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第三話 答えを知る者、答えを探す者

「自由研究発表会まで、あと一か月です。」


担任が黒板に大きく予定を書き込む。


教室では「何を作ろうかな」「面倒くさいな」と騒いでいる。


その中で、すずはノートを広げたまま動かなかった。


「何を調べるの?」


友達に聞かれると、彼女は小さく笑う。


「まだ決めてない。」


「え? 何も考えてないの?」


「うん。」


「じゃあ結城くんは?」


全員の視線が俺に集まる。


「もう決めてる。」


実際には、決めるまでもなかった。


前世で読んだ本。


テレビで見た実験。


科学館の展示。


その中から、小学生でも再現できそうなものを選べばいい。


(今年の優勝作品って、確か……。)


記憶をたどる。


そして、一つ思い出した。


(ああ、これだ。)


放課後。


図書室。


俺は理科の本を数冊借りる。


そのとき、向かいの席にすずが座った。


机の上には白紙のノート。


鉛筆だけが置かれている。


「調べないの?」


俺が聞くと、彼女は首を振った。


「まだ。」


「じゃあ何してるの。」


「考えてる。」


「考える?」


「うん。」


彼女は窓の外を見ながら言った。


「みんな、本を読んでから研究するでしょ?」


「そうだね。」


「私は逆。」


「最初に疑問を探す。」


その言葉に、俺は少しだけ引っかかった。


「例えば?」


「例えば……。」


彼女は図書室の天井を見上げる。


「どうして夕焼けは赤いの?」


「どうしてシャボン玉は虹色なの?」


「どうして雨は降るの?」


「そういう『どうして?』が見つかったら、本を読む。」


俺は答える。


「夕焼けは光の散乱で——」


「うん。」


「知ってる。」


「でも。」


彼女は笑う。


「私は最初に答えを知りたくない。」


「え?」


「自分で考えたいから。」


その瞬間。


胸の奥が、少しだけざわついた。


数週間後。


発表会当日。


市内の小学校から何十人もの児童が集まっていた。


保護者。


先生。


審査員。


体育館は満席だった。


俺の順番が来る。


発表内容は予定通り。


前世で知っていた実験を、小学生向けに分かりやすくまとめたもの。


審査員は何度もうなずく。


「素晴らしい。」


「完成度が高い。」


「小学生とは思えません。」


拍手が起こる。


(まあ、そうなるよな。)


前世の知識を使っているのだから。


そして最後。


すずの番になった。


スクリーンに映ったタイトルは——


『どうしてタンポポは踏まれても増えるの?』


会場が少しざわつく。


もっと難しいテーマだと思っていた人が多かったのだろう。


すずはゆっくり話し始めた。


「最初は、雑草って邪魔だなって思ってました。」


会場から小さな笑いが起きる。


「でも。」


「毎日踏まれているのに。」


「どうしてなくならないんだろうって思いました。」


彼女は学校へ何週間も通い続け、


毎日同じ場所を観察し、


写真を撮り、


ノートを書き続けた。


途中で間違えた仮説も、そのまま発表した。


「最初はこう思いました。」


「でも違いました。」


「だから次はこう考えました。」


その研究には、


“正解までの失敗”


が全部残っていた。


審査員の一人が思わずつぶやく。


「……面白い。」


俺は黙って聞いていた。


研究内容なら、俺の方が難しい。


知識量も、説明も、完成度も。


それでも。


どうしてだろう。


彼女の発表の方が、ずっと目が離せなかった。


結果発表。


最優秀賞。


「結城奏斗さん。」


拍手。


予想通りだった。


優秀賞。


「天城すずさん。」


また拍手が起きる。


彼女は悔しそうな顔一つせず、笑顔で賞状を受け取った。


帰り道。


夕日が二人の影を長く伸ばしていた。


「負けた。」


すずが言う。


「うん。」


「でも。」


彼女は空を見上げて笑う。


「次は勝てそう。」


俺は苦笑した。


「根拠は?」


「だって。」


彼女は真っすぐ俺を見る。


「結城くんは、知ってることを発表した。」


「私は、知らないことを調べた。」


「だから、来年の私は今年の私より強い。」


「でも結城くんは——」


そこで彼女は言葉を止めた。


少し考えてから、笑って続ける。


「来年は、もっとすごい研究をするんでしょ?」


俺は何も答えられなかった。


前世の知識には限りがある。


まだ十歳だから気付かない。


だが、その言葉は静かに胸へ刺さった。


“来年の俺は、今年の俺より強くなれるのか?”


夕焼けに染まる帰り道で、その問いだけが、いつまでも頭の中に残り続けていた。

最後までお読みいただきありがとうございます!


もし少しでも面白いと思っていただけましたら、


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