ならさっさとこっちに来い。お前は俺の手で殺してやる」
エルヴィンの言葉にローラは両目をぎゅっと瞑る。迷っている暇はない。自分にできることは一つしかないのだ。
ローラが歩き出そうとするのを見て、ヴェルデは叫ぶ。
「行ってはだめだローラ!」
ヴェルデの声にローラは立ち止まり、ヴェルデを見た。その顔は少し悲しげで、でも何か吹っ切れたような清々しい表情だった。
(ごめんなさい、ヴェルデ様。ヴェルデ様を悲しませてしまうことはしたくなかった。でも、もうこれしか……)
「これしか方法がないんです。もう、私のせいで誰かが悲しむのは見たくありません。……ヴェルデ様、こんな私に幸せなひとときをくださってありがとうございました。あなたと一緒にいられて、本当に幸せでした。ヴェルデ様のこと、愛してます」
ふわっと微笑むローラの顔は清らかであまりにも美しく、ヴェルデは息を呑む。近くにいたフェインも、ただただローラを見つめることしかできなかった。
そのままローラがまっすぐにエルヴィンを見て歩き出そうとしたその時。
「……めだ、だめ、だ」
エルヴィンの口が勝手に動く。エルヴィンの剣を持つ手がカタカタと震え、表情は苦しそうに歪んでいる。
「な、にを、貴、様」
「だめ、だ、ローラは、お前に、ころさ、せ、ない」
ドクン!とイヴの心臓が大きく動き、エルヴィンの手から力が抜けて剣が落下する。そのままガクン、とエルヴィンは膝から崩れ落ちて地面に倒れ込んだ。
それと同時に、イヴの体から黒いモヤが近くへ弾け飛ぶ。
「な!!まさか、そんな!」
クローが慌てたようにイヴの体と黒いモヤを交互に見た。
「う……っ」
イヴの体が起き上がり、そこにはエルヴィンではなくイヴがいた。
「イヴ!」
ローラが叫ぶと、イヴはローラを見て静かに微笑んだ。そこにいるのはエルヴィンではなく、間違いなくイヴだった。
「もう一度イヴの体にエルヴィン殿下を!イヴを抑えてください!」
クローの言葉にイヴの兄たちが慌ててイヴを抑えつけようとする。だが、突然イヴの兄たちは弾き飛ばされた。
「させねぇよ」
フェインが魔法でイヴの兄たちを弾き飛ばしたのだ。そのまま拘束魔法をかけて動けなくする。
さらに、ヴェルデがイヴに防御魔法をかけて攻撃されないようにした。
「形勢逆転だな、クロー」
ヴェルデが厳しい顔つきでクローを睨みつけると、クローは悔しそうに唇を噛んだ。だが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ、ははは、これで勝ったつもりですか?憑依する体がなければ、俺がなればいい」
そう言って、クローは片手を自分の胸に当てると、クローの胸元に魔法陣が浮かび上がる。
「そうはさせない」
突然、どこからともなく声がして、クローの近くに魔法陣が浮かび上がり、そこにはクレイがいた。
「師匠!やっと、やっと会いに来てくれたんですね!」
クローはクレイを見て目を輝かせる。だが、クレイの表情は厳しかった。
「こんなことになるならお前を野放しにするべきではなかった」
「師匠、俺は蘇りの魔法を完成させたんです!今度は自分の体を使ってまた必ず成功させます!だから」
「それはダメだと言っただろう」
クレイがそう言って片手をイヴから出た黒いモヤに向けると、黒いモヤにバチッと電流が走り、稲妻の鎖が拘束する。
「師匠!何をするんですか!」
「お前を追放した時、魔法を取り上げるのはあまりにも可哀想だと思った。だが、やはりあの時に取り上げるべきだったな」
クレイはそう言ってクローの額に片手をかざすと、クローの胸元の魔法陣が消える。そして、クレイの額も輝きだした。
「師匠、何を……!」
「お前は禁忌を犯した。その罪はきちんと償わなければいけない。そして、お前はもう二度と魔法を使うことはできない」
クレイの言葉に、クローは両目を大きく見開いた。
「師匠……どうして!師匠!やだ!俺から魔法を奪わないで!師匠!」
クローが涙を浮かべて懇願するが、クレイは感情の籠らない瞳でクローを見つめている。そして、クローの額に浮かび上がった魔法陣が黄金に輝くと、クローの体から光が四方八方へ飛び散った。
「あ、ああ、俺の、魔力が……」
クローは呆然としながら宙を見つめている。そんなクローを、クレイは魔法で拘束した。
「……!イヴ!」
始終を見届けていたローラはハッと我にかえり、イヴの元へ駆け寄る。イヴは体を起こしているがまだ立ち上がれる様子ではない。それでも、イヴはローラを見て微笑んだ。




