第五十話 不朽永劫、生の前に夜明けを迎えん
「…それで、エイヤをどうする?
彼女の行動を制限することは、俺たちにはできないぞ。」
「とりあえず、エイヤを探そう。彼女が単独で行動するのには、何か理由があるはずだ。」
皇楓は槍を手に取り、立ち上がる。
「俺に任せてくれ。
あの姿、おそらく彼女は『覚醒』した。
覚醒能力に立ち向かうには、同じ覚醒能力をぶつけるしかない。そして、この中で覚醒能力者なのは俺だ。」
だが、エイヤがどこに向かっているのか、それが分からない。
分かるなら僕も向かいたいが…
「俺に彼女が向かう場所に心当たりがある。」
「しかし、大丈夫ですか?
エイヤは貴方を強く嫌っています。裏切ったとなると、彼女は貴方を本気で殺しに来る可能性がありますよ。」
「心配はいらない。それが、俺の作戦だ。」
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十九番街路地裏。
吹き出者連合の拠点がある場所だ。
彼女は、吹き出者連合の一員だった。俺たちから離脱したのなら、彼女が利用するのは奴らだ。
しかし、いつもはやかましい連合の基地は、静寂に帰していた。
基地の扉をノック。
普段なら、ノックすれば反応を返す。
しかし、一切の人の気配を感じない。
「誰かいないのか?」
…………
扉を蹴破る。ボロボロで薄い素材だから、一撃で破壊できた。
扉が抜けた瞬間、血腥い臭いで吐きそうになった。
「…酷いな。」
吹き出者たち、皆全員の死体がそこにあった。
抵抗した痕跡が見られる。戦闘の末の結果、皆殺しにされた、と言うことだろう。
ある者の死体は頭が握り潰され、ある者の死体は胴体が引き裂かれ内臓が引き摺り出されていた。
しかし、1人の男だけ、まだ息がある。
「お前…誰…だ。」
「ここで何があった。」
「……『永劫の長夜』が…みん…なを…」
「…奴はどこに行った?」
返事を返さないまま、男は事切れた。
「…………安らかに眠れ。」
男に手を合わせ、目を瞑る。
近くにあったまだ綺麗なブランケットを男に被せ、俺はその場を後にした。
血塗られた足跡。ブーツのものだ。
…おそらく、エイヤのものだ。
足跡は路地裏に続く。そして、あるビルの前で止まっていた。
扉は開いている。
足を踏み入れると、そこも血まみれだ。
目の前に、なにかがある。
…これは、紙切れ?
拾い上げようとした刹那。
俺は槍を振い、触腕を切断する。
「………ストーカーって、やっぱ終わってるよね。
クソガキ、アンタに選択肢をあげる。
ここで全部忘れて無様に立ち去るか、アタシにバラバラに引き裂かれるか。選ばせてあげる。」
「お前……一体何人手にかけた?」
エイヤの目に、光が灯る。
「……アタシとやる気?」
俺は彼女を睨む。
「……叛逆の罪は存じているだろう。」
「アンタも、アタシの大切な人を踏み躙った罪を覚えてるよね?」
両者、一拍置く。
「お前も、正義からは逃れられない。」
「アンタも、正義からは逃れられない。」
ビルの壁が破られる。
彼女の傘に仕込まれる短刀、それが、俺を狙い来る。
的確に大動脈や臓器を刺しに来る。彼女は、本気で俺を殺す気だ。
槍で短刀をいなす、が、触腕が俺を穿つ。
想像を絶する痛みと共に、俺は壁へ叩きつけられる。
鉄筋コンクリートを叩き破るほどの馬鹿力、それを受けて体が無事なだけで奇跡だ。
「……死ね。」
エイヤはこちらに中指を立て、触腕の先から深紅の光、分かりやすく言うなら、レーザーを放つ。
神の如き黄金の光が盾となり、俺を守る。
が、このままでは防戦一方、彼女の札が出し切られていない以上、俺の不利は確実だ。
「防ぐことしか出来ないアンタが、アタシに勝てるわけないでしょ。大人しくここでアタシに殺されろ。」
「……それじゃあ、何も変えられない。」
エイヤの背後。黄金の龍の大顎が開かれる。
噛みつきではない。
口内に、輝かしい光が満たされる。
技名をつけるとするなら。
「山龍砲。」
彼女が振り返った時には、地が閃光で満たされていた。
光が晴れた。
エイヤの頬から、薄ら血が流れる。
恐らく、直撃の瞬間、触腕を巻いて一時的なシールドとしたか。
「エイヤ、俺はお前が何をしているのか知りたいだけだ。」
「…アンタには関係ないこと。アンタは、『妹が居なくても、お前は生きていける。』って言ったよね。
アタシ、あの子なしじゃ生きる気ないから。」
エイヤは止まることを知らず、口を開き続ける。
「アンタたち英雄は、みんな自分の大層な正義を持ってる。
やれ自由を守るため、笑顔を守るため、世界を均衡にするため。みーんなアタシより偉くて、浅はかで、バカなんだ。
現実を知らないクソガキに教えてあげる。
『理想を抱いた人間から死んでいく。』
現実を見ろよ。アタシたちがどんなに人を救おうと、手から命はこぼれ落ちていく。掴んでも掴んでも、煙みたいに消えていく。
認めろよ。正義のヒーローなんかいないんだよ。
自分を騙してる偽善者なんだよ。アタシたち。」
彼女の言っていることは、的を射ている。
「───そうだな。
確かに、俺たちが救えない命は無数に存在する。
けれど、偽善だとしても、救うと言う行為。人を救ったという事実、それがある限り、俺たちはヒーローを名乗れる資格がある。
俺だって、救いたい人を救えなかった。守るはずの盾の後ろに、何も残らなかった。
けれど、俺の身は生きている。救えなかった分、救えばいい。それが、俺の正義だ。」
彼女の瞼が、ピキピキと小刻みに揺れる。
「……なら、アタシの正義を教えてあげる。
アタシはね、みんなを救うとか、大義名分、名誉、理想、そんなものドブに捨てればいいって思ってる。
あの子だけ、『ヒルマ』だけ、『たった一人のための正義』さえあればいいの。
だから、ゲームはここでおしまい。」
目を瞬いた時、俺は血を吐き出した。
俺の胸が、背後から貫かれていた。右肺……か。
背中が蹴り飛ばされ、俺は地面に打ち付けられる。
立ち上がることも遥かに遠く、一度死んだ我が身を、また捨てる。その事実が、突きつけられようとしている。
触腕が俺の両腕両足を掴み上げ、俺を宙へ縛り付ける。
エイヤは、俺を睨んでいた。
「……どんな痛みが好み?」
俺の両腕が触腕に引っ張られ、ギチギチと音を立てる。
骨が折れる、筋肉が張り裂ける、血管が破裂するのがわかる。
「こんなもので、俺は痛がらないぞ。」
「あっそ。なら、ここでバイバイ。」
新たな触腕が、俺の胴を掴む。
「……無策で、お前と戦うわけないだろう。」
首筋に隠していた、『手榴弾』のピンを口で抜く。
「アンタ、正気…!?一蓮托生って、アタシが死ぬと思ったの?」
この手榴弾の効果は、違う。
俺たちの視界から、色が消えた。
…ベンジャミンさんとアンサーの合わせ技、時間停止グレネード。そして、俺は停止に対する耐性を持つ特性腕時計を付けている。
効果時間は短い、それまでに脱出しなければ。
が、エイヤの瞳が動く。
…覚醒能力者は、他の強力な能力に対する高度な耐性を持つ。
俺は自身の耐性と、腕時計の耐性の乗算で無効化できている。しかし、彼女も、すぐに破ることができる。
「…小細工が…通じると…で…も?」
エイヤが、じりじりと動く。
「あぁ。通じるとは思っていない。『時間稼ぎ』さえ出来ればいいんだ。」
「グルァァァァッーーー!!!」
俺は、一つの作戦を緻密に構築するタイプだ。
グレネードに仕込んでいたGPS、それの反応が止まった瞬間、スティーブに俺を追うように言っていた。
スティーブの飛行速度なら、この距離程度数十秒だ。
地面に金属の拳が打ち付けられる。
「………元からアタシに勝つ気なんてなかった、ね。」
スティーブなら、彼女に勝てる。
「エイヤ、かんねんしろ。両手を頭の後ろでくんで、武器をおろせ。」
「……スティーブ君、鬼ごっこでもしようか。」
エイヤは中指をスティーブに立て、触腕で自身を包み込んだ。
スティーブが腕を振るった時には、彼女の姿は消えていた。
「おくびょうものめ…」
スティーブは俺の方を見て、手を差し伸ばした。
が、両腕両足の骨がバキバキな今、立つことはできない。
スティーブは耳元に指を当てる。
「もしもし、エイヤに逃げられた。
うん、大丈夫、彼は今のところ無事。うん、わかった。」
無線通信で、スティーブはみんなに連絡を取ったようだ。
「すぐに助けが来ると思う。ぼくはエイヤを探すよ。」
スティーブはそう言って、どこかへ飛んで行った。
…痛みに悶える中、俺はエイヤの残した『クラゲ』と目があった。身構える、が、主人が離れた今、このクラゲに意味はない。
『…ふわふわ。』
クラゲはなにも言わずに揺蕩っている。
このクラゲは確か、彼女の記憶を元に形作られていると聞いた。それが真実なら、役に立つ情報を得られるかもしれない。
「…こっちに来てくれ。」
『…ふわふわ。』
無言のまま、クラゲはこちらへやってきた。
俺の顔の真上で、クラゲは止まった。
「可能なら、お前の主人の記憶を見せてくれないか?」
『………。』
クラゲの触腕が、俺の頬に触れた。
多分またクソみたいな投稿頻度になるけどお兄さん許して




