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第二話 無謀な挑戦者

「あなたに勝つために来ました。」


教室は静まり返った。


数秒後。


「えぇぇぇぇぇっ!?」


クラス中が一斉にざわつく。


「結城に勝つって?」


「無理でしょ。」


「だって結城だよ?」


「全国一位の?」


そんな声が飛び交う中、担任の先生だけが苦笑いを浮かべた。


「え、えーっと……天城さん? まずは席に――」


「はい。」


すずは何事もなかったように返事をすると、窓際の席へ向かった。


その席は――俺の隣だった。


(……最悪だ。)


いや、悪い意味ではない。


こういうタイプは苦手なのだ。


自分を神童だと思って挑んでくる子は、今まで何人もいた。


結果はいつも同じ。


テストで負ける。


大会で負ける。


そして勝手に落ち込んで離れていく。


そのたびに俺は思う。


(だから勝負なんてしなきゃよかったのに。)


休み時間。


案の定、すずは机を寄せてきた。


「ねぇ。」


「……何?」


「勝負しよう。」


「早いな。」


「今日。」


「もっと早かった。」


俺がため息をつくと、彼女は首をかしげた。


「嫌なの?」


「嫌というか……。」


「負けるのが怖い?」


思わず笑ってしまう。


「いや。」


「じゃあ何?」


俺は少し考えてから答えた。


「君、俺のこと知らないでしょ。」


「知ってる。」


「テレビで見た。」


「本を何百冊も読んでる。」


「全国模試一位。」


「七歳で高校数学。」


「英語も話せる。」


全部、本当だ。


だからこそ。


「なら勝てないって分かるでしょ。」


すると、すずは少しだけ笑った。


「それ、あなたが決めることじゃないよ。」


その一言に、言葉が詰まった。


放課後。


先生がクラス全員に紙を配った。


「来月、市の自由研究発表会がある。」


「テーマは自由。」


「希望者だけでいいぞ。」


クラスは一気に盛り上がる。


「結城が優勝じゃん。」


「もう決まりだ。」


「他の学校かわいそう。」


そんな声が聞こえる。


俺は紙をカバンへしまった。


別に出るつもりはない。


どうせ勝ってしまう。


前世で知っている知識をまとめるだけだ。


そんなものは研究でも何でもない。


すると。


「先生。」


すずが手を挙げた。


「私、出ます。」


先生は笑顔でうなずく。


「お、いいね。」


「他には?」


教室は静かだった。


そのとき。


すずは俺の方を向いた。


「結城くん。」


嫌な予感しかしない。


「あなたも出るよね?」


「……出ない。」


「なんで?」


「興味ないから。」


「嘘。」


「……。」


「負けるかもしれないから?」


教室がまた静かになる。


みんながこちらを見ている。


俺は思わず苦笑した。


「君さ。」


「何?」


「挑発するの好き?」


「うん。」


即答だった。


「勝負しないと分からないじゃん。」


その目には、一切の迷いがなかった。


俺は少しだけ感心した。


(この子……。)


普通なら俺を見て諦める。


でも、この子は違う。


本気で勝てると思っている。


いや。


勝てるかどうかではない。


勝ちたいと思っている。


その違いに、俺は初めて気付いた。


「……分かった。」


教室がざわめく。


「出る。」


「ほんと?」


「ああ。」


「その代わり。」


俺は笑った。


「泣いても知らないよ。」


すると、すずは満面の笑みを浮かべる。


「うん!」


「でもね。」


「私、負けても泣かない。」


「勝つまで挑むから。」


その笑顔は、不思議なくらい眩しかった。


そのときはまだ知らない。


十歳の俺は”神童”と呼ばれていた。


けれど。


五年後。


十五歳になった頃には。


彼女は、俺がどれだけ手を伸ばいても届かない場所まで成長している。


そしてその日、初めて俺は気付く。


本物の天才は、彼女のような人間を言うのだと。

最後までお読みいただきありがとうございます!


もし少しでも面白いと思っていただけましたら、


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