↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/33

第十四話 挑戦者

七月。


全国高校科学研究選手権まで、あと二週間。


放課後の科学部は、いつも以上に静かだった。


カタカタ、とキーボードを叩く音。


ガラス器具が触れ合う音。


ページをめくる音。


誰も無駄話をしない。


全国を目指す者たちの空気だった。


「結城。」


部長に呼ばれる。


「はい。」


「ちょっと来て。」


会議室には、先生が三人集まっていた。


「座って。」


嫌な予感がした。


「研究を見せてもらった。」


「はい。」


先生は資料を閉じる。


「正直に言う。」


「このままだと全国では厳しい。」


「……はい。」


予想はしていた。


「データは素晴らしい。」


「考察も丁寧。」


「でも。」


「“結城奏斗だからできた研究”ではない。」


また、その言葉だった。


自分らしさ。


自分だけの問い。


そこが弱い。


部室へ戻ると、一ノ瀬が窓際で本を読んでいた。


「怒られた?」


「分かる?」


「顔。」


奏斗は苦笑する。


隠せていないらしい。


「研究って難しいな。」


思わず本音が漏れる。


一ノ瀬は本を閉じた。


「結城。」


「君はさ。」


「昔から。」


「答えを探すのは得意だった。」


「でも。」


「問題を作るのは苦手なんだ。」


その言葉は、あまりにも正確だった。


「どうすればいい?」


一ノ瀬は少し考える。


「知らない。」


「え?」


「それは。」


「自分で見つけるしかない。」


そう言うと、また本を開いた。


翌日。


土曜日。


奏斗は一人で街を歩いていた。


研究テーマを探すため。


図書館。


公園。


河川敷。


商店街。


何を見ても、心は動かなかった。


(俺は何を知りたいんだ。)


考えれば考えるほど分からない。


気付けば夕方になっていた。


「結城くん!」


後ろから声がする。


振り向くと、すずだった。


「こんなところで何してるの?」


「散歩。」


「嘘。」


即答だった。


「研究のことでしょ。」


「……お見通しか。」


「うん。」


すずは笑う。


「付き合って。」


「どこへ?」


「秘密。」


着いたのは、小さな公園だった。


遊具も古く、人も少ない。


ベンチには、一人の小さな男の子が座っていた。


靴紐がほどけている。


何度結び直そうとしても、うまくいかない。


「……。」


奏斗は無意識に近寄る。


「貸して。」


「あ……。」


男の子の靴紐を結ぶ。


「ありがとう!」


男の子は笑って走っていった。


その様子を見ていたすずが言う。


「今の。」


「うん?」


「なんで手伝ったの?」


「え?」


「困ってたから。」


「それだけ?」


「……それだけ。」


すずは嬉しそうに笑った。


「それが結城くんだよ。」


「?」


「知らないことを知りたい人じゃなくて。」


「困ってる人を放っておけない人。」


奏斗は首をかしげる。


研究と何の関係があるのか分からない。


すると、すずはベンチに座りながら続けた。


「結城くん。」


「前に部活で。」


「後輩に教えてたよね。」


「うん。」


「その時。」


「すごく楽しそうだった。」


「……。」


「研究してる時より。」


その言葉に、奏斗は息をのんだ。


思い返す。


確かに。


自分は実験が成功した時より。


誰かが「分かった!」と笑った時の方が嬉しかった。


「もしかしたら。」


すずは空を見上げる。


「結城くんが本当に知りたいのは。」


「どうすれば人は分かるようになるのか。」


「なのかもしれないね。」


風が吹く。


奏斗の中で、何かが繋がった。


前世。


会社員時代。


新人教育。


中学では後輩を教えた。


高校でも、部員に教えている。


気付けば、いつも同じことをしていた。


「……そうか。」


小さく呟く。


「俺。」


「研究したいのは。」


「人が成長する瞬間なのか。」


胸が高鳴る。


これは、本当に初めてだった。


誰かから与えられたテーマじゃない。


本で見つけたテーマでもない。


自分の人生から生まれた問い。


「ありがとう。」


奏斗が笑う。


すずは首を振った。


「私は何もしてない。」


「ううん。」


「一番大事なことを教えてもらった。」


その帰り道。


夕焼けの中を歩きながら、奏斗は新しい研究ノートを開いた。


表紙に書く。


『人は、どの瞬間に「分かった」と感じるのか』


その文字を見て、一ノ瀬ならきっと笑うだろう。


そして、「ようやく君の研究になったね」と言うはずだ。


高校一年の夏。


神童だった少年は、初めて自分だけの問いを見つけた。


ここから先は、もう誰かの人生の焼き直しではない。


結城奏斗だけの物語が、本当の意味で始まろうとしていた。



最後までお読みいただきありがとうございます!


もし少しでも面白いと思っていただけましたら、


★評価

★ブックマーク

★感想


をいただけると執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「結城。」 「君はさ。」 「昔から。」 「答えを探すのは得意だった。」 ↑ 一ノ瀬くん中学校が違った筈なのに あたかも昔から良く知っているかの様に 物申す姿 もしかして恋?←チガウヨ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。