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蘇り

「ははっ、俺の顔に傷をつけられるのはあなたくらいですよヴェルデ」


 ヴェルデを見ながらクローは嬉しそうに笑う。


「おい、こいつと知り合いなのか」


 フェインがヴェルデに聞くと、ローラもヴェルデをそっと見る。


「こいつも本当は俺と同じ師匠の弟子だった。幼い頃に師匠に追放されたけどな」


 ヴェルデの言葉にクローは冷ややかな瞳を向ける。


「追放?違います、師匠は俺の才能を見込んで世界へ羽ばたかせてくれただけです。可愛い子には旅をさせろと言うでしょう」


 うっとりとした顔でクローは言うが、ヴェルデは大きく首を振った。


「馬鹿言え、お前が関与してはいけない魔術に手を出そうとしたから……」

「おい、お前たちがどういう仲なのかは今はどうでもいい。さっさとあの女を始末してくれ」


 ヴェルデの言葉を遮って、イヴの兄の一人がクローにそう言うと、クローはふむ、と顎に手を添えてからにっこりと微笑んだ。


「そうでした、あなたたちの願いはローラ姫を殺すことでしたね。ローラ姫を殺せばヴェルデに苦痛を味合わせることができる。俺の望みも叶うわけです」

「お前、どうしてそんなことをする必要があるんだ。追放されて逆恨みか?お前が追放されたことは俺は関係ないだろう」


 ヴェルデがローラを庇いながらそう言うと、クローは色のない瞳でヴェルデを見つめる。


「俺があの時やっていることをあなたが師匠に言わなければ、今の俺はいないんですよ。俺と師匠を引き裂いたのはあなたですヴェルデ。しかも俺がいなくなってから師匠を独り占めして……許せませんよ。さて、始めましょうか」


 そう言ってクローが薄ら笑いを浮かべると、イヴの兄たちが突然イヴの両手を掴み地面に押さえつけた。


 イヴの兄たちが突然イヴの両手を掴み地面に押さえつけると、クローがイヴの頭の上に手を翳す。


「っ!何を……!」

「悪いな、イヴ。でもお前は元々俺たちとは考えが違かったみたいだからな。だったらもうイヴは必要ないんだよ」


 抵抗しようとするイヴを見下ろしながらイヴの兄の一人が笑みを浮かべながらイヴを押さえつける。


「クロー!お前まさか!」

「おっと、邪魔をしないでくださいね。もししようとするならイヴの命はないものと思ってください」


 ヴェルデはイヴを助けようとするが、クローの言葉に動きが止まり、そんなヴェルデを見てクローは満足そうに微笑んだ。


「今からとても面白いものをお見せしましょう。ローラ姫、あなたには絶望をまた味わっていただきます」


 クローがそう言うと、クローの手が光りだし、イヴの頭の上に紫色に光る魔方陣が浮かび上がった。


『我が魔力を代償に、この器にふさわしい魂を蘇らせたまえ』


 詠唱が終わるその瞬間、魔法陣の光が強さを増し、空から一筋の稲妻がイヴに落ちた。


「ガッ!」

「イヴ!」


 稲妻に打たれたイヴはガクリと頭をもたげ、動かない。だが、しばらくしてからピクリ、と肩が動く。


「……せ」

「は?」

「腕を離せと言っている」


 イヴが顔を上げてイヴの兄を睨みつける。そこには、イヴなのにイヴではない違う人間の表情が浮かんでいた。イヴの兄たちは驚いて手を離すと、イヴはゆっくりと立ち上がり腕を回してから首をパキリ、パキリと鳴らす。


「まさか……そんな」


 ローラが両手で口を覆い、息を呑み後ずさる。今にもその場に崩れ落ちてしまいそうで、ヴェルデは思わずローラの体を支えた。


「エルヴィン殿下……!」


 ローラの呟きに、イヴはローラへ視線を送り、ニヤリ、と笑う。その笑みはイヴの優しい微笑みではなく、卑しく穢らしいゲスい笑みだった。


「この体が俺の末裔か。なるほど、悪くない」


 自分の体の状態を確認しながらイヴの体を乗っ取ったエルヴィンは満足そうに頷く。それを見て、イヴの兄たちはエルヴィンの足元に跪いた。


「お前たちも俺の末裔だったな。尽力に感謝しよう」

「本当に、甦ったのですね……ありがたきお言葉」


 イヴの兄たちが頭を垂れると、エルヴィンはクローに話しかける。


「お前が俺を蘇らせた男だな。よくもまぁこんな大それたことをしたものだ」

「お褒めいただき光栄です」


 エルヴィンの賛辞にクローは張り付いた笑顔を向けた。


「さて、そこにいるのはローラだろう。久しいな。ローラのそばにいるのは確か、サイレーン国の筆頭魔導師だったか。このクローとか言う男に蘇りの打診を受けてからお前たちのことを聞いてはいたが……ふん、あのまま死んでいればいいものを」


 エルヴィンは気に食わないという顔で腕を組みローラを睨みつける。


「お前が死なず眠り続けたせいで俺やイライザたちがどれだけ酷い目にあったか!全部お前のせいだ。そもそもお前が出しゃばりで生意気な女なせいで、俺はお前を殺そうと思ったんだぞ。お前が悪い。そう、お前が悪いんだ!」


 唾を飛ばしながらエルヴィンが怒号する。


「しかも目覚めた上に、その男と幸せになろうとしているんだろ?どこまでお前は生意気なんだ!俺たちをこんな目に合わせて置いてお前は一人のうのうと幸せになろうだなんて、許されるわけないだろうが!」

「ふざけるな!元はと言えばお前が無能でダメな男だからだろうが!お前が断罪されたのも、イライザたちが追放され苦しい生活を強いられたのもお前に王としての資格も素質もないからだ!自分を棚に上げてローラのせいにするな!」


 ローラを庇うように抱きしめながらヴェルデが叫ぶ。ヴェルデの腕の中で、ローラは信じられないものを見るような目でエルヴィンを見つめていた。


(ああ、本当に、エルヴィン殿下だわ……イヴは、イヴはどうなってしまったの……)


 涙を浮かべてエルヴィンを見つめるローラを庇うようにしてフェインも近くに立っている。


「はあ?俺のせいだ?黙れ、異国の愚民が。……まあいい、お前ら全員殺してやる。その前に」


 そう言って、近くにいたイヴの兄の腰にかかっている剣を鞘から抜き、ローラに剣先を向けた。


「ローラ、こっちに来い。来なければこの男、イヴの体を八つ裂きにして二度とイヴがこの世を生きることができないようにしてやる」



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