第四十六話 レッツ・ペーヴ・アワー・ウェイ
ポールを吹き飛ばし、顔面を全力で殴りつける。
ぐちゃりと肉を潰す音が響き、顔面は破裂した。
でも、彼の腕が動き出してあたしを掴んで投げる。
肉が盛り上がって、あたしが叩き潰した頭部を再構築する。
「……化け物。」
「素手で人間の顔面を殴り砕く女には言われたくないね。」
ポールは飛び出し、あたしの顔面を殴る。
あたしですら思い切り吹き飛ばされ、壁面に叩きつけられる。
真っ向から殴り負けたのは、初めてよ。
そして、あたしの髪の毛を掴んで、壁に引きずられる。
ガリガリと壁を砕く音が鳴り、赤い血がべっとりと壁に塗られる。
咄嗟に右手からビームを出してポールを吹き飛ばす。
吹っ飛んだ彼の手には、毛根から千切れたあたしの長いピンク髪の束が握られていた。
「美少女の髪を千切るなんて、そんなに死にたい?」
「…どうせ貴様は、皮を被った醜い悪魔に過ぎん。
私が化けの皮を剥がし─────」
言葉が最後まで出る前にあたしはポールの上半身を消しとばしていた。
血飛沫が、肉片があたりに飛び散る。
けど、途中で盛り上がるみたいにぐちゃぐちゃと音を立てて肉と骨が断面から生えてくる。
何度ちぎろうとも、消し飛ばそうとも、断ち切ろうとも無限に再生して迫ってくる。
どころか、千切った部位がどんどん形を変える。
もう、人間の面影はないわ。
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「カムプライム!」
「任せろッ!」
カムプライムが僕の前に飛び出し、スティーブの片翼を掴む。
同時、ライトの電流がもう片翼を痺れさせる。
「グルァァァァァ!!!」
スティーブは両手を振り上げる。
しかし、その両手が空中で固定される。時が止まられたんだ。
完全に身動きを封じられたスティーブは、叫び声をあげる。
「スティーブ!止まれ!」
僕はスティーブの荒ぶる頭部を押さえ込む。
「止まれ!止まれって!」
言葉に一切動じず、思い切り吹き飛ばされる。
スティーブの熱線が2人に命中し、翼が自由に。
無理やり停止を解除し、両腕の自由を。
全力を尽くしても、それ以上の力で捩じ伏せる。
スティーブは僕を掴み上げる。
口元まで運ばれ、オレンジ色の熱線が貯められるのを見る。
喉奥が光り輝き、陽炎が揺らめく。
ああ、死ぬんだ。
どこからだろう。音楽が聞こえた。
短いピッキング、エレキギターの音だ。スティーブは僕を投げ捨て、その音楽の方を見る。
瞬間、ギターが掻き鳴らされた。ロックな響きと共に、スティーブが地面にうずくまる。翼が痙攣し、爪が地面に食い込む。
その一音が、スティーブの心に響き渡る。
曲のイントロに入ると、スティーブが叫び声を上げる。
その素早いピッキングや歪んだアンプ音が、この世界を揺らす。
「どうか、落ち着いて。」
赤髪のバンドマン。
…僕の知り合い、いや、ほとんど仲間だ。
「ソルさん、遅くなったわね。」
「レイラ…さん?」
彼女は優しく微笑みかけると、スティーブの方を見た。
「大丈夫、大丈夫よ。私がいるわ。」
スティーブはもう立ち上がる。
もう彼から怒りは感じられない。正気に戻ったんだ。直感した。
「…グルルル……」
スティーブの頭が下がる。
瞳を閉じると、レイラさんは優しく触れる。
「……お待たせ。ずっと、ひとりぼっちだったわよね。
もう大丈夫。母さんが、来たわ。」
「グルルルァ…」
「……ふふっ、信じられないかしら?
『レイラ・フリーマン』。こう言えば、分かってくれる?」
スティーブの震えが、ぴたりと治った。
「……ごめんね。渡すの、遅れちゃったわ。」
彼女は、スティーブの首元に小さな装置を付ける。
「………かあ……さん?」
彼の頭に、レイラさんは抱きつく。
…数秒遅れて、スティーブの大きな腕と翼が、彼女を包み込んだ。
「…ずっと、会いたかった…」
「……えぇ、久しぶり。」
さっきまで殺戮の限りを尽くすような化け物だったドラゴンは、今や母の胸の中で泣く子供だ。
レイラさんは優しくその頭を撫でる。
「ぁ…あ"ぁ…あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!」
スティーブは咆哮じゃない、ただの子供として泣くことができる。
「……頑張ったわね、ずっと。」
スティーブの全身に込められた力が、今すっと抜けた。
「ま、待ってくれ。一体どういう事だ?」
カムプライムは、状況が理解できていない。
僕だって、よくわからないさ。
けれど、彼の肩に手を乗せ、「今はそっとしておこう」と伝える。
彼も何かを察したのか、腕を組んで2人を見つめていた。
数刻の後、彼女はこちらを見た。
「改めて自己紹介するわ。
私はレイラ・フリーマン。
スティーブの母で、ヘンリーの妻。」
「そして、執行官第一位。レッツロックよ。」
「…ぼくはスティーブ・フリーマン。
ソル、きみたちの仲間だよ。」
…ヘンリーの声だけは、聞こえなかった。
「…貴方がその姿ってことは、もう、彼は……」
スティーブは俯き、地面を殴りつける。
「……仇を討ちたい。父さんの…
ポールを…バラバラにしてやるッ!」
「そう怒ってはだめよ。」
スティーブの怒りは、今はただ一つにだけ向けられている。
秩序の裏切り者。最も邪悪な、愛する父を奪った男。
突如、シャムルがこちらへ走ってきた。
瞬間的に彼女は姿を現す。
「スティーブ…!
良かった、調子どう?」
スティーブは片手でOKサインをする。
「……ソル、やばいよ。
手短に伝えるね。」




