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第二部 第八話 転生者の告白

大学四年、冬。


卒業論文の提出が終わった夜だった。


研究室では打ち上げが開かれている。


「結城!」


「卒論、お疲れ!」


「ありがとう。」


拍手が起こる。


教授も、橘も、大学院生も笑っていた。


ひまりだけは少し寂しそうだった。


「もう卒業ですね。」


「そうだね。」


「……。」


「どうした?」


「少しだけ。」


「寂しいです。」


打ち上げが終わる。


雪が降り始めていた。


「送ります。」


ひまりが言う。


「いや、大丈夫。」


「勝手についていきます。」


「そう。」


結局、二人で歩くことになった。


大学から駅まで十五分。


静かな夜道。


「先輩。」


「ん?」


「聞いてもいいですか?」


「いいよ。」


「どうして。」


「そんなに何でも知ってるんですか?」


奏斗の足が止まった。


その質問は。


二十年間、一度も真正面から聞かれたことがなかった。


「……何でもじゃないよ。」


「でも。」


「高校の頃から。」


「同じ年とは思えませんでした。」


「先生より。」


「社会人みたいでした。」


ひまりは笑う。


冗談半分。


本気半分。


「もしかして。」


「転生者だったりして。」


「……。」


風が止んだ。


雪だけが静かに舞っている。


奏斗は空を見上げる。


(言うべきか。)


前世の記憶。


誰にも話したことはない。


話したところで、信じてもらえる保証もない。


長い沈黙。


「先輩?」


奏斗は、小さく笑った。


「もし。」


「本当にそうだったら?」


ひまりも笑う。


「面白いですね。」


「赤ちゃんから人生やり直し。」


「最強じゃないですか。」


「……そうかな。」


「絶対そうですよ!」


無邪気な答えだった。


奏斗は首を横に振る。


「違う。」


「え?」


「知識だけ持ってても。」


「人生は上手くいかない。」


ひまりは黙る。


奏斗は静かに続けた。


「昔の俺は。」


「知ってることばかり自慢してた。」


「でも。」


「それだけだった。」


「本当に大事なのは。」


「知らないことを楽しめること。」


「負けても続けること。」


「人と出会うこと。」


「それは。」


「もし転生してても。」


「やり直せない。」


ひまりはその言葉を静かに聞いていた。


「だから。」


「仮に転生者だったとしても。」


「人生は簡単じゃない。」


それだけ言って笑った。


「まあ。」


「秘密ってことで。」


ひまりは数秒考えたあと。


「分かりました。」


「信じません。」


「え?」


「でも。」


「どっちでもいいです。」


「え?」


「先輩は。」


「先輩ですから。」


その一言に。


奏斗は救われた気がした。


もし秘密が知られても。


この子はきっと、肩書きでは見ない。


神童でも。


転生者でも。


ただの人でも。


結城奏斗として接してくれる。


「ありがとう。」


「はい!」


卒業式前日。


教授室。


「結城くん。」


「はい。」


「大学院へ進学するか。」


「教員になるか。」


「まだ迷ってるね。」


「……はい。」


教授は一枚の封筒を渡した。


「これは?」


「開けてごらん。」


中には、一通の推薦状。


『大学院特別推薦』


全国でも数人しか選ばれない制度だった。


「先生……。」


「研究を続けなさい。」


「君なら。」


「教育を変えられる。」


奏斗は推薦状を見つめる。


頭の中に浮かぶ。


小学生の頃。


神童と呼ばれた日々。


高校で負け続けた日々。


大学で問いを学んだ日々。


そして。


ひまりと出会った日。


すべてが一本の線になって繋がる。


「……はい。」


静かに頭を下げた。


「大学院へ行きます。」


教授は満足そうに笑った。


「ようこそ。」


「研究者の世界へ。」


その日の夜。


ひまりへメッセージを送る。


大学院へ進むことにした。


すぐに返信が来た。


やった!



じゃああと三年ありますね!


奏斗は苦笑する。


何が?


数秒後。


先輩を追い越すまでの時間です。


そのメッセージを見て。


奏斗は声を出して笑った。


「本当に。」


「無謀だな。」


でも。


その無謀さが。


誰よりも将来有望だと知っていた。


雪は静かに降り続ける。


転生者の青年は。


もう過去ではなく。


未来を見て歩いていた。

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