第十五話 木曜日は全てが順調
あたしは、「カートゥーンの怪物」。昔のアニメのギャグシーンみたいなダッシュなら、真似できる。
逃げ切れる。
その一心で足を進めた先は、みんなの元だった。
勢い任せに走ったから、止まれずにぶっ倒れる。
「シャム!大丈夫!?」
レヴェルが、あたしに駆け寄る。彼女の目には、うっすら涙が見えた。
腕の中の少年を見て、3人はぎょっとする。
「お前!あんときの坊主!」
「仮面の…お兄ちゃん…?」
少年は、掠れた声しか出せない。
「シャムル、この子は?」
ヘンリーが、すっごい優しい声で聞く。パパもこんな感じだったっけ、と思ったけど、あたしにはその頃の鮮明な記憶はほとんど残ってなかった。
「……へへっ。助けた。ハレミチから。」
さっきの声とは比べ物にもならない、小さな声しか出ない。喉が焼き切れたからか、恐怖のせいか、どっちかわからない。
瞬間、みんなの空気が凍った。
キッドはぶっ倒れ、スティーブは拳を握りしめ、レヴェルは剣を持つ手の力が強くなる。
瞬間、アンサーから通信がやってくる。
「──無理は禁物、と言ったでしょうが。
とにかく、貴方に被害がなくて良かったです。」
どこか焦った声色のアンサーは初めてかもしれない。
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アンサーが、僕に電話をかけてきた。
「申し訳ありません。予想外な展開になってしまいました。
ハレミチは六十二番街ではなく、六十八番街に出現しました。
そちらへの支援へ向かってください。」
「悪いけど、行けそうにないよ。
…もう僕たちも、リベリオスに出会った。」
朝のニュースの今週の占いで、『万事好調』だと見た。
でも、全てが、順調には行かないな。
「やぁやぁ。キミたちのことは噂に聞かせてもらってるよ。
うちのバカウナギとポンコツイモムシをぶっ壊したんだってね。」
スーツ姿の男は、飄々とした態度で、手を広げて見せる。
堂々としているが、一切の隙はない。すぐに反撃できる姿勢だ。
挑発のつもり…だろうな。
「さ、ツケの返し方は一択。当ててみて?」
こいつが言いたいことはわかってる。
「命、そうでしょう?」
エリが先に口を開いた。いつもの様な可憐な声とは違い、少し低く、わずかな緊張と、明確な殺気に満ちていた。
男は拍手をし、高笑いをする。
「ハハハハッ!大正解!
っと、前戯はこんな物で十分かい?」
男は、地面に置いていたアタッシュケースをひょいと掴む。
今回の戦いは移動しながら。目標は、イーストパッセージ区まで。多分、相当きついだろう。
「さぁ。」
男は、咥えたタバコをぺっと吐き捨てる。
僕は、背負う剣に手を掛ける。
エリは光り輝く弓を手にし、すっと軽く腰を捻る。
「始めよう。」
「始めようか。」
「始めましょう。」
3つの声が、低く重なり合う。
アタッシュケースが金属音を立てながら展開し、無数の装甲板が男の体を包み込んでいく。
直後、ピンク色のレーザーが、男の体を飲み込んだ。
「先手必勝、でしょ?」
煙が晴れた頃、そこには、何も立っていなかった。
「変身中に攻撃するなんて、礼儀がなってないなぁ。」
声と共に、背後から蒼白い閃光が閃く。
ドゴォォーーン!
轟音と共に、僕らが立っていた地面を豆腐の様に砕いた。
ビルの5階くらいまで、大きく吹き飛ばされる。
僕は、咄嗟にビルの壁に剣を突き刺し、そこに捕まる。
…相当な威力だな。直撃はまず即死だろう。
「シャル・ウィー・ダンス?」
そこには、二足歩行、細身な体格、後脚の大きな鉤爪。
恐竜の様なメカが立っていた。
この見た目は…確か『デイノニクス』だ。
しかし、すぐに一体だけではないことに気がついた。
ビルの上、中、周囲の建物の影。
小さな個体が、今か今かとこちらを覗く。
──────囲まれていたか。
「リベリオスの由来は知っているかい?
復讐者、さ。」
後脚の恐ろしい鉤爪が、ギラリと輝く。
「─────1にステップ。」
声と共に、窓を突き破って、三体の小型メカが、こちらに飛び掛かる。
間に合わない。
僕はビルの壁を強く蹴り、鞘に仕舞われた剣を鞘ごと壁から引き抜くと共に、一閃。
白色の斬撃が飛翔。
ビルと共に、1体を両断した。しかし、2体は逃した。
そして、地面に背を向け落下。
それを追う様に、残りも飛び降りる。
人間とメカなら、絶対にメカの方が重い。
2体の鉤爪が、喉仏まで迫る。
ピンク色の矢が、2本。
メカの頭部を撃ち抜いた。
僕はくるっと回転し、地面に着地。上を見上げる。
光を纏い、空を飛ぶエリが、こちらにウインク。僕は、小さく瞬きを返した。
瞬間、背にもの凄い衝撃を喰らった。
鋼鉄の蹴りが、背に突き刺さる。
息が止まる。
声が出せない。
コンクリートの壁が、大きく凹む。
「───おいおい、ダンスバトル中に油断はしないでくれ。」
声が、真後ろから聞こえる。




