表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イマジナリー・ライク・ア・ジャスティス  作者: もちもちアゲイン
第二章 武芸百般、勇往邁進、覇導専心
PR
30/37

第三十話 生まれなければ良かった



「……は?」

漫画じゃあるまい、そんな神すら鼻で笑える力、実在するわけがない。実在しようものなら、この世界はお遊びも同然だ。


「……彼女には、一切、人間としての教育が施されていなかった。下手なことを覚えさせてみろ、世界を滅ぼしかねない。

それに、実験時意外は常に鎮静剤が打たれて眠らされていた。

……でも、今はどうだ?」


「………自由、だな。」

自由は、いつだって牙を向く。


「……これが、彼が望んだものなのか…?」

シリウスさんは、顔を下げる。


「……?」


「…ふと思い出してしまってな。

彼女の管理担当の男は、優しい人だったんだ。

頭脳だけなら、研究所の誰よりも優れていた。けれど、研究者としては、致命的な欠陥があった。

……優しすぎたんだ。実験用ラットにすら情が湧いてしまって、解剖することができなかった。

そんな彼は、アスターを自分の娘の様に可愛がった。

実験に過ぎなかったが、彼女に師として、いろいろなものを教えた。…その内、彼に、ある感情が湧き上がった。

アスターの収容違反は、本来なら電気系統の故障によるもの、が要因なんだ。

このことは、ワタシしか知らない。だから、口外しないでほしい。

彼はアスターに、被験体じゃなくて、人間として生きて欲しかったんだ。だから、彼女を自由にした。

そして、多くの命を間接的に奪った。

ワタシは、彼を憎むべき立場なんだろう。何故だろう。ワタシは、今でも。彼が好きなんだ。突き放されてるはずなのに。なんで、だろうな。」


薄く目に涙を浮かべた。

「…すまない。キミに言ったって、一つもわからないよな。忘れてくれ。」


彼女の肩にそっと手を置き、僕は言う。

「……多分、だ。

その男は、大切な君が死ぬのを見たくないから、傷にしたくないから。だと思う。僕の知る限り、その男なら、きっとそうする。」


「…はは、ワタシも、そうだったらいいなって、思ってたんだ。」


何かを決心したかの様に、彼女は双剣を強く握る。

瞳に映る海は、煉獄の様に揺れていた。


「アスターを殺すことができるのは、彼女の遺伝子情報を全て知る彼しかいない。でも、ワタシの知る彼は、アスターを殺すことを望まない。絶対にな。

……君の知る『アンサー』なら、きっと。」


「あぁ、彼なら、みんなのために、きっと彼女を殺そうとするはずだ。」


────────────────────────────────

私がデータを持ってこの地に再び降り立った時に、後悔の字が浮かんだ。こんな犠牲は、見たくなかった。

腹部に受けた傷、失血から見て、少女は死んでいる。


「………遅かった。」

片膝をつき、少女を哀悼する。


足音の方に目をやると、白髪の女性に、赤髪の男性。宗主たちだ。

男は立ち尽くした。

何かを言おうとして、言葉を見つけられなかった。

唇だけが、震えていた。


女は少女の亡骸を見下ろした。

血に濡れたカーディガン。

冷たくなって手。

二度と開かない瞳。


「……顎。」


「どうし───」


「私が帰って来なかったら、ごめん。」


「何を言ってる。」

男が言い終えた瞬間、女が姿を消した。

テレポートと見間違うほどの速度。風よりも速く、彼女は動いた。


「………クソ姉者!」

男は地面を強く踏み込み、女が駆けたであろう方へ跳躍。

最悪の状況が頭をよぎる。

もし、あの二人がアスターに出くわしたら。


「総員に告ぎます。

あの二人を今すぐ追いなさい。死なせてはいけません。」

端末を通じ、この地にある全ての仲間に連絡を行き渡らせる。

……完成した切り札を使う時が来たようだ。


端末を操作。

「承認。4・4・4.追加モジュール起動。」

メカ社の機械兵たちをかっぱらって造った、私の集大成。

直接戦闘能力のない私にとって、普通の武器はほとんど意味がなかった。

しかし、この『M.E.K.』なら。

……行こう。


背中からブースターを起動し、追跡を開始する。追いつける、確信した。

私が生んでしまった者の、責任を取らなければ。


────────────────────────────────

「宗主二人が現在移動中。

進路から見るに、廃研究所が目的地です。至急、向かってください。」

返信はせず、既読だけつける。


「…師匠たちが、今廃研究所に向かっているらしい。

僕たちも、行こう。」


返事はせず、シリウスさんは頷いた。

道中の至る所に空っぽの注射器が散乱し、足を取られる。

まさに地獄だ。

注射器を辿り、山奥まで走る。一体、どこまで続いているんだ。

注射器は、巨大な古びた建造物の前で止まっていた。

苔むした壁に、炎のマークがスプレーで描かれている。『ホットネスト・ファンクラブ』の印だ。


「……ここか。」


「警戒は怠るな。アスターが何をしでかすかわからない。」


鋼鉄の重厚な扉を見ると、人一人が入れそうな穴が開けられていた。多分、朧さんか顎さんがぶち開けたものだろう。

外見が可愛く見えるほど、中は散乱している。

監視カメラらしきもの、防衛装置らしきものは、全て破壊されている。割れた注射器に、床は薬品と血でびちゃびちゃだ。

辺りに、会員の死体が転がっている。

一撃で心臓がぶち抜かれたであろう死体。内臓が引き摺り出された死体。何をされたのかすらわからない肉塊。

見ただけで、加害者が異常なほどの憎悪を抱いていることがわかる。

……想像以上に、彼女らは速かったらしい。

足を進めるたびに、ぴちゃ、ぴちゃ、と音が立つ。これが終わったら、靴を買い換えよう。


血の跡は、どこまでも続いている。

ふと、僕は血のついていない扉が目に入った。

カードキー式のロックがかけられている。他の扉にはないのを見るに、多分重要な部屋だろう。

僕はこの扉を思いっきり蹴る。

足に強い衝撃がかかり、痺れる。痛い。

「……開けるのなら、斬ってしまった方が早い。」

シリウスさんは、ケーキにナイフを通すかのように、鋼鉄の扉を斬り裂いた。


部屋の中には、よくSF映画で見る様な、培養液でいっぱいの水槽が、大量に並べられていた。

『DNA提供元、スパークル』というラベルが貼られた水槽の中には、胎児が浮かんでいた。

……随分と、胸糞悪いことをしている様だ。

まだ、産まれるまでには当分かかりそうだが、もう人の形をしている。へその緒は機械のチューブに置き換えられ、謎の液体が注入され続けている。


「……恐らく、スパークルの髪の毛か何かを使って、クローンを造っているんだろう。ここから、過去のデータにアクセスしてみる。」


シリウスさんは、近くに置かれたコンピューターを弄る。

その間、僕はいろんな水槽を見る。


『DNA提供元、七星朧』『DNA提供元、シャドウ・リヴァイアサン』。どれも、強者の名前が連なる。

『DNA元、ソル』……鳥肌がたった。

またも強い吐き気がする。今日二回目だ。

胎児は、もう産まれられるくらいに成長している。

これが、僕……?いや、僕ではない。けど、自分自身のクローンを見て、いい気分になる人なんていないだろう。

これに剣を持たせれば、僕を超えるのだろうか。


目眩で、一つの水槽に寄りかかる。

その中の胎児は、まだ若い。最近造られたものだろう。

『DNA提供元、ハレミチ』。…そういえば、ハレミチの遺体はどうなったんだ?あの戦いの後、僕たちは家に帰ったんだ。

遺体って、誰が処理した?

彼が死んで2日で、フェンリルの残骸は溶けて無くなった。

その時、彼の遺体はなかったらしい。

……これ以上考えるのはやめにしよう。


「……これは。」


シリウスさんは顔をしかめ、キーボードを打つ手を止める。


「2ヶ月前、最初のクローンが誕生した時のデータが残っている。DNA提供元が、アスター…だ。

でもなぜ?執行官が、彼女の遺骸を全て燃やし尽くしたはずなんだ。わからない…情報が足りなさすぎる。」


わからないことへの苛立ちか、シリウスさんはキーボードへ拳を打ち付ける。


「シリウスさん、取り敢えず進もう。ここで時間を食うわけにはいかない。」


「……少し待ってくれ。」


彼女はコンピューターに手をかざし、中に水を注入する。

ビリビリと音を立て、コンピューターは故障。辺りに焦げ臭い匂いが漂う。


「これで、この胚たちは死ぬ。

……彼らに罪はないとはいえ、産まれる前に死ぬのはな。

いっそ、生まれなければ良かったのかもしれない。」


胚たちに一切見向きをせず、シリウスさんは部屋から出た。

血の跡は、まだ続く。

奥へ行くごとに、どんどん濃くなり、臭いもきつくなる。

耳を澄ませると、左奥から足音が聞こえる。

裸足、ボサボサの長い髪の少女。


「いたぞ!」

僕が声を出した時には、少女は走り出していた。

全速力で、少女が走った方へ駆ける。


少女は邪魔をするなと言わんばかりに、辺りの死体や倒れた机を浮かせて投げてくる。

その全てを斬り伏せ、僕たちは走り続ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ