第四十七話 ザ・ラスト・イービル
「……クソッ!」
僕も、こう漏らすしかなかった。
ヘンリーは、ヘンリーはもう助からない。その事実が確定してしまった。
それにだ。ポールが不死身となってしまった以上、勝つことはほぼ不可能だぞ!?
なにか、なにか対策はないのか?
記憶を探れ。なにか一つくらい使える記憶はないのか…!?
「…まだ可能性はあるわ。」
レイラの声が、空気を裂いた。
「ヘンリーが作ってたのは、あくまでプロトタイプ。
『完全な不死性』は得られないわ。」
「それってどういう…」
「端的に言えば、再生はするけど、超高エネルギーで消し飛ばして仕舞えば殺せる可能性は十分にある。
そして、それを実行できるだけのエネルギーはある。」
彼女は、スティーブのボディに触れる。
「…つまり、ポールを消し飛ばせるってこと?」
「…彼にもう誰も傷つけさせてはだめよ。」
「だから、塵すら残さずやってしまいなさい!」
スティーブは拳を叩き合わせる。やる気は100%のようだ。
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……けほっけほ…。
先と共に、血が吐き出される。
ただその血を拭い、顔を上げる。拳が迫っていることを、知りもせずに。
鈍い音と共に、あたしは吹き飛ばされる。
あたしはほとんど限界に近い。あと耐えれて数分かしら。
ポールはあたしを押し倒し、首に手を当てる。
「………命乞いをしろ。
その後は…貴様ならわかるだろう。」
あたしは舌を出し、両手で中指を突き立てる。
「…フッ、クソ喰らえよ。」
ポールはその途端、あたしの首を掴んで持ち上げる。
…痛い。息ができない。
「自分がどれほど愚かか、ここで分からせてやる。」
そう言って、あたしの服のチャックに手をかけた。
瞬間、あのドラゴンの叫び声が聞こえた。
「グルァァァァァッーー!!!」
ポールは壁に激突。
スティーブが、あたしに覆い被さるようにこの場に立った。
…ヒーローは遅れて登場するって言うのは、この世界の条理。よく覚えておくことね。
スティーブはあたしを掴み上げ、ソルの前まで置いた。
「…エリ、随分と無茶をしたな。」
「……お互い様…でしょ?」
ソルはあたしに肩を貸してくれた。
そして、軽く彼の拳とあたしの拳を付き合わせた。
あたしがポールのことを見た時には、もう上半身が消え失せていた。
人外となって、強靭になりゆく彼の体を、拳一発で。
スティーブの拳が、赤く燃える。
…化け物には、化け物をぶつけるのよ。
その巨大な掌で、残った下半身も、握り潰す。
ポールは肉塊になった。でも、肉の塊が集まって、体を形成し続ける。
スティーブは、その隙すら見逃さない。
肉塊を噛み潰し、地面に叩きつけてぐちゃぐちゃにする。
途端、スティーブに付着した肉塊が形を成し、スティーブの内部へ攻撃を開始する。
スティーブはのたうち回り、苦しむ。
「させないわよ!」
レイラのギターが鳴り響くと、肉片たちがスティーブの機体から這い出す。
「おのれおのれおのれッ!」
肉体が再生した瞬間、スティーブは突撃し、工場の中へ突っ込む。
鉄筋とベルトコンベアを叩き折り、ポールを地面へ打ち付ける。
上へ覆い被さったスティーブの口に、真っ赤なエネルギーがチャージされる。
「……ハッ!」
ポールの口が裂けるように開き、スティーブを背後へ、熱気立つ溶鉱炉へ叩き落とす。
「グルァァァァァッッ!!!!」
真っ赤な鉄が跳ねる。
彼が落ちたところには炎が立つ。
両手両足を振り回し、踠きながらもスティーブは熱の中へ沈んでいった。
真っ赤な泡が、溶けた金属から浮かび上がる。
「……消えてろ、スクラップ風情が。」
もはや人としての限界を失い、でろでろのゾンビの様な姿になったポールが、こちらへにじり寄る。
ソルが一歩前に出て、剣を構える。
しかし、ポールは動じず、その腕を広げる。
「斬れるものなら斬り殺してみろ。
太陽なぞ、墜ちるに決まっている。」
「……どういうこと…貴方が得た『不死性』に、そんな異形化なんて力はないはずよ。」
「……レイラ、貴様は私を出し抜ける頭脳を持っていると思っていたのだがね。」
ポールは頭を押さえ、笑い始める。
「あの化け物の小指を見つけて処分しろなんて命令、出されるはずがないだろう。なんせ『アスター』の存在そのものが秘匿されているのだったから、当時の執行官『荒領』のみしか存在を知らない奴を、どうやって今の治安局が掴めると思ったのだ?」
ポールは私たちを指差す。
「……貴様らの仲間、アンサーだったか?奴には感謝したい。
こんな力を造ったのだ。彼は天才に値するよ。
感謝を伝えておいてくれ、と言いたいところだが、ここで死ぬんだったな。私が直接言いに行くとしよう。
『私の為に、怪物を殺してくれてありがとう』とな!」
彼が剣を振るうよりも速く、ソルの首を掴み上げる。
「最期の言葉を言え。聞いてやる。」
「……最期に見るのが、そのお前の醜い顔か。」
ソルは歯を見せて笑う。
「やっぱり僕は運が悪いな。」
その笑いは、決して死へ屈しなかった。
ポールがソルへ拳を振るおうとした瞬間。
下から、重金属音が響いた。
地面が、大きく揺れる。
何かが、いや、『彼』が帰っ来た。
「ポールッ!お前を焼き尽くしてやるッ!」
スティーブの拳が、地面を突き破った。
ポールを地面へと叩きつけ、腕を捩じ切る。
そして、ポールの顎を掴み、思い切りこじ開ける。辺りに、顎の骨を砕く鈍い音がこだまする。
スティーブの尾から真っ赤な光が迫り上がる。
背、首、口へとエネルギーが集約される。
熱線が、ポールの口へと流し込まれた。
……なんて最悪なキスなのかしら。
ポールの首が燃え尽き、体が爆散。肉塊も全て、塵すら残さず灰燼へ帰した。
残ったのは、目だけが動くポールの頭だけであった。
スティーブは、その目を見つめて動かなくなった。
そして、その頭部をゆっくりと咥える。
ポールの目が泳ぐ様に動き、何度も瞬きを繰り返す。
その目が、真っ赤に輝く。
再び放たれた熱線が、秒と経たずにその首を消し飛ばした。
熱が、焦げた金属が、工場の中を漂う。
翼の一振りで、空気が軽くなる。
「…………帰ろう。」
スティーブは、あたしたちへ振り向いた。




