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イマジナリー・ライク・ア・ジャスティス  作者: もちもちアゲイン
第二章 武芸百般、勇往邁進、覇導専心
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第二十七話 水面に映るは焼き入れし拳


目を覚ました時には、布団の上だった。

体を起こすと、すぐ近くにソルが座っていた。

「起きたか。」


「その、ごめんな。さっきはカッとなっちまった。」


「謝ることじゃないさ。それに、あいつらの言い草は僕の癪にも触ったからな。」

よく見ると、ソルは目の上を腫らし、絆創膏を貼っている。鼻血を垂らし、頬にべっとりと血がこびりついている。


「君を殴って気絶させた後、あの門下生たちが、一発君を殴らせろって寄ってきたんだ。それを跳ね除けている時、奴らが雨京さんを悪く言ったのを聞いてね。

それに反論したら、僕が殴られたんだ。」

ソルはやっちまった…と言わんばかりの苦笑いをしながら頭を掻く。


「気絶した君を守りながら僕がリンチにされたんだぞ。全く、血の気の多い奴らだ。」

ソルの血が、畳にぽとりとこぼれ落ちる。


「……俺のせいだ。本当にごめん。」

俺は畳に頭を叩きつける。詫びても詫びきれねぇ。俺のせいで、友達がボコボコにされたんだ。


ソルはため息をつき、俺の頭を掴む。そして、上に引っ張り、頭を上げさせる。

「僕が謝罪が嫌いだって知らなかったか?とにかく、あいつらが全部悪かったんだ。君が謝ることじゃないよ。」


ソルは優しく微笑みかける。俺とこいつが出会った時も、似た様な感じだったっけなぁ。

金も地位も力もねぇ俺を、どん底から掬い上げてくれたのはソルだった。初めて会った時、俺はこいつに殺されるって思って汚らしく命乞いをした。

けど、こいつは膝をついて、俺の頭を掴んで上に引っ張った。

そして、優しく笑いかけた。

あの時から、俺はこいつの銃になろうって決めた。


「実は、大轟さんにちょっとバレちゃってな。一応、見なかったふりをしてくれるらしい。

ただ、七星さんにバレたらやばいから今後気をつけろ、だって。」


「分かった。」

俺は短く返事をし、拳を握る力を弱めた。

────────────────────────────────


何時からだろうか。今まで、毎日やりとりを交わしていたこのアカウントから、一切の連絡が来なくなったのは。

彼女は、いや、私以外あの時死んだと思っていた。けれど、私と彼女だけは生き延びていた。

クソッ。やはり思い出したくはありませんね。

スマホにある、メールアプリ。その中で、唯一お気に入りに登録されているこのアカウントを見ると、毎回思い出してしまう。

このアカウントから連絡が来ることは、もう何年もなかった。

けれど、今日、懐かしい通知音が響いた。


シリウス

「今から向かう」


私は未読のまま、スマホをポケットにしまう。

久しぶりに外に出る格好をし、リビングのソファに腰掛ける。


「元カノちゃん、来るって?」

エイヤが後ろから声をかけてくる。


「えぇ。後、元カノではありません。元同僚です。」

言葉を発した時、鍵を開ける音が聞こえた。

覇導観に赴いている者を除いたメンバーは、皆この場にいる。つまり、彼女が来たと言うことだ。


廊下の奥に、コートを着た、艶やかな黒髪の女が見えた。


「ハロー。いや、グッドモーニングの時間か。」

女、シリウスは穏やかに微笑み、私に手を振る。当然、私は返さない。


「そこの、ピンク髪のエイヤと、室内なのに帽子を被ったヴラドが同行します。」

シリウスは2人に目をやり、同様、手を振った。

ヴラドは優雅にお辞儀をし、エイヤは無愛想に瞬きだけを返した。

「それじゃ、行こうか。五十一番街へ。」


「なら、俺に任せてくれ。」

ヴラドは私たちに手を差し出す。


「俺とて、毎日舞台裏で修練に励んでいるのだ。全員一気に舞台へ飛び込めるぞ。」


「お言葉に甘えさせてもらおう。」

シリウス、エイヤ、私の3人がヴラドに触れる。

瞬間、私たちの視界は家から海辺の無人駅へと移り変わった。


「ここが覇導観の最寄駅のはずだ。」

五十一番街に来たのは随分と久しい。確か、前は観光だった。また来たい、心の奥でずっと思っていた。けれど、任務で来ることになるとは。運命の悪戯ってやつだろう。


「んー磯の香りってやつ?生臭いね。嫌い。」

エイヤは服の袖で鼻を隠す。私も、この匂いはあまり慣れない。珍しく彼女に同情した。


「…現在、ファンクラブ会員が街で暴れているという情報を耳にしている。奴らを鎮圧して、身体調査といこう。」

シリウスは私たちには目をくれず歩いていく。

昔からそうだ。我が道を行く。いや、我が道しか行かない女だ。知らず知らずのうちにどこかに行って、ふらっと帰ってくる。

今回ばかりはそうもいかない。私たちもついて行く。


────────────────────────────────


「クッ…ファンクラブの連中、本気で此処を獲りに来たかッ!」


「もしかして…昨日のバレちゃった?」


「……考えないようにしよう。」


海辺の穏やかな町は、今や燃え盛る炎の巣窟と化している。

刺激中毒者たちは、脳に与える快楽のために、己すら焼き尽くす気か。


「倒しても倒してもキリがないよっ。」

シャムルが目にも止まらぬ瞬足で、会員の集団をねじ伏せる。しかし、倒しても倒しても立ち上がり、湯水のように湧き上がる。

熱気が辺りに押し寄せ、前髪が額に張り付くのがわかる。


「スティーブ、一旦仕方ない、埋めるぞ。」

ヘンリーの声と共に、スティーブがドリルを展開。地面に突き立て掘削。あたりの地盤が緩くなり、ガタガタと揺れ始める。

軟化した大地に、龍嶺が突撃し、地盤ごと会員たちを地面の奥底に叩き起こした。


「二度と帰ってこないでよ!」

シャムルはポケットから手を出し、穴の奥へバッドサインをした。


「そうしてる場合でもなさそうだぞ。」

大穴を無視し、雪崩れ込むように無数のファンクラブ会員が現れる。数百、いや数千かそこらの軍勢が押し寄せる。


突然、後ろから足音が近づいてきた。

多分、ヒールの音だ。


「キミたち、此処はワタシに任せろ。」

炎の光が、女性の黒髪を照らす。彼女は僕たちの前に立った。


「君は?悪いことは言わない。早く逃げ…」


彼女は、僕の唇に人差し指を当て、言葉を止めた。

「任せろといっただろう。ファンクラブ会員程度に負けるなら、ワタシはとっくに墓の中さ。」

いつのまにか、彼女は双剣を手に持ち、軽く回し始める。


左手の剣を、地面に軽くトン、と打ちつける。

すると、剣先から、『水』が流れ出した。

いや、水じゃなくて『激流』と表現するのが正しいだろう。

彼女が剣を掲げると、その激流が巨大な球状に膨れ上がる。この街を、全て濯ぎ尽くせるほどの水量だ。


「さ、呑め。」


剣を振るう。激流は大穴を満たし、津波となってファンクラブ会員たちを攫って行った。


「ざっと、こんなところか。」

さっきの熱さから一変、ずぶ濡れになった僕たちに、女性は顔を向ける。


「ワタシはシリウス。天翔け屋の従業員で、キミたちの盟友だ。」

シリウスさんは、僕たちに向かって笑顔で軽く手を振る。


「さっきはありがとう。礼を言わせてくれ。」


「なぁに。そんなに畏まる必要はない。ただの友達だって思って接してくれて構わない。」


後ろを見ると、アンサーとエイヤ、ヴラドと、少し懐かしいメンツが立っていた。

アンサーが「貴方たち、ファンクラブの会員たちのサンプルを所持してはいませんか?私たちも、ファンクラブを調査しているのですが。」と言う。

丁度いい。

「これ、今日の夜、ファンクラブ会員をとっ捕まえて手に入れたんだけど。」

僕はポケットから注射器を取り出し、アンサーに見せる。


「EXCITING-444。……嫌な名前ですね。取り敢えず、これを持ち帰って解析します。」

アンサーは注射器を受け取ると、ヴラドに目で合図をし、帰って行った。


「ねぇ、アタシ置いてかれたんだけど。」


「…それは、どんまい。」


「はぁ。もういいや、覇導観に泊まろ。」

エイヤはスマホのマップアプリで覇導観の場所を調べながら、どこかへ歩いて行った。


「…では、ワタシも失礼するとしよう。

覇導観の宗主に伝えておいてくれ。『ファンクラブは想像以上に危険だ』とな。何かあったら連絡してくれ。できる限り、協力しよう。」


そう言って、シリウスさんはファンクラブ会員の群れがいた方に歩き去って行った。


────────────────────────────────

狭い納屋は、溶けた金属の熱で肺まで焼かれそうだった。

それでも私は手を止めない。止めた瞬間、間に合わなくなる。

「プロだから」なんて便利な言葉で、自分を納得させながらね。

彼女は近々、何かを起こす。そのために私は間に合わせるしかない。

無心で素材を能力で加工し、武器を造る為の種を作り出す。

朧さんの要望は、『細く』『しなやか』それでいて『折れず』に『極軽量』の『扇』。

打って変わって顎さんの要望は『力強く』『重い』、そして『繊細』で『軽やか』な『籠手』

どれも、並の匠なら見ただけで投げるような条件。つまり、最高に実現しがいのある条件ってこと!

素材はなんと贅沢にタングステン。この為だけに、2人が買い込んでくれたらしい。なら、失敗は許されない。

扇に仕込む刃一枚一枚を丁寧に、トランプ一枚よりも薄く、トラックが上に乗っても折れないように加工するのは、私でも不可能に近い。

『自在加工』の能力がなければ、こんなことは到底無理だろうね。いや、能力があっても難しい。たった刃を10cm作るだけで一つ夜が消える。それでも、一切手を止めちゃいけない。

そして、一番難しいのが彼女がこだわったポイント。刃を軽く押せば、逆方向の刃が下から迫り上がるギミック。

素人は振るうだけで刃こぼれさせてしまうそれを、達人の彼女が振るえば、一振りで相手は裂傷で大出血。

実現させるのは、極薄と最強の切れ味。

そのために、砥石で金属を削り続ける。ミリ以下の単位で。

けれど、私はもう疲労が限界。

刃を作るだけで、指先が削れて行く。

金属を削るなら、私の肺がどんどん重くなる。もう、まともに呼吸できているのかすらわからない。

外の爆音が遠くで鳴り、溶けた金属が弾けた音がやってくる。

一つわかるのが、1秒でも私が止まれば、これは完成しない。

金属はそう単純じゃない。こいつらだって、自身の形を保つために抵抗し続ける。それを無理やり断ち切る。火花が大量に飛び散り、私の手にかかる。手袋越しでも、焼き尽くされる。

手袋を取れば、指が火傷と酷使で爛れ、腫れ上がる。

炎に融けてもいい。指が潰れてもいい。

それでも今ここで止まれば、あの人(育て親)たちの期待はただの幻想で終わる。


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