第五十三話 機竜、蒼穹を穿つ
「止めてみな。できるもんなら。」
結局のところ、アタシにとってはあの子しかいない。
彼らにも多少の情はあるけど、あの子とじゃあ優先順位が違う。
「……ここで、ぼくらの道は分かれたよ。」
スティーブ君は地面を叩いて立ち上がる。
その鉄の拳は、硬く握られていた。
彼の本気の拳。多分、当たれば一撃で死ぬ。ガードなんざ意味をなさない。
─────ここは。
「…悪いけど、アタシは遊びに付き合う義理はないんだ。」
クラゲちゃんが、アタシの体を包む。
ここで、アタシはやられるわけにはいかない。
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スティーブが、家へと戻った。
彼の機体は締め付けられたように一部が変形している。
僕は何があったのか知らないが、まあ碌なことはなかったんだろう。
「話は通信で聞いています。厄介なことになりましたね…」
「四十四番街か…メカ社の支部がある地だ。
そこの住人を虐殺する…それが何を意味するかは、皆なら分かるだろう。」
「……軍団長クラスが、また投入される可能性がある。」
ヴラドは指を立て、それだけじゃない、と言わんばかりに口を開く。
「軍団長で済むのなら楽なものだ。六大勢力が支配する人々に危害を加える、あろうことか鏖殺を宣言したのだ。
…始まるぞ。全面戦争が…」
メカ社との抗争は、ここにいるみんなが経験している。
トラキュレンス、レックレス、リベリオス、プレデターワーム、ドレッドノート、ドゥーム。
この六体との戦闘は、それは思い出したくない。酷い目にあった。
プレデターワームはなんとか撃破できているが、それ以外の五体はどうしようもない。一体で盤面が破壊されるほどの力だ。
「…しかも、だぞ。
白日卿、妖光卿、君らは戦えるか?」
ヴラドは僕らを指差す。
僕はスティーブとポールの件で肋骨が数本逝った。それに、まだ全身の傷は治っていない。全身痛い。
エリはさらに酷い。手の指の骨折、内臓にダメージ、脳震盪の後遺症。
彼女と目を見合わせる。
いつもの煌びやかな笑顔はなく、暗い顔をしていた。
「軍団長とも引けを取らない君ら2人、覚醒者の荒龍卿が戦闘不能の今、我々に出せる手はほぼ潰えている。」
こちらが出せる最強のカード、スティーブがあるとは言え、軍団長を複数相手取ることは危険が過ぎる。
それにだ、軍団長が率いる部隊もどうにかしないと。
「……待ってください。
全面戦争が始まれば、奴が必ず現れます。」
「………スパークル、だろう。それに、花火職人やホットネスト・ファンクラブの残党も現れる可能性がある。」
エイヤとメカ社の相手をしないといけないというのに、さらに漁夫の利を得ようとする連中の対応もしなければならない。
…あまりに不利が過ぎる戦いになりそうだ。
「…また天翔け屋を使うか?シリウスさんなら多分来てくれるだろう。」
「彼女はまあ来てくれるというよりもういますが、それ以外はもう頼れないでしょう。
彼女から聞きましたが、彼らは次は金を取る…とのことでした。天翔け屋へ依頼する金は、現在ありません。」
「なら師匠たちに頼ろうぜ。あいつらフットワーク軽いから来てくれる…よな?」
「……連絡はしてみます。
今回の戦い、今使える全てを使います。
ですが……代償は重いでしょうね……」
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けたたましいサイレンの音が鳴り響く。
「現在、四十四番街にAランク都市災害『ザ・ナイツ』が接近中。至急住民は最寄りの安全な所へ避難してく───」
触腕が、サイレンの頭を握りつぶした。
血に塗られた女は逃げ遅れた人々を睨みつける。
涙を流す大人、泣き叫ぶ子供、立ち向かおうとする親。
そのどれもが、彼女にとっては『餌』に過ぎない。
赤黒い触腕が、『餌』を一瞬にして肉塊へと変えた。
足元に転がった子供の目玉を踏み潰し、彼女は進み続ける。
たった1人の家族のために。
瞬間、女の前に1人の男が立ち塞がった。
灰色のスーツ姿の男は、アタッシュケースを広げる。
展開された機械の鎧が、男の全身を包み込む。
そして、その姿を獣へと変えた。
四つ足。巨大な三本の角。盾を思わせるフリル。
おそらく、地球上でこの生物の名を知らない人間はいないだろう。『トリケラトプス』。
「嬢ちゃん。俺が誰だか、分かるだろ?」
「…アサルトファランクス軍団長、トリケラ・トラキュレンス。でしょ?」
「そうさ大正解。
そして、お前を殺す処刑人の名だ。」
揺蕩うクラゲの触腕から、赤黒いレーザーがトリケラトプス目掛け照射。
辺りは爆炎に包まれる。
「そん程度か?」
炎が過ぎ去った後、女は目にした。
正面を覆うように、蒼穹のホログラフィックシールドが展開されていた。
「───へぇ。
守るだけで、アタシに勝てるって思ってるんだ。」
「あぁそうだ。
嬢ちゃん程度、屁でもねぇ。」
最近新しいシリーズ描きたくなってきた今日この頃




