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第五話 十二歳、新しい世界

「卒業、おめでとう!」


桜が舞う校庭で、写真を撮る保護者たちの笑い声が響く。


結城奏斗と天城すずは、小学校を卒業した。


二人は同じ市内の公立中学校へ進学する。


「またよろしくね。」


「ああ。」


それだけの短い会話。


しかし、この春から二人が見る景色は、大きく変わることになる。


四月。


中学校入学式。


体育館に新入生が集まる。


「今年は結城くんが入学するらしいぞ。」


「テレビに出てた神童?」


「同じ学年なの?」


そんな声があちこちから聞こえてくる。


(まだ覚えられてるのか……。)


奏斗は苦笑する。


神童。


その肩書きは、小学生の頃より重く感じるようになっていた。


教室へ入ると、担任が言った。


「自己紹介をしましょう。」


順番に名前と趣味を話していく。


そして奏斗の番。


「結城奏斗です。よろしくお願いします。」


拍手。


それだけだった。


小学校なら質問攻めだった。


しかし中学校では違う。


周りの反応はどこか冷静だった。


(……あれ?)


少しだけ拍子抜けする。


昼休み。


「ねえ。」


話しかけてきたのは、眼鏡をかけた男子だった。


「ニュースで見たことある。」


「勉強教えてよ。」


「いいよ。」


普通の会話。


普通の距離感。


それが妙に心地よかった。


神童ではなく、一人のクラスメイトとして接してくれる。


そんな相手が初めてだった。


放課後。


すずと一緒に校内を歩いていると、廊下の向こうから歓声が聞こえた。


「速っ!」


「全国レベルじゃん!」


グラウンドを見ると、一人の男子が陸上部の先輩たちをごぼう抜きにしていた。


「一年生?」


「うん。」


すずが驚いたようにつぶやく。


「もう百メートル十一秒台らしいよ。」


「……。」


奏斗は黙って見つめる。


前世の記憶が答えを教える。


(十二歳で十一秒台……。)


(本物だ。)


努力だけでは届かない。


身体能力そのものが違う。


「すごいね。」


すずは素直に拍手していた。


奏斗だけが、胸の奥に小さな違和感を覚える。


翌週。


新入生歓迎会。


各部活の紹介が始まる。


吹奏楽部。


野球部。


サッカー部。


そして科学部。


壇上に立った三年生の女子が、透明な液体をビーカーへ注ぐ。


次の瞬間。


液体は鮮やかな青色へ変わった。


「おぉー!」


体育館がどよめく。


「化学って、魔法みたいでしょう?」


先輩は笑う。


「でも、これは全部理由があります。」


奏斗は思わず身を乗り出した。


その説明は知らない内容だった。


(……知らない?)


前世でも化学は苦手だった。


だから、その反応は自然だった。


しかし。


その瞬間、気付いてしまう。


「知らないこと」が増え始めている。


帰り道。


「科学部、面白そうだったね。」


すずが言う。


「ああ。」


「入る?」


「……考える。」


「私は入る。」


「即決?」


「うん。」


「知らないことを知れるから。」


その言葉に、奏斗は苦笑した。


「相変わらずだな。」


「結城くんは?」


少し考える。


そして答えた。


「……俺も入る。」


初めてだった。


前世の知識ではなく。


「これから学ぶため」に何かを選んだのは。


夕日に照らされながら歩く二人。


その背中を、校舎の窓から一人の女子生徒が見つめていた。


「……結城奏斗。」


彼女は小さく名前をつぶやく。


三年生。


科学部部長。


全国中学生科学コンテスト二連覇。


天才と呼ばれる少女だった。


「神童、ね。」


興味深そうに微笑む。


「本当にそんなにすごいのか、見せてもらおうかな。」


奏斗はまだ知らない。


自分より年上には、すでに”本物の天才”が何人もいることを。


そして、自分の「神童」という肩書きが、少しずつ色あせ始めていることを。

最後までお読みいただきありがとうございます!


もし少しでも面白いと思っていただけましたら、


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