第五十二話 鉄の拳、甘い夢を砕く
投稿頻度終わっててすんません。
帰ってきたら皇楓は、もはや生きていることが奇跡と呼べるほどの有様だった。
エイヤは、それほどまでに強くなったしまった。
「……次は私が向かおう。過去を覗けば、何処へ向かったのかわかる。」
ベンジャミンさんが立ち上がる。
「……ダメだ。ベンジャミンさんやスティーブが向かえば、彼女はきっと姿を現さない。
…彼女は勝てないからな。」
エイヤはクレバーだ。真っ向勝負から勝てない相手と、相見えるほど馬鹿じゃない。スティーブやエリ、僕に単純な戦闘能力で勝てないこと、ベンジャミンさんの能力がどれほど危険か。それくらい、理解している。
「恐らく、彼女は俺に勝てる絶対的な自信があったから現れたんだ。」
リスク管理というやつか。
エイヤは自身を上回る相手と戦う時に、無策では挑まない。
………まさか。
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「やっと現れたか。エイヤ。」
スティーブ君の拳が、硬く握られる。
「………あれ?鬼ごっこは飽きちゃった?」
スティーブ君の頭が震える。これは、彼が怒った時の合図。
「黙って戦えッ!」
巨大な拳が何発も振るわれ、その尾が、巨体が、アタシを追う。
けど、アタシには当たらない。
クラゲちゃんの間をテレポートすれば、こんなの簡単に避けられる。予備動作バレバレ。
「…戦うよりも先に、見つけないとね。」
スティーブ君はアタシを消し炭にするつもりらしい。
その大顎から真っ赤な熱線が放たれる。
街を溶かし、引き裂き、燃やし尽くす。
けれど、『アタシ』はそこに立っていた。
「…どういう。」
スティーブ君の拳が『アタシ』に振るわれる。けれど、立っている『アタシ』を通り抜けるだけ。
だって、そこにアタシはいないから。
そこにアタシがいるって記憶に、この子は惑わされてる。
じゃあ、終わりにしよう。
「は?」
スティーブ君の全身に、クラゲちゃんの触腕が結びつく。
一本なら引きちぎられる。けど、5本、10本なら?
「ばかッ!離──」
スティーブ君の大顎と翼に触腕が巻きつく。もう、彼は動けない。
「スティーブ君は触手プレイって好き?アタシは嫌い。」
スティーブ君の頭に腰掛け、彼の肩をトンと叩く。
「アンタに教えてあげる。
アタシのこと。」
クラゲちゃんの針が、スティーブ君へ触れた。
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「ごほっ…けほっ…」
ヒルマは咳が出て口を覆う。
苦しい。痛い。辛い。助けて。そう呻く彼女を、アタシは抱きしめるしかなかった。
「ヒル、大丈夫。アタシがいるからね。」
彼女の口から血が溢れ出す。けど、アタシには何もしてやれない。変わってあげられたら。何度そう思っただろうか。
瞬間、アタシに花瓶が投げつけられた。
咄嗟にクラゲちゃんの触腕で、それを弾き飛ばす。
アタシには、これで精一杯だった。
「うるさいうるさいうるさい!!!黙らせてよ!!!」
泣きながら、女がヒステリックに暴れ回る。
アタシの…母親だ。
「……うるさいのはアンタだよ。一体この子がどれだけ苦しんでると思ってるの…?」
「もうやだ!!!やだやだやだ!!!どっかいって!!!私の前から消えて!!!」
もう一度、アタシにコップが投げつけられる。
中に入っていた紅茶は熱々。
アタシの首に、降りかかった。
「……あっつ…」
「…ねぇね…大丈夫…?」
痛い。熱い。痛い。
「……平気だよ。」
大丈夫、作り笑いには慣れてる。
「もう出ていって!!!やめて!!!」
毎日こんなんだ。泣き叫びながら暴れ回り、ついには包丁を手に取りアタシたちに向ける。
「うるせぇ!!黙れ!!ここが誰の家だと思ってる!!」
ぼろぼろに古びた扉が蹴破られ、父さんが母親を殴り飛ばした。
ゴツ、バキ、生々しい音を立てながら、大の大人が殴り合う。
アタシは、ただヒルマの目と耳を塞いであげるだけだ。
こんなん見てたら、甘い夢なんて見れない。
「やだぁぁ!!!もう嫌ぁぁ!!」
泣き喚く女は、ついに体当たりで扉を叩き割り、アパートの部屋を飛び出していった。
「………ッチ。」
父さんの顔はあざだらけ。正直、うちの父さんはそこまで体が強いとは言えない。錯乱している母親に、殺されてもおかしくはなかった。
「エイヤ……ヒルマ……すまん。」
彼はそう漏らし、部屋から出ていった。
何日待とうとも、彼らが帰ってくることはなかった。
二十日後に隣人から聞かされたが、この2人は路地裏で死んでいたらしい。
アタシは聞いた瞬間、飛び出した。
言われた場所。そこには、滅多刺しにされた父さんと、自身の腹に包丁を突き立てていた母親の姿だった。
まあ、無理心中ってところだった。
それでもアタシは───────────
「グルァァァーー!!!!」
スティーブ君の右腕が、何十にも巻かれた触腕を引きちぎる。どんな馬鹿力だよ。
アタシの見せた記憶を、ぶち破られたのは初めてだ。やっぱり、只者じゃない。
「……失った者同士、わかるよね?同じだよね?
アタシもアンタも、取り返したいだけ。だから、ほっといてよ。」
「………ほっとけるか…!
ぼくはお前と違う。僕は、助けを求める。」
スティーブ君は、体を引きずりながら、立ちあがろうとする。
「…違うでしょ。
アンタは逃げた。父親が殺されたくなかったから。
1人で抱え込んでみんなを裏切った。
助けを求めなかったじゃん。あの時、正直に助けてって言えば彼は死ななかったよね?」
これを言ったら、彼は必ず怒る。それは、人間関係なんざ1ミリも習ってないアタシでも容易に理解できる。
「………うるさいうるさいうるさい!!!黙れ!」
アタシは、思い出した。
「黙れ。」この言葉が、心底嫌いだった。
「……ぼくは父さんが放っておかなかった!みんなのこともだ!だから、ぼくはセレモニーで利用されかけてるおまえたちを助けようとした!」
「けどお前はどうだ!みんなに背を向けて、1人で解決しようとしてるだけじゃないか!」
「……そう、だよ。
アタシは、1人であの子を救う。だって、アンタたちは絶対に反対するだろうから。
……四十四番街。そこの住人を皆殺しにする。
そうやって、炙り出すの。」
数秒の間、クラゲが漂うような沈黙が流れた。
「人を蘇らせる力を持つ奴を。
そこに、いるから。
止めてみな。できるもんなら。」
渋でも出そっかなって考えてるけど需要ってあるのかしら…




