↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イマジナリー・ライク・ア・ジャスティス  作者: もちもちアゲイン
第四章 それでも、あなたはわたしの側にいてくれた
PR
52/55

第五十一話 わたしは、この物語の脇役

 

 古ぼけた病室の中、海が瞬いている。

 まあ、現実的にいえば水槽だ。小さな水槽の中を、色とりどりの魚たちが一団となって泳いでいる。


 アタシは彼女が好きな、安いシュークリームを買って来た。

 これを見せたら、いつも元気になってくれるから。


 データ越しの海に飽きたのか、彼女は窓辺に目をやる。

 見つからないように、そーっと、そーっと。


「わっ。」


 彼女の小さな肩に触れると、一瞬びくってした後、アタシの裾が握られた。

「きゃっ!?も〜、ねぇねならそう言ってよぉ〜。」


 アタシは彼女のベッドに座り込み、肩を軽く抱き寄せた。

「気づかなかったから。

 シュークリーム買って来た、食べる?」


「本当!?食べる!ねぇね大好きっ!」

 そう言って、ヒルマはアタシに抱きついた。

 アタシは、この子がたまらなく愛おしい。

 たった一人の理解者、

 たった一人の心を許せる人、

 たった一人の愛する人、

 たった一人の家族だ。


 しおれたビニール袋からシュークリームを取り出し、袋を開ける。

 それを摘み上げ、ヒルマの口へ近づける。


「あーん。」


「あーんっ。」

 彼女はぱぁーっと笑顔になり首を左に傾けた。


「んー、やっぱりこの味に落ち着くねぇ〜。

 そうだ、ねぇねも食べる?ねぇねも甘いもの、好きだったよね?」


「いいよ、ヒルが食べて。アタシ、お腹空いてないから。」

 嘘。3日、何も食べてない。

 異能社会の腐った日本の路地裏で、シュークリーム代、460円を稼ぐのは簡単なことじゃない。

 でも幸い、アタシは女。利用できる場所はたくさんある。

 そうやってかき集めた金で、この子の笑顔が買えたんだ。

 アタシは、お腹いっぱい。


「………ねぇね、本当にご飯食べられてる?

 腕、わたしより細いよ…?それに、足も、傷だらけじゃん。」


「…大丈夫、最近ダイエットしててね。足は、バイトで怪我しちゃっただけだよ。」


 自分自身にまだ売れると嘘を言い聞かせ、日々を耐えて来た。

 もう体の限界はとうに迎えてるのは分かってる。いつ倒れてもおかしくないのも知ってる。

 …金が、金が足りない。高いんだよ。入院費用は…!


 ヒルマは、生まれながらにして弱かった。

『先天性異能適応性侵食障害』。

 誰もがスーパーヒーローの力を持つこの世界で、最底辺。発覚即中絶が推奨されるクソみたいな障害。

 母親はそれ分かってたのに無理して産んで、ろくに看病もせず男を作って消えた。

 お父さんは病気がちだったのに、無理して働いて事故にあって死んだ。

 6歳で身寄りなしのアタシには、この子しか残ってなかった。

 唯一、唯一残ったこの宝石だけは、絶対に価値を失わせない。輝かせてみせる。その一心で、アタシの中の薪は燃え続ける。

 幸い、アタシは人一倍強く生まれた。そんじょそこらの能力者なら、息をするように消せる。


「ねぇね、わたし、病院から出られたら、いつか一緒に海に行きたいな。

 本物のサンゴ礁を見て、お魚さんたちの本を書いてみたいんだ。」


「うん。良くなったら、絶対なんでもしようね。」

 アタシには「良くなる」っていうことを断言させられてあげられなかった。


 守れない約束は、したくないのに。


─────────────────────────────────


 クラゲの針が、俺の頬から離れた。

「……ありがとう。」


『ふわふわ。』

 クラゲは手を振るように触手を動かした後、跡形もなく消えてしまった。


 …あの言葉をかけた俺を、殴り飛ばしてやりたい。

 過去の重さは比べるものじゃない。

 けれど、俺も、エイヤも、結果として守れなかった者同士。

 そして、守られていた者同士なんだ。

 これを見てしまった以上、俺には責任がある。

──────全てを、見届けよう。


 そして、エイヤも、ヒルマも救う。

 偽善に過ぎない、ゲロ甘い理想を抱いて眠り続けるバカな子供である俺にしか、できないことだ。


「……荒龍卿、無事か?」


「ヴラドか…あぁ、なんとか、な。」


「君が何を見たのか、俺も知りたいが…

 まずは撤退からだろう。このままじゃ、君は死ぬ。」

 ヴラドが、俺の額に触れた。

コメント、評価等してくれると泣いて逆立ちしながらカツ丼を頬張るくらい喜びます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。