第五話 無双の捕食者
エイヤを除く全員が基地の外に出ると、そこには、無数の機械が飛び交っていた。
「なんだあれ!?トンボ!?」
「β=23『ドラゴンフライ』最新モデルの様ですね。」
『ドラゴンフライ』に搭載された機関銃から、無数の弾丸が嵐の様に降り注ぐ。
並の軍隊ならば、これだけで壊滅させられるだろう。
彼らは咄嗟に基地の中に隠れ、作戦を練る。
「うぇ、どーすんのさこれ…今出たら蜂の巣だよ…」
「キッド、撃ち落とせるか?」
「任しとけ!」
弾丸の雨の間を縫う様に、キッドが銃撃を放つ。
弾丸がドラゴンフライのボディに命中し、爆散。
「おっ、意外と紙耐久だな!」
仮面の裏でニヤリと笑ったキッドは、銃を乱射する。
一機、また一機と爆ぜていくトンボを見ながら、皆は安堵する。
「もう弾切れ近いぜ。
予備とってこねぇとな。」
「よくやった、キッド。」
が。
地が──揺れた。
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メカニカル・コーポレーション本部。
「駆除にはやりすぎじゃないか?なんせ『プレデター・ワーム』が行くんだからなぁ。」
スーツを着た男が、ボールペンのノックを鳴らしながら、電話で何者かと話す。
「ジャガーノートの『軍団長』をわざわざ行かせる必要あったか?」
「ツケを払わせるには奴は最適だろう。
全てを喰らい尽くす『害虫』だからな。」
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「あー、こりゃまずいね。」
シャムルの口から、軽口ではない言葉が漏れる。
「…嘘だと言ってくれよ。」
キッドは、理解を拒む。
地響き。
金属がひしめく音。
地面を砕く音。
全方位からの機械の駆動音。
その姿。
『無敵の肉食イモムシ』
「まさに列車、と称するべきでしょう。」
「いや、列車なら線路がなければ走れない。
奴は、止まらないぞ。」
12分経過。
プレデター・ワームの全面が3つに開かれる。
「開いただと…」
「口開きやがった!?」
上、右、左に開かれた口の内部には、無数の回転する歯車。 まさに、動く粉砕機。
「─γ=963型、プレデター・ワーム。攻撃命令受信。」
無機質な機械音声が告げる。
瞬間、金属の鎖が5本、射出される。
「ッ!この鎖に絶対に当たるな!」
皇楓が叫ぶ。
皆が避けた鎖は、辺りのドラゴンフライの残骸へ突き刺さる。
途端、口元へ残骸が引き寄せれ、「粉砕」される。 金属片すら残さず、跡形もなく消えて無くなってしまった。
「ウッソだろあれ…」
キッドは恐れで腰を抜かす。
「仮にも生身の人間にあれを使うつもりですか…メカ社も落ちぶれた物ですね。」
アンサーは皮肉を漏らす。
同時、彼は手に持つ銃の様な道具を、プレデター・ワームの開いた口内に向ける。
「まさか、実戦投入がこのような舞台になるとは。考えもしませんでしたよ。」
細長い銃身から、翡翠色の弾丸が駆け出す。
弾が口内に届く寸前。
「弱点撃破と行きましょう。」
炸裂。
無数にばらけた弾片が拡散、跳弾し、歯車だらけの口内を跳ね回る。
弾が過ぎ去る。
煙の中から、無傷の歯車が現れる。
「効果はなし。改良が必要ですね。」
重低音と共に、プレデター・ワームの背中が開く。
けたたましい音と共に、ミサイルが数十発発射される。
「キッド!」
「弾ねぇよ!」
皇楓が槍を振おうとした瞬間。
目の前に赤黒い触腕が伸び、皆を爆炎から防ぐ。
「結構頑張ってたじゃん、クソガキ。」
「───感謝するぞ。」
奥から、コツコツとヒールの足音が聞こえる。
振り返ってみれば、エイヤがゆっくりと、こちらに歩いてきていた。
瞳には明確な闘志が宿っている。
彼女は黒い外套から香水を取り出し、自身に一振り。
「───やろうか。」
赫い瞳孔がギラリと輝く。
途端、辺り一面が暗く染まる。
「夜…?」
シャムルが呟く。
「違いますね。上を見てごらんなさい。」
上を見上げれば、黒く濁った空。
しかし、空から無数の触腕が伸びる。
「私たちは今、巨大なクラゲの下にいるのですよ。」
「脅威指定、Aランク都市災害相当『ザ・ナイツ』出現を確認。」
無機質な機械音声が告げる。
「ああ、そんな風に呼ばれてた頃もあったね。」
エイヤは手に持った傘をくるりと回し、プレデター・ワームを睨みつける。
「────潰せ。」
2本の触腕が伸び、プレデター・ワームの上部を飢えた獣の如く穿つ。
背面のミサイルポッドから炎が上がり、金属片が剥がれ落ちる。
「機体損傷。
『粒子砲』、使用命令認証。」
またも告げられた冷たい承認。
エイヤはため息を一つ。
「アンタたち、良くない知らせ。
アイツは、アタシらの基地を本気で潰すっぽい。
どうにか『粒子砲』を防いでみるけど、もうここは滅茶苦茶になるつもりでいてね。」
「なぁ、それってどーいう…」
キッドが口を開いた瞬間、遮られる。
「はぁ、つまり、ヤバい攻撃が来て、基地はぶっ壊されるからそのつもりでいろってこと。」
「おう了解!ってなるか!
どうにかなんねぇのかよ!?」
エイヤは呆れた様な声で言う。
「どうにかならねぇから言ってんの。
お祈りでもしてれば。」
エイヤは指を軽く回す。
瞬間、触腕の群れがプレデター・ワームを縛り付ける。
しかし、三股の口に、閃緑の光が集約する。
ぼんやりと輝く光には、明らかな「壊滅」が見えた。
都市を「消し飛ばす」為に作られた兵器は、英雄に先を向ける。
「粒子砲100%充填完了。」
「あーあ。」
突然、周囲に重金属音が響いた。
今までのものとは違う。
「怪獣の咆哮」の様だ。
それと同時、地面を砕く音が聞こえる。
地中から何かが、凄まじい勢いで迫ってきている。
「アンタさぁ、遅いよ。
アタシが出なくちゃいけなくなったじゃん。」
エイヤは気だるそうな様子で、あくびを一つ。
声に応えるよう、金属音が鳴り響く。
地が崩れ、土煙の中から何かが現れる。
赤いボディ。
巨大なドリル。
大きな2本角。
二つに開かれたドリルの口。
まさに、怪獣。
「いやはや、遅くなって申し訳ない。『スティーブ』に、もっと早く行く様に伝えたんだがな。」
男の声だ。
しかし、『スティーブ』のものではない様だ。
「ヘンリー!待ってたぞ!
当然息子も一緒だよな!」
ヘンリーと呼ばれる男の声は、スティーブに指示を出す。
「さぁ、スティーブ。解体作業の時間だ。」
スティーブは立ち上がり、凄まじい金属音の咆哮を放つ。
スティーブは突撃し、プレデター・ワームの右顎をドリルで貫く。
凄まじい金属音の嵐。
耳が裂かれてしまうほどだ。
スティーブの頭部のドリルが二股に分かれ、竜の口の様に変化する。
剥がれかけた右顎に喰らいつき、そのまま力技で、轟音と共に引きちぎる。
「ユニット損傷。
警告、粒子砲、持続不可。」
「ぃやったぁ!
これで後は、このデカブツを解体するだけだね!」
シャムルが飛び上がり、勝利を確信する。
「外部命令受信。
起爆します。」
「────え?」
閃緑の光が、辺りを照らした。
真正面に放たれた、地形が変わるほどの大爆発。
目に光が戻るのは、数十秒経った後だった。
翌日。
「昨日正午ごろ、二十四番街にて、凄まじいほどの大爆発が発生しました。
死傷者は数百人、メカニカル・コーポレーションの製造する機械の誤作動が原因と見られています。
続いてのニュースですが…」
六番街、電気屋の前を、沢山の人々が歩いている。
異能都市では、こんな爆発日常茶飯事。
誰も気に留めることはなかった。
閃緑の光の中心で、
プレデター・ワームの姿は、完全に消え失せていた。
触腕の影も、夜のクラゲも、
全てが「夢」であったかの様に晴れ上がる。
残ったのは、半径10kmに及ぶ、抉り取られた地形と静寂。
「──あっぶな。
アタシがクラゲちゃんでみんなを守ってなかったら、多分死体すら残ってないね。」
プレデター・ワームの残骸と思われる鉄屑を蹴飛ばしながら、エイヤが立ち上がる。
彼女の様な、いわゆる強者と呼ばれる者が、能力をフルに使い、自身と皆の身を守ったとしても、あの爆発の爆心地に入れば気絶は避けられなかった様だ。
「さ、起きて。」
エイヤは指をパチンと鳴らす。
音と共に、皆は意識を取り戻す。
「い…いでぇ…」
キッドは、建物の瓦礫をどかしながら立ち上がる。
「直撃は防げたけど、反動は防げなかったから。怪我してたら、まあごめん。」
「大丈夫だ、致命傷は防げた。」
皇楓は槍を杖に、体を引きずる様に立ち上がる。
「ちょっと皇楓、無理しちゃダメだって…」
シャムルは他者を気遣う余裕は残っているが、声は震えていた。
「先ほどの爆発、間違いなく無関係な者に被害が出ています。恐らく、今後のメカ社の信頼に関わる大問題になるでしょうね。」
アンサーは服についた土を払いながら、立ち上がる。
地面が砕かれ、赤い機体が現れる。
「みんな無事か!?」
「スティーブ、ヘンリー…お前たち、爆発の真ん中にいたじゃねぇか。よく無事だったな。」
「あぁ、スティーブが咄嗟に、地面に潜って爆発を耐えられる場所まで移動してくれたからだ。
君たちこそ、よく無事だった。」
みんな、互いの心配ばかりだ。
「ねぇ、アンタ達。
アタシら今後、どうすんの?」




