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イマジナリー・ライク・ア・ジャスティス  作者: もちもちアゲイン
第二章 武芸百般、勇往邁進、覇導専心
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第三十一話 最期の弾丸



少女を追い詰めた。もう、逃げられはしない。ここで、僕が叩き斬る。

剣を振り上げ、少女の首目掛け振り下ろす。

ガン。

首を斬った感触ではない。

まるで鉄骨を叩いたような衝撃が腕を走る。

なぜ、この少女の首から金属音が鳴った?

少女は手を広げ、叫んだ。


「やだ!!!!!!!!!!!!!」


とてつもない風圧が、僕へ押し寄せる。

研究所が、音を立てて崩れ落ちる。

土煙と耳鳴りが去った跡、立っていたのは少女と、二人の男女だった。

体を起こそうにも、瓦礫の下敷きで、身動きが取れない。見るしかできない。シリウスさんもだ。

瓦礫を退かそうと足掻くも、指が裂けそうになる。


「……あの子を……あの子を返してよ……」

朧さんの瞳は揺れ、瞳孔が小さくなる。溢れる殺意で押しつぶされそうになる。


「…彼女にした様に、お前の腹にも風穴を開けてやる。」

優しく、冷静な顎さんが殺すことを、復讐を宣言した。


今まさに、二人の姿が変わった。

顎さんの腕が、赤く染まる。

朧さんの体が、白く透ける。

二人の達人は、己を弾丸にした。


二人の連携は完璧だ。

一方がアスターの場所を完全に予測し、攻撃を置く。

もう一方はそれを外させないように誘導する。

素人目だからこれくらいしかわからない。

少女は、攻撃を躱せずに喰らい続ける。しかし、一切のダメージが見えない。傷が、つけられない。

そして、叫んだ。


「とれちゃえ!!!!!!」


瞬間、僕の顔に血飛沫が付着する。

何かが宙を舞った。

白いもの。

鳥かと思った。


腕だった。


朧さんが、切断された断面抑える。

その部分に、長い白髪を巻きつけ、簡易的だが止血をする。


「………大丈夫…まだ、まだ戦える。宗主として……恥じぬ戦いを…っ!」

言葉では強がるけれど、腕からはまだ血が滴り落ちる。

ヒューヒューと息は浅くなり、膝をつきかける。

瞳は揺れ、脂汗を額にかく。

けれど、彼女はアスターを睨み続けた。


「なんでわたしをたたくの?いたいのやだよ。やめてよ。」

アスターの見た目は10歳そこらに見える。けれど、言葉は幼児のそれだ。


「……ッ…彼女は…彼女はどんなに苦しんだと思っている。化け物が。」

顎さんの拳が紅に染まる。

そして、飛び込んだ。


「やめて!!!」


彼は、足を止める。いや、止められる。空中に縫い合わせられたように静止した。

…一つ、疑問が浮かんだ。


「……アスターは、自身が考えたことを実現させるんだろう?なら、なぜ彼らの死を想像しない?」


「…多分だ。彼女は死が何なのかを理解していない。教えられていない。から、願おうとしても願えないといったところだろう。」

瓦礫に押し潰され、苦しみながらもシリウスさんは口を開く。

僕らには、師匠たちが勝ってくれることを祈る他ない。


けれど。


「とれちゃえ!!!!」

顎さんの右脚が膝下から消えた。

一拍遅れて、断面から血が噴水のように吹き上がる。

そして、地面に音を立てて倒れた。


「…立て…立て…!立ち上がれッ!俺は、俺はまだ負けてないッ!!」


片足を失ったにも関わらず、顎さんは一本の足だけで立ち上がる。


「…なんで、なんであかいのだしたらみんなうごかないの?もっとあそびたいよぅ。むらさきのおねぇちゃんはどこ?まだあそんでたのに。」


足元に転がる脚を拾い上げる。

「これ、いる?」

無邪気に差し出した。


……これが、吐き気を催す邪悪か。

自身が何をしたのかを、全く理解していない。


「…あの子は…あの子には幸せになってほしかった。

なのに…なのに…っ!」

朧さんも、失血による貧血で動きが鈍り出した。もう、二人の限界は近い。


───────バン。

銃声に、ここまで歓喜したのは初めてかもしれない。

アスターは耳を押さえ、体を縮こませる。

「なに!?!?こわいよ!?!?」


「………クソガキ。こんな日に、お前みたいなやつは。」


銃声が、三度鳴る。


「…ヒーローが、成敗してやる。」


キッドは拍をおきながら、空砲を鳴らし続ける。

アスターはその音に怯え、耳を押さえて動かなくなる。

「……そうか。彼女は子供だ。知らない大きな音を、怖がるに決まっている。」


「兄貴、今だ。」


「やだ……やだ……」

アスターは涙で濡れた瞳をキッドへ向けた。

「なんでおこるの……?」


言葉と共に、顎さんが飛び出し、アスターの顔面を思い切り殴り飛ばす。今度は、生々しい音と共にアスターが吹き飛ばされる。


「……俺、ちょっと見てたんだ。このガキが自分を変えられるのは、一回だけだ。」


煙の中から、立ち上がる。

キッドは、そこに空砲を撃つ。

アスターは動じない。

そして、背後に気づかない。


朧さんの蹴りが後頭部に命中し、思い切り瓦礫へ打ち付けられる。


「こいつが銃声にビビらなくなれば、ダメージは通る。」


「おとやめて!たたかないで!」

アスターは泣きながらのたうちまわる。

腕の一振りで、瓦礫の山は綺麗さっぱり吹き飛ばされる。

やっと、立てる時が来た。


アスターが痛みに悶え硬化すれば、キッドが銃を鳴らして驚かせる。この繰り返しでなら、ダメージを与えられる。

攻撃が通るなら、師匠たちは絶対に負けない。


「銃声を鳴らし続けろ!宗主たちを支援するんだ!」


「…じゅ…うせ…い?それ…やだやだやだ!」


キッドは引き金に指をかけ、放つ。

────音が、しなくなった。まるでサイレンサーでもつけたみたいに。

銃声を聞きたくないのなら、自身の耳を改造するんじゃなくて、銃から音を奪えばいい。


「いたいのやだ!」


言葉より後に朧さんの爪先がアスターの腹に突き刺さる。

再び、金属音が鳴った。


「……クソが…」


形勢逆転だ。ちょっとは傷を負わさられたけど、致命傷には程遠い。


アスターは、キッドにじりじりと歩み寄る。

「……来るなら来いよ。俺をあいつの所に連れて行ってくれよ。」


「おにいちゃん、なにしてあそびたい。わたし、おりょうりごっこ。わたしがこっくさんで、おにいちゃんがおさかなさん。」


キッドは、アスターに向かって両手で中指を突き立てる。

「俺を料理したいってか?ガキ、俺はお前の料理を食ったりも、お前に料理されたりもしねぇ。

俺『たち』がお前を料理してやるんだよ。」


僕が斬撃を飛ばしても、傷一つ付けられない。シリウスさんの水も、全て『飲んだ』。この子供を止める方法は、あるのか。

アスターの手が、キッドに触れようとした時。


耳をつんざく轟音が響き渡った。

子供だからビビるとか、そういう程度じゃない。

本当に鼓膜が破けてしまいそうな爆音が、辺りに満ちる。


「…久しいですね、アスター。」


僕は一歩も動けなかった。

なのに彼は前に出た。

機械のアーマーに身を包んだアンサーが、僕の前に立った。


「おにいちゃん、だあれ?」


彼の肩が、少しだけ揺れた。それが怒りなのか、悲しみなのか、僕にはわからない。

「………………今は違うけれど、貴方の元育ての親ですよ。」

その声は、どこか懐かしげでもあり、寂しげだった。


「皆さん、これを付けてください。」

こちらに、ヘッドホンが投げられる。何に使うのか?


「お二人、手土産です。」

アンサーはアーマーの中から二つのアタッシュケースを投げ出す。地面に落ちると同時に開かれた二つは、翠色の扇子と、緋色の籠手だった。


「レヴェルからの伝言です。

『最高傑作を存分に楽しめ。好き放題暴れろ』だと。」

わずかに口元を緩める。そして、アスターの方へ向き直した。

背からスピーカーが現れる。

そこから、アスターが忌み嫌う爆音が流れ出す。


流れるは、工場の警報が何百倍にも増幅されたような爆音。

爆音というより、もはや衝撃波に近いものな、スピーカーから響き渡る。

アスターは耳を押さえ、涙を流す。ただの子供の涙。なのに、どうして憎たらしいのだろうか。


「やだやだやだ!おときらい!いじめないで!」

泣き喚きながらアンサーに手を向ける。瞬間、この場から音が消えた。


「……分かっています、貴方はそうすると。

何年一緒にいたとお思いで?」


またスピーカーが響く。

今度は、爆音のヘビメタ。ドラムの音で、世界が歪んで見える。

アンサーはこちらに目配せ。「やれ」という事だろう。


瞬間、師匠たちが飛び出した。

翠色の扇子は開けば無数の刃が花弁のように連なる。

緋色の籠手は鼓動するように微かに脈打った。

二つの弾丸は、少女を貫いた。

アスターは胴から血を流し、確かな傷を負う。


「……やめ…てよ。わたし…わるいことした…?

あやまるから…ごめんなさい……だから…いたいのやめて。」


けれど、彼らは一切止まる気配を見せない。いや、止まれない。

大切な我が子(雨京柳)を奪われているんだ。止まることは、許されない。


「…二人とも、どうか辞めにしてください。」

スピーカーの音が止まる。アンサーが、目に薄く涙を浮かべる。


「…私に、私に終わらせさせてください。

造った者として、責任を取らせてください。」


彼の決意は、半端なものじゃない。


朧さんは苦虫を噛み潰したような顔になる。

しかし、顎さんはそんな彼女の肩を軽く叩き、目を見合わせる。そして、道を開ける。


もう、アスターはほとんど動けない。抵抗もできない。

アンサーは一歩、また一歩と歩み寄る。彼女の前に立った時、アンサーは前を見ることができなかった。


────────────────────────────────

これ以上前に進めば、私は我が子を殺すことになる。

私の手に握られた、一つの薬品。

あの頃、非常事態に、彼女を終了させられる様に造られた物を改造した一品だ。

EXCITING-444があったから、これを作ることができた。

これを打ち込めば、アスターは苦しむ事なく一瞬で死ぬ。

私は、私はこれを使わないといけない。

なのに。

なのに。

動けない。動かない。

彼女との『追憶』が、蘇る。

彼女の名前は、私がつけた。

識別番号*444。この無機質な名前が、嫌いだった。

私の髪色にちなんで、花の名前、『アスター』と名付けた。


「あすたー?それが、わたしのほんとうのなまえなの?」

「せんせい。これなに?」

「どこいくの?」

「おくすりはいや!」

「あそぼ!」

「うみってどんなばしょ?」


…もうアンタレスは消し去った筈なのに。私はアンサーなのに。

アンタレスは、我が子に情をかけてしまった。そして、自由にしてしまった。それは、私の過ちだ。

あのアスターはもうとっくに死んでいる。

けど、『このアスター』は自由を手にしかけているんだ。

……絶対に、絶対にしてはいけない想像をしてしまう。

……彼女を、もう一度自由にしてあげたい。

もう、『さようなら』はしたくないんだ。


瞬間、私の手から薬品が消えた。いや、盗られた。

認識外から行動できるなんて、この場にはたった一人しかいない。


「………キッド。」

私が言葉を発した時には、アスターの首元に、注射針が突き立てられていた。


「……これが最期の弾丸だ、アディオス。ガキンチョ。」


アスターは小さく瞬きをした。

何かを言おうとして。

けれど言葉にはならなかった。

そのまま、静かに瞳を閉じた。

結局、アスターは自由になれなかった。

私は、愛すだけ愛して、最期には責任を果たせなかった。

けれど、ある意味それで良かったのかもしれない。


ここで私がアスターを連れて逃げたのなら、私は全てを裏切る最低の人間になっていた。

アンタレスなら、きっとそうしただろう。

でも、私はアンサーだ。


キッドは天を突くように右手を掲げる。

『武芸百般 勇往邁進 覇導専心』

血で濡れた文字が風に揺れる。それは弔旗にも、戦旗にも見えた。

けれど、その血はまだ乾き切っていなかった。

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