『少女と猫』 八朔
少女はいつもひとりぼっちでした。みんながかくれんぼをしているときも鬼ごっこをしているときも。少女は好きでひとりで居るわけではなく、本当はみんなと一緒に遊びたくて仕方がありませんでした。
少女はみんなの輪のなかに入ろうと、みんなの背中を懸命に追いかけていました。けれど、ある日、少女は言われてしまったのです。
「ついてくんなよ、鬱陶しい! この宇宙人が!! 変な色の髪と目しやがって!!」
その時になってようやく少女は理解しました。どうしてみんなから仲間外れにされるのかを。
その日から少女はみんなと遊びたいとは思わなくなりました。いえ、本当は今までと同じくみんなと遊びたいと思っていました。しかし、悲しいことに少女はみんなと遊べないことに気づいてしまったのです。
――どうして私の髪と目の色はみんなと違うんだろう
いつの間にか少女はそのことばかりを考えていました。どうして、どうして、どうして、疑問は膨れていくばかり。けれど、少女が考えても考えても答えは出ませんでした。
***
今日も少女はひとりぼっちで遊んでいました。
公園の中から石を集めて上に重ねていく。ただそれだけの遊びでしたが、高く積みあげられた時の達成感は心地よく、少女は夢中になって石を積み上げていました。
『ほぉ、珍しい髪と瞳を持った子供じゃの』
ふいに声が聞こえてきて、少女はびくりと身体を震わせました。
(また、私の悪口でも言ってるのかな……)
じわりと少女の目に涙が浮かんできました。
髪と目の色が違うだけでどうして色々と言われなくちゃいけないのだろう。他はみんなと同じなのに。鼻もついてるし、口だってちゃんとある。宇宙人でも化け物でもないちゃんとした人間なのに。
『久しぶりに見かけたわい。儂と同じ毛の色を持つ人間はそうそういないからのぉ』
次に聞こえてきた言葉に少女は驚いて顔をあげました。
「私と……同じ……?」
しかし、声につられて周りを見回してみるも少女と同じ髪の色を持った人はおらず、ただ一匹の猫がこちらをじっと見ているだけでした。
「なんだ……いないじゃん……」
少女は顔をうつむけると、石を積む遊びに再び没頭しようとしました。しかし……。
『なんと! 儂の声が聞こえていたのか! これはこれは、面白いこともあるもんじゃのぉ』
「へっ……?」
少女はまた顔をあげると辺りをきょろきょろと見回しました。けれど、居るのは一匹の白い猫だけ。
「どこ……?」
少女は小さく囁くようなか細い声で、声の主に問いかけました。
すると、白い猫がトコトコとこちらへ歩いてきて、少女の目の前でぴたりと止まりました。
『儂じゃよ、儂。お前さんの目の前におるじゃろ』
「えっ? えっ? ね、猫さんがしゃ、喋ってる……!」
驚きで少女は暫しの間、呆然と白い猫を見つめていました。白い猫は少女の表情が面白かったのか、尻尾をパタパタと降ました。
『驚いたかの? 儂も驚いたわい。まさか儂の声を聞くことができる人間がまだいたとはのぉ』
「ね、猫さんの声は誰にでも聞けるわけじゃないの?」
『そうさなぁ。昔はもっと聞ける奴が居たのだが、だんだんと減ってきてな。お主のように儂の声が聞こえる人間にあったのは36年前かのぉ』
「そうなんだ……。じゃあ、猫さんは誰かとお話するのも久しぶりなの?」
少女の問いかけに白い猫は人間のように少し首を傾げる仕草をしてみせました。
『人間と話すのは久しぶりだが、儂は人間だけと話すわけではないからのぉ。そうじゃな、三日前に三丁目のミケの坊主と話したな。あいつはヤンチャだから話すというより、じゃれあっていたというほうが正しいかもしれんが』
「そっか……。猫さんにはちゃんと話し相手がいるんだね……」
『……お主には居ないのかの?』
少女は小さく頷くと、寂しそうに白い猫に話はじめました。
「みんなね、私と一緒に居るのが嫌なんだって。私の髪の色と目の色がみんなと違うから。私は宇宙人なんだって。だから、みんな仲間はずれにするの。私と話すのも遊ぶのも全部嫌なんだって……」
少女は溢れそうになる涙を堪えながら、それでも白い猫に笑顔をみせました。
「だからね、私はみんなと居ないことにしたの。そしたらみんなに嫌な思いさせないでしょ? だから……」
そこで限界がきたのか、少女の目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちてきました。
白い猫はそんな少女をじっと見つめると慰めるように白い前足を少女の足にのっけました。
『辛いときはたくさん泣けばいい。泣くのを我慢するのはそれこそ辛いじゃろ? 泣けばすっきりするぞ、まだ幼いのだからたくさん泣けばいい』
その白い猫の言葉に、少女は洪水のように涙が出てくるのがわかりました。
「うわぁーん!」
うわぁーんと何度も何度も声を上げて少女は泣き続けました。
そうして、散々泣き明かした後、少女は恥ずかしそうにすんと鼻を鳴らし、白い猫にそっとお礼を言いました。
「ありがとう……猫さん。猫さんの言った通り、何だかすっきりした……」
『気にするでない。泣きたいときは泣く。それでいいんじゃよ。お主はまだ幼い。これからもっと辛い思いをすることもあるじゃろう。そんな時はおもいっきり泣けばすっきりするもんじゃ。すっきりした後はまたいつものように前を向いて歩いていけばいい』
「……うん。本当にありがとう、猫さん。私……いつのまにか泣くことすら忘れてたみたい……。泣いたってなにも変わらないからって、なにも変わらないのは泣いた後に私が前に進んでなかったからだね……」
少女は気合をいれるようにすくっと立ち上がりました。
「猫さん、私もうちょっと頑張ってみる! いつまでもひとりぼっちじゃ嫌だもの!」
真っ直ぐ前を向く少女を白い猫を目を細めて見上げると、尻尾をしゅっと応援するように一振りしました。
「頑張りたまえよ」
白い猫の言葉に少女はにっこりと笑って見せました。




