第五十四話 愛憎、永夜を紡ぎて
「嬢ちゃん程度、屁でもねぇ。」
トラキュレンスは、そう断言した。その言葉に、嘘偽りはない。彼には勝てる策があるからだ。
エイヤの目が鋭く光る。本気で殺す、その意を示した。
駆動音と共に、トラキュレンスの背中が開く。そこから、銀色の小型ミサイルが飛来。
しかし、こんなジャブ程度は彼女に効きはしない。
触腕から放つレーザーが、ミサイルを迎撃。
「あのさぁ。この程度効かないって─────」
「わかってるさ。」
瞬間、エイヤの全身に高圧電流のような痛みが走る。
彼女が自身の腹部を見ると…
「………電気の…鎖……?」
「T-98式プラズマアンカー。新武装だ。」
三本の角のに挟まれるように、蒼穹のプラズマアンカーが射出され、エイヤの腹へ突き刺さっていた。
トラキュレンスは大きく首を振り、エイヤを引き寄せる。
クラゲの触腕が地面と繋がり、彼女の体を繋ぎ止める…が。
体を動かすたびに、電流が全身を駆け巡る。
感覚が同期されているクラゲも同様。力を失い、彼女の体は宙へと投げ出された。
そのまま振るわれ、エイヤはビルへと叩きつけられ、穿ちながら地面へと投げられた。
「グッバイ。」
トラキュレンスの2本の角に電流が纏われる。
背中のブースターが、轟音と共に起動。
トリケラトプス十八番の突進だ。
エイヤへと角が突き刺さる瞬間。
トラキュレンスが爆ぜた。
「………面倒な奴が来たな。」
カメラに向かって、大袈裟な笑顔を見せる少女が現れる。
「今回の企画はねー、英雄の裏切り者!軍団長!全員ぶっ飛ばす!以上!分かりやすいでしょ?」
爆裂@すぱーくる!ちゃんねること、スパークル。
彼女の指が鳴る瞬間、トラキュレンスの全身が真っ赤な炎で包まれる。
爆破の中を縫うように赤黒いレーザーがスパークルへ。
スパークルは爆風で空へと舞い、ビルの上へと着地した。
「……邪魔しないで。」
「あれれぇ?大義名分を謳ってる英雄ちゃんたちを裏切ったクラゲちゃんが、ネットの神様のこのすぱに楯突く気ぃ?」
「お前ら両方指名手配犯だろうが!」
トラキュレンスのプラズマアンカーが、スパークルへと飛ぶ。
が、彼女の指鉄砲から放たれた爆裂によって捻じ曲げられ、プラズマアンカーはあらぬ方向へと吹き飛んでいった。
なんという偶然か、吹き飛んだその場所には逃げ遅れた市民の一団が。
「しまっ────!」
「あーっ!メカ社経営のタワマン住みの住人を、あろうことか軍団長が傷つけちゃってるぅ!これは大スクー──」
プラズマアンカーが、一瞬にして切断された。
爆風で揺れる街に、双剣が煌めく。
「今回の仕事に、市民を守ることは含まれてないのだが。」
三者の目の色が変わる。全員、一瞬にして緊張が走った。
「……コールサイン096、シリウス・アナンタシェーシャ。フライアウェイ。」
コールサイン、従業員に割り振られる識別番号。
フライアウェイ、従業員の任務開始のサイン。
天翔け屋で用いられる暗号の一種だ。
女は後ろの市民たちを一瞬流し見て、正面の三者を見据えた。
「…やろうか。今回の依頼は、ワタシの彼からの頼みなのでな。殺す気でいくぞ。」
彼女が一歩前へ出る。瞬間、エイヤとトラキュレンスの足首まで、水が浸る。
エイヤが一度舌打ち。その後、シリウスの背後へ触腕が回り込む。
1秒にも満たない間で、彼女は触腕で締め上げられる。
しかし、その余裕そうな表情は変わらない。
なぜ避けなかった。その疑問を口にしようとした瞬間。
シリウスが消えた。
彼女の体が文字通り液体と化し、地面へと流れていった。
「……は?」
エイヤの首元に、双剣が押し当てられる。
「水に浸ってる時点で、キミたちに勝ち目はないさ。諦めろ。キミじゃあ、何があろうとワタシには勝てない。」
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………諦める?
その選択肢が、アタシにあるとでも?
まだ負けられない。まだ死ねない。あの子が、ヒルマが生きてないんだから。
まだ、まだまだまだ。
アタシは負けてない。
なんでもしてやる。全員殺してやる。それで、ヒルマが1秒でも長く生かせられるなら。
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エイヤの瞳の色が、消えた。
赤黒いその色すら。あるのは万色が溶けた、濁った暗闇だけだった。
「………!キミ、正気か…!?」
シリウスは滑るようにエイヤから離れる。
彼女の目には見えた。
エイヤは、『永劫の長夜』は。
エイヤの体から、クラゲの触腕がバキバキと音を立てて現れる。その体が影のように暗くなり、姿が変わりゆく。
「………縺ゅ�蟄舌↓莨壹>縺溘>」
「………あーあ。『異化』しかけてる。
こうなるから下手に能力のリミッターを外すなっていっつもすぱは配信で言ってるんだよ?」
「……お前の結末には同情してやるよ。嬢ちゃん。」
永劫の長夜は、三者へ顔を向ける。
「谿コ縺励※繧�k」
永劫の長夜は触腕を掲げた。
その手から黒い霧が巻き起こり、世界はまさに永夜に包まれた。
「……」
空に、赫い星が浮かぶ。
星に見えた。
それは、クラゲだった。
クラゲが、シリウスの方へと揺蕩う。
刹那、大鎌がクラゲを貫いた。
黒いコートを来た男が、立っていた。
「全く…俺が来て正解だったな。
コールサイン044、エグゼキューター、フライアウェイ。」
赤いフルフェイスヘルメットを身につけた男は、永劫の長夜へ鎌を向ける。
「エグゼ、キミが来てくれて良かったよ。
…勝てると、思うか?」
「いいや全く。
覚醒能力者の異化は前例がない。
召喚、結界、自己強化、あらゆる能力の反応がある。
ボスが来るまで持ち堪えるしかないだろう。」
シリウスはため息を一つ。
「…まあやるとするか。行くぞ。」




