第四十話 カム・アライヴ
スティーブは起きようとしない。泣き疲れて眠ってしまった。
…ここにいると、昔のことを思い出す。
私と妻の間に、1人の男の子が生まれた。
愛しい我が子。絶対に守り抜くと誓った。
けれど、運命というものはいつだって私たちの敵となる。
息子は、『先天性異能適応性侵食障害』を患っていた。
端的に言えば、自身の異能に体が適応できなく、自身を蝕んでしまう障害のことだ。
スティーブは、5年経たずに死ぬと言われた。
その時、私は初めて運命に抗おうと決意した。今までなにが起ころうとも『そういうものだ。』で納得してきた。けれど、そんなことはもうしたくなかった。
発明家である私と妻は、スティーブの侵食が始まるまでに『義体』を造り出した。
彼が大好きだったドリルのメカのアニメがある。その機体をそのまま模したその義体と機能、『変身能力』は、我が人生の最高傑作と言える代物だ。
手術は、医者に頼るしかなかったから私たちには祈る以外のことは出来なかった。
何時間も待って、機体が稼働音を出しなら手術室から出てきた時は涙を流した。
そこからは、幸せだった。
なんだかんだ彼は学校でも人気者になり、友達も増えた。
毎朝、楽しそうに笑顔を振る彼が、大好きだった。
…あの日までは、あの日までは幸せだった。
…私たちの住む町で、大規模な異化が発生した。
土地まで侵食する異化が発生したのなら、住んでる町は手放さなければならない。
けれど、私と妻は手放す気にはなれなかった。愛する息子と日々歩んだ家を、捨てたくなかった。
それが、妻の人生最期のわがままだった。
侵食する建物に巻き込まれ、私の妻は死に絶えた。
それだけじゃない。スティーブの友人たちも。皆、腐って溶けてゆく学校に飲み込まれていった。
…大の大人でも、精神を病んでもおかしくはない出来事だろう。
もし、その出来事を経験したのが『子供』だったら。
スティーブは怒った。母が死んだからだ。
スティーブは叫んだ。友人が死んだからだ。
スティーブは壊した。家がなくなったからだ。
そして、私も壊れた。
異化に巻き込まれて体は9割が侵食された。
死にゆく私に出来たのは、自身の記憶と思考をスティーブの機体のデータベースにアップロードすることだけだった。
私は、体を失った。
スティーブの機能の一部となって生きながられたのだ。
スティーブは孤独になった。彼は、それが嫌いだ。
「Don't leave me alone」
彼に留守番を頼むと、毎回こう言った。
スティーブは、どんな気持ちなんだろう。
軍が助けに来た頃には、もう町に生身の人間は存在しなかった。
テレビで報道される頃には、その町に立ち入った軍人は皆死んだ。
ドリルで腹に穴が開けられ。
首を噛みちぎられ。
体を引き裂かれ。
焼き尽くされ。
踏み潰され。
残ったのは、泣き崩れる子供と父親だけだった。
今、私の存亡がスティーブの中で天秤にかけられている。
友人か。父親か。
スティーブは、後者に手を差し伸べた。
絶対、そうすると思った。
こちらに向かう足音が聞こえる。
眠りこけていたスティーブは一瞬で目を覚まし、立ち上がった。
唸り声を上げ、腕をドリルへ変形させる。
「……やっぱり、ここにいたんだね。」
…よく知る、意外な人物だった。
確か、私たちを最初に見つけたのもヘヴンだった。
調査の名目でここにやってきたヘヴンは、私たちを英雄へ歓迎した。
最初、私は拒否していたが、スティーブが入りたいといって、英雄になった。今では、彼らの仲間であることを誇りに思う。
スティーブには迷いが見えた。
このままヘヴンの頭を噛みちぎれるのに、しようとしない。
けれど、依然威嚇は続ける。
「…大丈夫。怖かったよね。お父さんが死んじゃうかもしれないって。安心して、私たちが絶対守るから。約束、しよ?」
ヘヴンは小指をこちらへ差し出す。
沈黙が深く流れる。
誰も、動こうとはしなかった。
スティーブは震える右手を伸ばした。
小指を結ぼうとしたのか。
それとも、掴もうとしたのか。
次の瞬間、咆哮と共にその腕はヘヴンを弾き飛ばしていた。
工事の壁を凹ませ、ヘヴンは壁にぶち当たる。
スティーブはもう片腕のドリルをヘヴンの心臓がある場所に当てる。
「グググググ……」
「……おね…がい。帰ろう…?みんな…まってる…から…」
「………ギュゥゥゥゥーーーーン!!!!」
「……みんな…死んじゃうかもしれないんだ…だから…
お父さんも…ね…君は…わたしたちのヒーロー…になれる…から…」
「ギュゥゥゥゥーーーーン!!!!」
スティーブはヘヴンを掴み上げる。
彼女の細い体が、スティーブの手の中で蠢く。
スティーブの大顎が開かれる。
「やめろ!スティーブ!やめろ!」
私の声は、届く間際で掠れていく。
けれど、スティーブの大顎は開かれたまま、閉じることはなかった。
「………」
無言でスティーブはヘヴンを投げ飛ばす。
「ギュルゥゥゥゥ…」
そう言い残し、ヘヴンを残して地下へ潜り去っていった。
スティーブが向かうのは、彼が背を向けていた場所。
『都市中央区』だった。
「……スティーブ。
君は今、何をしたい。」
「ギュルゥゥ…」
「…そんな時、『ドリル・タイタン』はどうすると思う?」
今月中に3章終わらせたい




