表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イマジナリー・ライク・ア・ジャスティス  作者: もちもちアゲイン
第一章 「デイ・アフター・デイ」
17/22

第十七話 土曜日は己と御対面

走馬灯…だろうか。

命の危機に瀕した時、人は生きる手段を探して自身の過去を探る。


ここは。

俺は、何故か、どこか懐かしい農村に立っていた。故郷…だ。

自分の意識外で、足が動く。

追体験…か?

砂利道を歩き、俺は大きな村の門までついた。

門を押すと、そこには、地獄が待っていた。異化した人々、だ。

互いを貪り合い、混ざり合い、肥大化していた。

肉を食む音、骨を折る音、赤子の泣き声。人の叫び声。建物が崩れる音、全部、平等に鳴り響いていた。

…吐き気を感じる。

共に、煮えたぎる殺意で、歯を噛み砕きそうになった。

俺は槍を手に持ち、目の前の怪物たちを薙ぎ払った。今よりも、ずっと無駄が多く、拙い動きだ。

だが、1匹の肥大化した怪物は、手に女性を持っていた。


「こう…ふ…やっ…と…」

彼女は、今にも燃え尽きそうな声で、俺の名前を呼んだ。


怪物は、雄叫びをあげ、それを握りつぶした。

視界が、真っ赤になった。

なぜか、涙が出てしまう。

涙で、敵も、人も、何も見えない。

心が打ちのめされたような悲しさが、ずっと、俺を蝕み続けてきた。


そして、視界が真っ暗になった。


次に色を見た時は、小さな家の中だった。

祭壇に、一人の女性の写真が祀られていた。祭壇の前にいた男が、目の前までやってきた。男は、俺を力一杯殴った。男は俺に掴み掛かり、怒鳴り散らす。泣きながら、俺を何度も、何度も殴った。


「お前のせいだ。お前があの子を殺した。

お前が死ねば良かったんだ。この人殺し。

お前は英雄じゃない。お前は罪人だ。」


──────俺は、自身の仲間を殺してしまったんだ。

俺が、判断を誤ったから。遅かったんだ。

だから、彼女は死んだ。俺が来ることを信じて信じて信じ続けて、待ち続けた女性は、俺の目の前で死んだ。

事実を思い出した時、俺はただ死ぬことを望んだ。

早く、毒が回ってくれ。

俺を、罪と共に地獄に落としてくれ。

だが、俺は歯を食いしばることしかできなかった。


───全部、遡った。

俺は、騎士だったんだ。

生きとし生ける者の全てを守らなければならなかった。しかし、隣に立つ戦友を守れなかった。戦友1人守れずに、何が騎士だ。

恥を知れ。

槍は、とっくに折れていた。

再び目を開ければ、俺はさらなる罪を背負った。

街は燃え、俺の背にいる人々は、皆死に絶えた。叫び声すら底を尽きた。あるのは、炎と皆の死体だけだった。俺は、燃え尽きた灰燼の中、たった1人、膝をついた。守るはずだった背には穴が空いたが、守るための盾は、ただそこにあり続けた。

人も、者も、尊厳も。

そこにはなかった。

俺は、自身の手を見つめた。血濡れたその手は、べっとりと、「生き残りの龍」の罪が、塗られていた。その手を、地に打ちつける。

そして、叫ぶ。しかし、叫びにならない声は、どこまでも空虚に響き渡り、暗黒の空へと消えていった。俺は、そこから死ぬために生きた。早く死んで、償わなくてはならない。


─────パチン。

頬を打たれた。

顔を戻せば、赤い三白眼をした少女が、執念のこもった瞳で、俺を見る。


「───アンタは守れなかった。そうでしょ?

生かせなかったみんなに詫びるために、さっさと死にたいんだ。」


彼女とは、この時が初対面だった。

異能都市にやってきて三ヶ月、都市中央区で働いていた頃、ある都市災害が発生した。俺は、どうにか足掻いたものの、ボロボロの雑巾の様に打ち捨てられた。

そして、ソルとエリに命を救われたんだ。

二人に誘われ、俺は仲間になることを決心した。命の恩人の提案を、無下にすることはできない。

事務所、もとい家に案内された時、リビングに彼女がいた。俺は、彼女と話をしたことすらなかった。だが、彼女は俺のことを事細かに知っていた。


「──ならさっさと死ねば。

アタシなら、生きて生きて這いつくばって、泥を啜ってでも死ぬまで全力で生きて、罪滅ぼしにするけどね。」


少女は、手に持つ傘で俺の頭を小突く。


「その時、誰か1人でも守れてたなら、アンタは今頃死んでただろうね。そっちの方が良かった?

でも、感謝しなきゃ。

生きてる分、返さなきゃ。

違う?アタシなんか間違ったこと言ってる?」


その時は、言葉の意味が全くわからなかった。どころか、小さな苛立ちさえ覚えた。けれど、今なら、少しわかる気がする。

あの時、俺は守られていた。

俺が立ち向かおうとした時、何人もの人が俺を止めた。

「貴方はダメだ。」「死んでしまうぞ」と。

だが、俺は「英雄」に成ろうとした。

そんな俺と共に、何十人もが戦ってくれた。

その時は、彼らは自身の大切なものを守ろうとしているのだと思っていた。

今気づいた、彼らは、俺を守ろうとしてくれていたんだ。

だから、俺は今生きているんだ。


生きて生きて、死んでも生きてやる。

守ってくれた皆に、悔いのない様に。

信じてくれた皆に、恥じない様に。

俺は、過去、「折れた槍」を手放す。


そして、俺はゆっくりと立ち上がった。

黒い影を、黄金に燃える瞳で見つめながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ