第三十五話 ドント・リーブ・ミー・アローン
「……よし。これで点検は終わりだ。」
スティーブの機体は、いつにも増して赤々と輝いている。
今、彼は休止状態に入っていて、電源を入れれば再び稼働する。
「……なぁ、ソル。」
ヘンリーが、僕に声をかける。
「もし、私がいなくなったらの話だ。
恐らく、スティーブは怒りで君たちにまで牙を巻くかもしれない。その時は。」
「引っ叩いてでも止めてやってくれ。」
「縁起でも無い事言わないでくれよ。」
ヘンリーの声はどこか寂しげで、哀しさを感じる。
「スティーブはな、繊細なんだ。
この身体になってからと言うもの、スティーブは一定のリズムの振動や音を聞くと、ある種の興奮状態になってしまうんだ。
そうなれば、体の権限を無理やり停止させない限り、目につくものを、全て叩き壊す。」
「私がいれば、止められるかもしれない。
けれど、もし、私がいなくなったら。スティーブから家族が奪われたら。
彼は怒りのまま、自分の意思で全てを滅ぼすだろう。
…私の妻、スティーブの母親が事故死した時、スティーブは我を失った。
そして、自身の故郷を滅ぼしたんだ。」
「…長い話になって申し訳ない。
ただ、これだけは伝えたかったんだ。」
僕は音声の鳴る機体の背に手を当てる。
「…任せてくれ。君の息子は、君が思うより強い。」
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都市災害の現場にエリが巻き込まれた、まぁ、彼女なら問題はないだろうが、一応俺とキッド、ヘヴンは応援に向かう事にした。
都市中央区への電車は止まっていたから、久々にバスを利用する事にした。
駅前で降りると、巨大な怪獣の死体が横たわっていた。
一瞬、エリがやったものかと思ったが、大きな斬撃の後からして、剣士の仕業だろう。それも、相当練度の高い。ソルに匹敵する剣の腕の可能性がある。
怪獣の死体に触れようとした、その時だった。
辺りは快晴だと言うのに、雷鳴の音が聞こえた。晴天の霹靂というやつだろうか。いいや違う。
「ちょいまちー。それ、鬼ヤバのヤツだから。さわっちゃだめー。」
金髪、随分派手に加工をしたスーツ、赤のジャケット。
ピンク色の風船ガムをくちゃくちゃと噛みながら膨らませ、俺たちに手を振った。
「お前は、何者だ。」
俺は一瞬で振り向き、槍を構える。
「えー?あーし知らないヤツ、この都市にいたんだー。
治安局執行官第4位『蒼雷公』、って言えばわかったり?」
…相当厄介なやつに出会したようだ。
彼女の噂は予々。執行官の鉄砲玉担当。何処からともなく雷鳴と共に現れ、電撃で全て解決する。
逸話が真実である限り、俺たちに勝ち目はない。
「黒髪クンたちさー、どっかで見たことあんだよね。
なんだっけ、薪のなんちゃら?それでしょ。絶対それだ。」
俺は2人に視線をやる。
所々の様子から、こちらに対する警戒の薄さが見て取れる。
先に出し抜ければ、可能性がある。
「あぁそうだ。
それがどうした?」
正気かお前は!?
キッドは馬鹿正直に俺たちの正体を明かす。
「あー、やっぱり?
なら、ラッキー。」
「何がだ。」
気だるげな様子の蒼雷公を睨み、龍を3体召喚する。こいつがどれだけ通用するか。
「…あーしさ、今日の仕事に、英雄クンたちとっ捕まえて情報叩き出せ。ってのがあんだよね。
それと、シンプル暇だから。」
蒼雷公は、指を擦り合わせる。
蒼穹の雷が走り、空気が文字取りピリつく。
恐らく、レックレスより電撃の火力は高い。
「……もうやるしかないね。
……どう?勝てそう?私たち、多分皇楓君の支援しかできないよ。」
ヘヴンは、俺に耳打ちする。
「…厳しいと見た。
隙を作って逃げるぞ。」
「んじゃ、まず黒髪クンたちのターンね。」
蒼雷公は両手を広げ、打ってこい、と言わんばかりに挑発する。明らかにこちらを舐め腐っている。
「まず隙を探そう。そこからだよ。」
ヘヴンは指を鳴らし、夜の結界を開く。
辺りは静寂に包まれ、梟の声だけが響く。
「おっ結界じゃーん。良いの持ってんね。」
「キッド、行くぞ。」
「任せてもらおうかッ!」
言葉と共に、俺たちは飛び出す。
音もなく、キッドとヘヴンの銃弾が四方八方に飛び交う。
龍の存在を、隠す為だ。
上方向から、ビルと同等の質量を持つ龍が蒼雷公目掛け翔る。
地面は大きく穿たれ、交差点の真ん中に巨大なクレーターが空く。
煙の中、電光が閃く。
ヒールの音が、一歩一歩こちらに近づく。
「なら、今からあーしのターンね。」
瞬間、辺りは蒼穹一色となった。
「エクス・パルス。」
技名をつけるタイプか、と思う暇はなかった。
ドーム上に雷のパルスが広がる。
ビルの電気、信号の電気、あたりの電気自動車、広告板の電気ありとあらゆる電気がショートし、煙を上げる。
奴のパルスが影響を与えるのは機械だけじゃない。俺の頭にもだ。
頭が揺さぶられたように痛む。全身に電気信号が駆け巡り、鳥肌が立ったり、全身の筋肉が収縮する。異常な体の反応が引き起こる。
「ど?あーし、強いでしょ。」
「安心してよ。殺しちゃったりはしないしさ。」
瞼が痙攣して何も見えない。
わかるのは、ただヒールの音が近づいてきていることだけだった。
コツ。と、俺の前に立った音が聞こえた。
やっと、目が開きそうだ。
…その時、俺はその人物が蒼雷公でない事に気がついた。
「待て待て。俺たちがするのは取り調べってだけだ。
なにもここまで痛めつける必要はない。」
男の声だ。
「えぇ。おじさんさぁ、空気読みなよ。今からあーしがビリってしてから取調室に運ぶつもりだったのに。」
「…アンタ、そのビリで一体何人殺してきたんだ。」
刀を抜くような音が聞こえる。
「おい、エリだったか。こいつらを運んでやってくれ。」
体がピンク色の光に包まれて、浮かび上がる。多分、エリは無事だったんだろう。
「まいいや。おじさんがあーしの遊びに付き合ってくれんならいっか。」
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皇楓たちは一撃でボロボロ。体から焦げた臭いまでするレベル。
幸い、命に別状はなさそうね。
研冶は太刀を、金髪の子に向ける。
金髪の子は指を2本前に差し出す。
「一撃で満足させてやるよ。」
「一発で伸びたらはおもんないよ。」
二つの技は、クロスした。
「勝破巻斬。」
「エクスギガレール」
稲光と、納刀の音が同時に聞こえた。
この1秒は、とても長い。雷の音も、凪がれてる。
瞬間、金髪の子が膨らましていたガムがパンっと音を立てて割れた。




