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イマジナリー・ライク・ア・ジャスティス  作者: もちもちアゲイン
第二章 武芸百般、勇往邁進、覇導専心
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第二十五話 蠢く地に這うものどもよ


「……申し訳ありません、ヴラドたち、席を外してもらえませんか。」


「…あ、あぁ。」

彼らはリビングへと歩き去った。

玄関には、私とシリウスだけが残った。


「……タバコは控えろと言ったはずですよ。吸いすぎは体に毒です。」

タバコの煙の臭いは、どうも好きになれない。


「…ふっ、キミだって、カフェインを摂りすぎないようにな。」

彼女は揶揄うようにニヤニヤとこちらに笑いかける。


「なぁ、なんでキミは『アンタレス』の名を捨てた?」


「……過去は忘れたい主義なので。」

少し空いたドアから、隙間風が入り込む。肌を指す様な寒い風だが、私の冷めた心には届かなかった。


「…なら、せめてワタシと二人きりの時くらい、アンタレスとして接してくれないか?ワタシはまだキミが好きなのだが。」


「……お断りします。私はアンサーです。貴方は好きでも、私はもう冷めました。」

彼女の目はどこか寂しげで、私も、心のどこかに突っかかる物があった。


「…今日は帰るとしよう、夜遅くに失礼したな。

明日、またここに来る。」

彼女は振り返り、ドアに手をかける。


「おやすみ。ダーリン。」

……31にもなってこんな言葉遣い、あの女は恥ずかしくないのだろうか。

────────────────────────────────

大轟さんの拳を右回りで躱し、一閃。教えられた通りにできる様になってきた。

一瞬、ニヤッと笑った彼は左手で木刀を掴み、僕ごと投げ飛ばす。

投げられて大体0.2秒の時に受け身を取れば、追撃タイミングが掴みにくい。直後なら予測され、受け身しなければ壁に叩きつけられる。

「ソルは飲み込みが早いな。流石だ。」

彼は2回手を叩き終わると、右手につけられた腕時計を見る。


「もう12時か。昼休憩だ、なにか昼食を摂りに行くといい。俺は昼寝でもしよう。」

大轟さんは大きなあくびをして、板床に寝転がった。

僕は壁に木刀を立てかけ、道場の外に出る。

七星さんに教えてもらったけど、ここの近くにいい感じの中華料理屋があるらしい。行ってみようか。

丁度、昼食を食べに行こうとしてた皇楓とエリを連れて、そこに向かうことにした。


門の外に出ると、大きな海と港が目に入る。この雰囲気が、僕は好きだ。

波、晴天、雲、海鳥。景色を味わいながら、店を探す。歩いて5分ほどすると、いい匂いが漂い始める。

交差点を曲がった所に、看板が見えた。

赤と黄色の、いかにも中華ですよ感を醸し出している。

少し古びた戸を開ける。

店の中は、気の毒なほど空いていて、店内に置かれたテレビの音でいっぱいだった。

とりあえず、僕らは窓辺の三席に座り、メニュー表を目にする。

一番に目についた麻婆豆腐と炒飯を頼むとしよう。


「俺は…久しぶり、上海蟹でも食べよう。」


「そうね…あたしはこの北京ダックにしようかしら。」

エリがメニューを指差し、こちらをチラ見する。呼べ、ということらしい。


「大将!」と声をかけると、厨房の奥から50そこらのおじさんが出てきた。


「兄ちゃん達、見ない顔だな。この店に来るっつうことは、相当な通だな?」


「七星さんの紹介があってな。ここはこの町で一番美味いって。」


大将はぎょっと驚き、「朧の嬢さんの知り合いか!なら、今度あの人に会った時伝えておいてくれ。『ファンクラブ会員共から救ってくれた礼で、一品無料にしておく』ってな。」


その言葉を聞いた皇楓が眉を顰める。


「大将、今ファンクラブと言ったか?もしかして、ホットネスト・ファンクラブの事か?」


「ああ。最近、この町にあいつらが多く来る様になってな。やれ窃盗やらならまだ許せる。でも、あいつらに会った奴らが、次の日にはみーんな別人みてぇになっちまってるんだ。俺らみてぇな市民には、なーんもできねぇ。この店も、狙われねぇ様にしばらく閉めてたんだ。」

大将は腕を組み、目を瞑る。


「そんな俺たちの希望が、覇導観の宗主たちだ。朧の嬢さんと大轟の兄さんらが、暴れ回る会員をぶちのめしてくれてるって訳だ。」


「あん人らには頭が上がんねぇよ。おっと、話が長くなっちまったな。注文は決まったかい?」


「麻婆豆腐と炒飯、上海蟹と北京ダックを頼む。」


大将は腕を回しながら「あいよ!」と一言。

「ちと待っててくれ。熱々を作ってきてやる!」

そそくさと厨房へ戻って行った。


数秒黙り込んだ後、最初に口を開いたのは皇楓だった。

「…ファンクラブが一枚噛んでいるとなると厄介だぞ。」


「……えぇ、刺激を求める会員たちからしたら、覇導観はこれ以上ない獲物よ。」

ホットネスト・ファンクラブ。

熱い『刺激』を求めるためなら、なんだってする刺激中毒者の集まりだ。吹き出物連合の方が10倍はマシだと思っている。『達人との立ち合い』ほど、奴らが愛してやまない熱狂と刺激を生むにはもってこいのものはない。

しかし、ファンクラブは勢力の大きさだけで言えば、メカ社とも大差ないが、個の力は弱い。僕でも、調子次第では一人で全滅くらいさせられる。


「待ってくれ。ファンクラブ会員に、それほど強い力を持つ者はいないはずだ。普通に七星さんや大轟さんを狙った所で、ものの10秒で壊滅させられてしまうよ。奴らもバカではない。その程度、理解しているはずだ。」


「…俺も同感だ。奴らには、宗主たちに対抗できる手段があるというのか?」


「さっき、大将が言ってた『別人みたいになる』、これが怪しい気がするわ。」


「それって、奴らが市民になにか細工をしているということかい?」


エリはこくりと頷く。

洗脳、改造、色々やりようはある。でも、どれも強力な能力者にしかできないことだ。僕の知っている限り、ファンクラブ会員にそんな力を持つ奴は存在しない。


「今夜、ファンクラブ会員を生け捕りにして調べてみるか?」

皇楓はやはり鋭い。洗脳や改造とか、何かしらの能力の影響が出ているなら、それは反応として必ず残る。


────────────────────────────────

コンコンコン。

覇導観本館の執務室。宗主二人以外、ほとんど出入りがない。

私はここに呼ばれた。七星朧直々に。


「入って。」


ノブに手をかけ、扉を開ける。

大きな革製の椅子に彼女は腰掛け、足を組んでこちらを見つめてきていた。

私はそっとドアを閉め、彼女の目をまっすぐと見た。


「ひ、久しぶり…朧さ──」

ぎゅぅうっと、とても強い力で抱きしめられた。


「レヴェル…!元気だった?風邪とか引いてない?悩んでたりとかしてない?」

結構苦しくて、声が出せない。どうにか離れてもらって、私は席についた。


「朧さんも、元気そうでよかったよ。」

彼女はとてもニコニコと、こちらを眺めていた。


「勿論。門下生を導く立場として、毎日元気100%じゃないといけないからね。」

彼女は、変わってない。

12歳でここを出た時から、ひとつも。どこも。


「レヴェル、背、伸びたね。今どのくらい?」


「確か…154cm、だったはず。」


「3年前は、確か140cmなかったよね。大きくなったなぁ。あんなにちっちゃくて可愛かったのに。」

見た目はクールで凛々しいけど、朧さんはとっても面白くて、暖かくて、優しくて、かっこいい。


「それで、今日私を呼んだのって…」

朧さんはコホンと咳払いをして、話し始める。


「それは、『工房』の件についてだよ。君の刀工としての力を買って、私から頼みたいことがあるんだ。」

一拍置いて、彼女は口を開いた。


「私と顎に、専用武器を作って欲しい。

今からは、師匠じゃなくて工房への客として接して。」

ちょっと驚いた。

彼女から、工房への話があるなんて。

私の能力を使って、依頼人の好み、趣味、力量に合わせた至高の逸品を作る、私の『工房』。

しばらくは新居とか、ハレミチとか色々あってあんまり仕事ができてなかったけど、今年初めての依頼は、どうやら彼女かららしい。


「お金ならいくらでも出すよ。君が作れる最上の業物を、作って欲しいんだ。」

朧さんはさっきまでとは違い、とても真面目な声色になる。


「もう、どういうものが欲しいのかは、顎と決めてある。これの通りに頼むね。」

彼女は紙を手渡す。

鉛筆でびっしりと、設計図と説明が書かれている。

無数の消しゴムで消したであろう跡があり、シワシワになった紙を受け取る。


「作業場は、昔使ってた場所を使えるかな。一応、綺麗に掃除はしてあるよ。」

花壇の近くの古い納屋。金属の臭いや、溶接の熱さを、今でも覚えている。その中で、昔の私はずっとモノいじりをしていた。思い出すと、どこか懐かしくなる。


「うん、分かった。大体、1週間もあればどっちも完成すると思うよ。」


彼女は一瞬何か言おうとした様に見えたけど、黙って頷いた。

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