第四十五話 ストップ・ディス・モンスター
みんなが納得する意見をまとめた結果、深夜2時まで話し合うことになってしまった。
作戦はこうだ。
まずカムプライムとライトニングライアー、僕とベンジャミンさんでスティーブを抑え込む。
そして、ヴラドとシャムル、ヘヴンの3人がポールをとっ捕まえる。
「他のみんなは支援を頼む。
カムプライムからの情報によると、ポールらしき人物がいるところに大量の治安官が固まってる。そいつらを全員倒すんだ。」
「任せろ。支援は俺の得意分野だ。」
「へっ、前大活躍したから、今回は脇役か。まあいいぜ、乗った!」
「だるいからさっさと終わらせて。」
こんなんだが、みんなやる気十分。
さあ、スティーブを迎えに行こう。
「最後に。
みんな、死ぬなよ。」
「あら?あたしは治安官程度に殺されないわよ♪」
「……今死にそうですが、まあ大丈夫ですよ。」
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約束の場所、二十三番街に着いた時、街はまだ落ち着いていた。
人気はなく閑散としている。普段なら活気ある街だけど、住民は皆避難している。
道端には乗り捨てられた自転車や、放置されたランドセルが落ちている。人を失った街が、無言で佇んでいた。
「……スティーブが来るまで後どのくらいだ?」
ベンジャミンさんは懐中時計を握りながら答える。
「わからない。しかし、気配は近付きつつある。」
静寂の中に、轟音が響いた。
ジェット噴射…スティーブではないが、只者ではない。
僕は剣の指紋認証に指をかける。
しかし、ベンジャミンさんがそれを制止した。
「大丈夫だ。彼らは仲間だ。」
空から、黒の装甲が降りた。
モノアイのレンズは蒼く光り、ジェットパック、ウィングが畳まれる。
「君らか。シリウスが言っていた協力者は。
私の名はカムプライム。」
カムプライムは傷だらけの手を出して握手を求める。僕はそれに答え、彼の手を握った。
そこに人の温かみはなかった。あるのは、冷たい金属の質感だけだ。
「ライトはすぐに来る。」
彼がそう言った途端、真隣で雷鳴が響き渡った。
「ちょりっす〜、あれ!あの白髪クンじゃん。」
「君は…」
金髪、派手な装い、この喋り方。執行官、蒼雷公だ。
「あーし金なくてさ、副業よ副業。隠れてやってんのよ。
執行官ってちょービンボーでさ、2ヶ月給料未払いなわけ。
ただでさえ安っすいのに。もう他のところで仕事しないと生活すらままならんの。」
「君も苦労しているんだな。」
「そ。
こっちでは『ライト』って呼んでよ。あーしの本名だからさ。」
ピカピカの笑顔を見せながら、ライトはカムプライムをつついた。
「プラニキ〜、ドラゴンちゃんまだな訳?前コテンパンにやられてるから仕返ししたいだって。」
彼女がそう言った途端、耳をつんざく咆哮が轟いた。
「…来たぞ。
私たちの役割は足止めだ。全力でこなそう。」
ベンジャミンさんはそういうと、鎧の中から長剣を取り出した。
「あぁ、ヘンリー。約束、果たすぞ。」
指紋認証に触れ、鞘から剣を引き抜く。
直後、僕たちをドラゴンの影が覆った。
「ソル殿…背中は任せるぞ。」
「…あぁ、僕からも任せるよ。」
「…始めるぞ。」
瞬間、世界から色が失われる。
こちらに飛びかかろうとするスティーブは空中で静止。
「一応は1分間の停止だ。
これから小刻みに停止を挟む。着いてきてくれ。」
言葉と共に、スティーブの顎がぴくりと動く。
「…やはりあまり効果はない。」
「………………グルァァァァァーーーー!!!!!」
周囲の空間に、ヒビが入るように色が戻る。
停止を破られた。
「グ…」
ベンジャミンさんは胸を押さえて地面に膝をつく。
その隙をスティーブは見逃さない。
巨大な拳が、ベンジャミンさんを打ち抜こうとする。
しかし、カムプライムが許さない。
彼の右手はハンマーへと、左手は銃へと変形し、スティーブの懐へ。
胴体を殴り付け、右方向にスティーブは倒れ込む。
瞬間、スティーブはカムプライムを掴み上げ、地面へ叩きつける。
「ライト!」
「わーってるって!」
背後からライトが背中に飛び乗り、スティーブの体に直接電流を流す。
スティーブは唸り声を上げる。同時、カムプライムを掴む力が弱まる。
そこを彼は見逃さず、スティーブの手に銃撃を浴びせ、掴みから脱出する。
「2人とも退がれ。」
僕はそういうと、スティーブ目掛け走る。
「グルァァァァァ!!!」
スティーブは叫び声を上げ、僕を両腕で叩き潰そうとする。
大丈夫、見抜けている。
スティーブの股下へ滑り込み、ゼロ距離から全力で突き刺す。
僕が力を込めると、剣からエネルギーが爆発し、スティーブの胸に大きな傷をつける。
覇導観で作った技……『ソーラーエクリプス』とでも名付けよう。
中の配線や内骨格が、細い隙間から覗かせる。
しかし、スティーブは一瞬で空へ飛び上がる。
スティーブの口が開かれ、僕の方へ向けられる。
熱線が僕へ命中する直前、世界から再び色が消えた。
「…ありがとう、ベンジャミンさん。」
僕は地面を蹴って立ち上がり、できるだけ熱線から距離を取る。
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「ハァハァ…奴はどこまで迫っている!」
その声に応えるものはいなかった。
刹那、男の首に銃口が突きつけられる。
「……貴様は、もう袋の鼠だ。
窮鼠猫を噛むとも言うが、その歯はもう折ってある。」
暗闇の路地から、1人の少女が歩いてくる。
真隣に風穴が空いたのは、男には見えなかった。
「ポール、久しぶりじゃん。覚悟してよ、無事には帰さないからさ。」
男は助けを求めて逆方向に目をやる。
しかし、広がるは黄昏の森。闇以外、その目に吸い込まれなかった。
「君は詰み。
観念したら?もう助けはこないよ。」
男は諦めたのか、両手を上げた。
ヴラドはフンと鼻を鳴らすと、男の手に一つの装置をつけた。
「ここでこの世に別れを告げたくないのなら、貴様の計画を洗いざらいここで吐いてもらおうか。
虚構はその場で証明される。俺の友人が便利な物を使ってくれたのでな。」
「…まず目的を話しな。」
シャムルは片手に持つボイスレコーダーのスイッチを入れる。
「そう簡単に話すとでも───」
バン。
男の右手から、血が噴き出る。
「………ッ!」
「一度は赦す。
ただ二度目は、選ばせてやる。こめかみ、眉間、耳、どこが好みだ?」
「……撃ってみろ。」
ヴラドは銃の持ち手で男の顔面を殴りつける。
そして、口の中に銃をねじ込む。
「必要とあらば、何日も貴様に付き合おう。」
男は堪えていた涙を流しながら、命乞いをする。
「やめてくれ…!頼む…許して…くれ。」
シャムルの足の力が強まる。壁にはさらに大きな穴が開かれる。
「…あんた、自分の立場わかってる?
一体何人騙したの?どれだけヘンリーの、スティーブの運命を弄んだの?
ねぇ、答えてよッ!!!!」
シャムルは男の胸ぐらを掴む。その目は虎のように鋭かった。
「…私がヘンリーを求めたのは、金のためだ。
不老不死を実現させる装置があってみろ。それがどれだけの価値を持つと思っている。
金が、金があれば権力だって、秩序だって、なんでも手に入る。
英雄にだってなれる。」
「……反応はない。真実だ。」
男の口角が、裂けるように吊り上がる。
「ふ…ふははははッ…!」
「狂人のフリで誤魔化すつもり?」
「いや待って!」
「……何が可笑しい?」
ポールは血まみれの腕を顔に当てる。
「貴様らのその馬鹿さが、哀れでならないよ。
一体、なぜ私が力を使わないのかと思わなかった。それに気づかない貴様らが、愚かでならない。」
瞬間、ヴラドが発砲。
男の体内から銃弾が貫通して落ちた。
3人が地面に打ち付けられる。
「冥土の土産だ。教えてやる。
私はヘンリーのデータは既に入手した。ドラゴンのボディの一部からな。
焼き切れていて、解読に苦労したよ。もう彼の意識は死んでいる。
それを使って、私は不死を実現した。」
彼の手についていた嘘発見器に、反応は見られない。
銃弾を急所に当てれば、どんな人間でも死ぬ。
しかし、彼には一切通用しなかった。それが言うこと。
彼は、『嘘をついていない』。
「じゃあな、燃え尽きた炭共。せいぜい暖炉の中で永遠に朽ちていけば良かっ────。」
言葉が紡ぎ終わる前、ポールはピンク色の光に吹き飛ばされた。
その光の持ち主を知っている。しかし、3人には一切目を向けず、ポール目掛け突っ込んでいった。




