第十八話 俺がしてきたことを
書き溜め使い切ったので多分頻度下がります
毒の痛みは、もう感じない。
首に力を込める。
金色の光が、傷口を大地の如く包み込む。
血の感覚は、もうない。
心臓も、再び動き始めた。
「俺はやり直す。最初から。」
手に持つ槍へ、龍がたなびく。
龍が、槍に一噛み。
その姿は、三叉に分かれていた。全てを守る盾、龍嶺の力は、俺と共にある。
今、「天下無双の三叉槍」と成ろう。
暗い路地を、黄金の光が満たす。
隠れる影を失った、暗く大きなムカデは、光に苦しむ。
奴は、常に光を敵視する。闇にしか、居られない。光に、当たれない。
のたうち回り、金切り声を上げるその頭部を、一突き。
グチャリと、肉を断つ感覚を感じる。
槍を引き抜くと、黒い重油のような汁が、槍先から零れ落ちる。
路地に張り巡らされたムカデの体は、崩れるように地面に落ちていった。
あぁ。
終わって…ない。
合流、しなければ。
端末を開き、位置情報を確認する。
どうやら、この周囲に、キッド達がいるようだ。
そこへ向かおう。
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「貴方…気は確かですか…?」
アンサーが、明らかに怒気を孕む。
「───勿論。俺はふざけも、皮肉を言っている気もない。」
ヴラドも、いつもと違い、低く言う。
「皇楓を置いていく…?冗談じゃない。」
「学者卿、君の考えの方が冗談だろう。
まず、君が死んだら全てパーになる。君はほとんど戦えないんだ。
それに、俺が死んだとしても、支援も、移動も、全部朽ちる。
…俺だって、荒龍卿を見捨てたくはない。
だが、今は優先順位が違う。君なら分かるだろう。」
沈黙は、無限に感じられる。
「………………クソ喰らえ、ですよ。」
「それを言うのなら、ハレミチに言うのだな。」
「ともかく、皆に合流したら助けに向かうぞ。それまで、耐えてくれる事を祈るしかない。」
「──こればかりは、私も神頼みですよ。」
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アンサーから、通信が入る。
「──皇楓が、単独でシャドウ・リヴァイアサンと交戦中。ソル、エリ、ヘヴン、ベンジャミン、エイヤの5人を除く皆が集まり次第救助に向かいます。」
…最悪だ。
あのムカデは、狙った獲物を執拗に付け回す。
皇楓は確かに強い。でも、タイマンなら、ムカデには勝てない。
このタイミングで…
ほんと、あたしたちは運に恵まれない。
「─────アンサー、さっさとしろ。
俺は、あいつを死んでも助ける。」
キッドが、珍しくドスの聞いた声を出す。仮面の下で、途方もない殺意噛み締めている。そう、直感した。
スティーブが地面を殴り、咆哮。そうとうキレてる時の合図だ。
「落ち着け。私たちには、皇楓を信じることしかできない。」
ヘンリーが、冷静さを保って言う。
レヴェルは無言で、剣を地面に突き刺す。
目には、確かに涙を浮かべていた。
あたしは、そんなレヴェルの背中をポンと叩く。
「だ…大丈夫、だよ。皇楓…は、強い奴…だから。」
彼女の顔が、急に変わる。
「シャムは無理しないで!いいから、休んでて。」
フォローをしたつもりが、こっちがフォローを入れられてしまった。
ちぇ。
瞬間、すごい嫌な気配を背に感じた。また、鎌を喉に押し付けられたみたいな感覚がする。
…来た。本能がそう言った。
「…来たな。俺が、俺が絶ッ対にぶち殺してやる。」
キッドが、銃に弾を込める。
「ガンマン卿、落ち着け。」
いつのまにか、ヴラドとアンサーが現れていた。
「…ソルが早く来ない限り、勝率は1%以下です。
…遺書を書いておくべきでしたね。」
アンサーが片眼に手を当てる。
「────おい、俺今思いついたんだけどよ、ワンチャン賭けられねぇか。」
キッドが、一切視線をずらさずに言う。
「──提案なら、早めに言って欲しかったですよ。」
「多分、ハレミチの野郎は俺たち…っつうよりシャムルをつけてるんだろ。なら、合流ポイントまで行けば、向こうから来てくれるんじゃねぇか。」
確かに、言いたいことはわかる。
「…試す価値はありそうです。
素直に、奴がついてきてくれるという条件付きですが。
──実行できそうですか。」
アンサーが、こちらを見る。
「…無理、だよ。…さっき全力、使っちゃったから。」
「俺も無理だ。一気に大人数でテレポートは出来ない。1人ずつしたとて、間に合わない。」
途端、スティーブが唸り声を上げる。
手をドリルに変え、地面を叩く。
「地下から無理矢理…やれないか。6人なら、スティーブで運べる。」
妙案だ。スティーブの地下の移動速度は相当。
今からでも、十分間に合いそうだ。
「…頼みますよ。スティーブ。」
皆がスティーブの機体にしがみ付き、スティーブは地面にドリルを突き刺した。
機体は想像よりつるつるで、滑りそうになる。
移動中、これで落ちたら…考えないようにしよう。
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「──遅。予定の時間を1時間近くオーバーしてるよ。」
あの子たちの作戦は上手くいっていないらしい。
でも、アタシは助けには行かないかな。
ここで待つのが唯一の役割だし。
「エイヤ殿、私たちは信じて待つ事しかできない。
彼らは手こずっているだろうが、きっと、上手くやってくれるはずさ。」
ベンジャミンは、アタシとは正反対の、呑気な事を言う。
彼はいい奴だけど、こんな甘さには欠伸が出る。
そんな事を思っていたら、地面が砕かれる音が聞こえる。
目の前のコンクリートが、赤い拳に貫かれ、そこから、機械のボディが姿を現す。
スティーブの背から、6人くらいが一気にどっと降りる。
全員土で軽く汚れているが、無傷に見える。
「アンタたち、まさか、とんずらして来たわけじゃあないよね?」
「まさか。ハレミチの誘導にはおそらく成功です。
あとは、リベリオスの到着を待つのみ、でしょう。」
アンサーが、土で汚れた白衣を脱ぎ捨てる。ほっそ。Mサイズかそこらのワイシャツなのにダボダボ、内臓入ってるのかすらわかんない。
スティーブのドリルの回る音が、辺りに鳴り響く。
が、アタシは気づいた。スティーブを黙らせ、耳を覚ます。
───誰かが、こっちに歩いて来てる。
なんか、よく分からないけど、多分とんでもない力を持っている。そう感じる。
これが、ハレミチだ。きっと。
「──はぁ。年始の初仕事がこんなデカいのになるとはね。」
アタシはさっと立ち上がり。立てかけていた傘を手に持つ。指をパチっと鳴らし、クラゲちゃんの触手を2本召喚する。
先手必勝、その言葉通り、ビルごと、触手で貫く。
確かな感触を感じる。命中した。
でも、弾かれた。
足音は、少しづつ、こちらに近づく。
「───やば。」そう、自然と言葉に出てしまう。
二発目を打つか、相手の出方を見るか。出すカード次第では、絶対的な死が待っている。
そう思うと、手が止まる。心臓が、珍しく、早く動く。
即決、できない。
足音が近くなる、瞬間、路地が黄金の気で満ちた。比喩でもなんでもなく、輝いている。
無神論者のアタシでも、「神」の一字が脳裏によぎる。
相当の威圧感。
龍に、睨まれてる様だ。
…龍?
「安心しろ、俺は味方だ。」
どこか懐かしくて優しい、それでいて、アタシが大嫌いな声が聞こえた。
よく見た黒髪、プラチナみたいに輝く瞳。黄金の…角?
顔立ちは、憎たらしい『皇楓』そのものだ。
でも、あいつには角も、尻尾も生えていない。
それに、槍の形状も違うし、こんな神々しい気なんて持っていない。
アイツはアタシにキャリーされまくってた。
アタシより3歳かそこら若いのに。
アイツはアタシより絶対に弱かった。体も、心も。
なのに。
…アタシより先に、『覚醒』、しやがった。
─────チッ。
「──生きてたんだ。死ねって思ってたよ。」
なんでこいつが。
「──俺は、あの程度で死ぬ訳には行かないからな。
……お前に、助けられた。ありがとう、エイヤ。」
殺したくなるくらい、穏やかで優しい笑顔を浮かべる。
なんでこいつが。
『あの子』を、否定したのに。
クソガキが。
「アタシが助けた?なに抜かしてんの。きっしょ。」
口ではいつものペースで暴言を吐く。でも、心には余裕がない。
アタシがこいつに抜かされた?
クソガキ程度に?
信じない。こんなんじゃ、『あの子』に顔向けできない。
アタシを残して逝った、唯一の家族に。
久しぶりに、焦った。
「皇楓ッ!信じてたぜ兄弟!」
キッドがダッシュで近寄り、クソガキに抱きつく。
「やはり、貴方はその程度では死にはしない。でしたね。」
アンサーが、ニヤリと笑う。
「へっ、…死んだら墓にビンタしてやろうと思ってたのに。」
シャムルが、泣きそうな目を擦った。
「皇楓のバカ!危ないことしないでよ!」
レヴェルが、号泣しながら、クソガキの頭をポカポカと叩く。
「───荒龍卿、よく間に合ってくれた。」
ヴラドの声には余裕はなく、笑顔もなかった。
そんな、10秒が、まさに永劫の長夜のように感じられた。
さっきまで穏やかな顔をしていたクソガキが、一瞬で強張る。
「気をつけろ。強者がやって来る。」
三叉槍を地面にとん、と当てると、黄金の巨龍が、五体、宙に現れる。
今までクソガキが召喚してた龍は、精々体高2m、長さは15mあるかって程度だったが、この巨龍は、ほぼ高層ビルと同じ大きさだ。
「──今度の気配は…本物だよ。ハレミチ、来ちゃった。」
シャムルが、地面を軽く蹴る。
…しょうがない。
死にたくないから、真面目に戦おう。
「────エイヤ。」
クソガキが、アタシの名を呼んだ。
「背中は、任せるぞ。」
そう言って、拳を突き出した。
──────はぁ。
「アタシに刺されてもいいなら、預けな。」
アタシは、その拳にビンタをした。




