第七話 義盗の手に持つ線香花火
「みなさーん、ハロースパークー!
みんなの線香花火、スパークルが、あっと驚くシーンをお届けするよ!
今日はスペシャルゲストをお呼びしてるんだー!
出てこーい!薪の英雄さん!」
カメラに向かって見事なトークをみせる少女は、目の前の青年を視聴者に見せつける。
〈えっめっちゃイケメンじゃね?〉
〈抱いて〉
〈¥1000 もっとやれ〉
〈次の犠牲者はこいつか…〉
「はいはーい、スパチャありがとー!
それじゃあ、かっこいいお兄ちゃん、みんなに挨拶挨拶ー」
青年は一瞬少女を睨みつける。
しかし、カメラに向かって見事に演技をしてみせた。
「紹介に感謝しよう。火花卿。
やぁやぁ諸君。俺の名は『ヴラド』。今話題の、『薪の英雄』の一人であり、その華でもある。
諸君には、『残響怪盗』の方が慣れ親しんだ名だろう。」
〈残響怪盗!?〉
〈すげぇ大物じゃん!〉
〈すぱちゃんそんなコネあったのかよ〉
〈残響様ぁぁ!〉
残響怪盗。世に名を馳せる義盗。
富める者から盗み、貧しい者へ振り撒く、こんな世界の中では、相当珍しい狂人と言える人種だ。
少女は手を叩き、企画を説明し始める。
「今回の企画は…
ずばり、残響怪盗をぶっ倒して、身包み剥ぎ取ってみた!
それじゃ、覚悟してねー」
少女は青年の方を向き、準備運動かの様に軽く飛び跳ねる。
「そのアタッシュケースの中身、見せてくれるよね?」
少女は妖々しい笑みを浮かべ、青年に歩み寄る。
「…その前に、聞こうか。
火花卿。君は運命って、信じるかい?」
「運命ぃ?うーん、それが映えるなら信じまくるし、それがつまんないなら信じないってとこかなぁ」
「…そうか。
なら、最後にひとつ。
このヴラド、盗むと決めた物は必ず盗む。
そして、勝つと決めた勝負は、必ず勝つさ。」
そう言った瞬間、青年はまるで元からいなかったかの様に消えてなくなった。
〈え?消えたぞ?〉
〈電波悪いのか?〉
〈いやこっちも消えた。〉
〈まさか…逃げた!?〉
「ちょっとぉー、これじゃぁ予定と違うんだけど!」
少女の唇が閉じた瞬間、消失と共に、青々とした刃が喉元へ水の様に流れ込んだ。
「おっと!」
ボンという音と共に、少女は爆風で一瞬にして飛び上がり、華麗に着地してみせた。
「表は虚構、裏は末日。貴様はどちらがお望みだ?」
「もー!これ生配信なんだよ!動画映えしない戦い方はやめて!
表で行こうかな⭐︎」
少女は地団駄を踏みながら、指を鳴らす。
パチンッ!
乾いた音と共に!火花が炸裂。
青年は一瞬にして火に包まれる。
「さぁ、華麗なるダンスバトルと行こうかッ!」
青年は声と共に爆風から無傷で飛び出す。
先程までは長剣の様な形をしていた武器が、
今は短い2本の双剣となっている。
〈武器変わってね?〉
〈まじやん〉
〈おい怪盗…アタッシュケース、どこやった?〉
〈↑君のような感のいいカキはフライだよ〉
青年の双剣は、舞う蝶の様に輝き、刺す蜂の様に炸裂する。
これには、強者である少女もいい顔をしない様だ。
「ちょっとタンマタンマ!みんな着いてこれてないって!」
「後でスロー編集すればいい話だろう!」
青年の猛攻は止まることはなく、喉、臓器、動脈、人体の急所を狙い続ける。
「ああもう、これじゃあ埒が開かないよ!」
少女は明らかに怒った様子で、左手から連鎖爆破を飛ばす。
うねる炎が、青年へ竜巻の様に襲いくる。
〈すぱちゃん必殺ktkr〉
〈やっば…〉
〈もうこれ死んだだろ〉
〈骨は拾ってやる〉
辺りに煤と煙の臭いが満ちる。
黒色の煙が過ぎ去った時、そのど真ん中に、人影が立っていた。
「ワルツにしては少々、賑やかしが過ぎるのではないか?」
青年の持つ武器は、双剣ではなく大鎌へと変化している。
「ちょっとタイム!
その面白そうな物、みんなに教えてあげて!」
少女はカメラを持って青年へ駆け寄り、
大鎌をドアップで映す。
「大丈夫大丈夫、ここで攻撃はしないよォ?」
青年は一瞬迷う様な息遣いを見せたが、すぐに演じてみせた。
「俺の相棒。『残響するキキョウ』は言うなれば組み替え武器。組み合わせ次第で無限の可能性を引き出せる。」
〈合体武器キター!〉
〈男の子ってこういうのが好きなんでしょ?〉
〈うん、大好きさ!〉
「コメ欄凄い反響だね!じゃあさじゃあさ、すぱが勝ったら、これ頂戴!」
少女は跳ねながら目を輝かせる。
「悪いな。道具は盗賊の花形。人に明け渡すことなど出来はしない。」
それを聞いた少女は大袈裟に落胆した様子を見せる。
「ぶー!ケチ!いいもん!無理やり盗るもん!」
「奪えるなら力尽くで奪うといい。
しかし、怪盗から盗む、ということの重さを焼き付けてからにしてもらおう。」
青年は一瞬にして後方に移動。
わざわざ見せびらかす様に武器を変形させる。
その形状は、大きな盾となる。
「アハハ!そうこなくっちゃね!」
少女は狂気じみた笑顔を見せ、指を二連続で鳴らす。
地を這うように炎がうねり、青年へ突き進む。
青年の盾と炎がぶつかり、黒と赤の大爆発が起こる。
「ッ!やれやれ…これじゃあ服が焦げてしまうじゃないか。」
煙の中から、服を払いながら青年が歩いてくる。今回は無傷ではなく、少し火傷を負っている。
「あー!やっとヤケドしたみたいだね!
どう?すぱの爆発、やっぱ強いでしょ!」
「そうだな。貴様の火力は賞賛に値する。
しかし、貴様はその火力で火を付けてしまった様だな。」
少女が瞬きをした瞬間、
青年の蹴りが直撃する。
「怪盗は、線香花火の様に一瞬だけ、輝くのだ!」
少女の首元に、大鎌の刃が迫る。
この距離、先ほどの様な回避は不可能だろう。
しかし、少女の唇が開かれ。
「ぼーん」
最大級の大爆発。
その爆風は、少女自身すらも飲み込むほど。
吹き荒ぶ火炎の中に立っているのは、ただ一人の少女だけであった。
「びっくりした?ねぇねぇびっくりした?」
青年は膝をつき、血を吐き出す。
火傷とあざだらけの顔を見せ、思い切り、少女を睨みつける。
「…今、線香の火が、地に落ちた。」
「すぱが本気出してるって思ってた?」
「…チッ。
思ってはないさ。貴様は最初から遊びだった。違うか?」
「アハハ!大正解!」
少女はカメラに向かって両手でピースをして、観客にアピールする。
〈¥10000 流石!〉
〈¥2000 やるやん〉
〈¥50000 ピース保存した〉
「それじゃ、約束通りそのかっこいー武器、貰うね❤︎
悔しそうなお兄ちゃん❤︎」
少女が地面に突き刺さる大鎌に手を伸ばす時。辺りにカサカサという、なにかが這う音が響く。
「あーあ、面倒なムカデが来ちゃったよ。
まあ、取れ高的にはいい感じか。」
少女がムカデに注意を取られている隙、青年は武器を捨て、一瞬にして逃げ去る。
「はぁ?なんで逃げんのさ、今から良いシーンのはずなのに?」
配信画面が、一瞬だけ乱れる。
──そして、視聴者数が“減った”。
「……あ、やっば」
その中に、一つ、コメントが打ち込まれる。
「¥50000 悪いがお暇させてもらおう。
火遊びは嫌いではないが、仲間を燃やす趣味はないのでな。」




