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イマジナリー・ライク・ア・ジャスティス  作者: もちもちアゲイン
第一章 「デイ・アフター・デイ」
14/21

第十四話 水曜日、なにもない腕を広げ

自然と、目が覚めた。

緊張か、恐怖か、やる気か、色々入り混じったものが湧き出てきた。

スマホを見ると、翌日の午前11時30分。

ほぼ丸一日、寝ていたらしい。

普段なら空腹になる時間帯だが、今日ばかりは空腹を感じない。

ふっとあくびをした後、僕たちの象徴である、篝火の刻印が記された上着を着る。

旗揚げの後、オーダーメイドで作った物。

これを着ていれば、焚き火は燃え続ける。

僕は剣を手に、一階へ降りる。


リビングには、みんなが集まっていた。

いつもはジャージやスウェットを着ているエイヤやシャムルも、今回はちゃんとした任務の時の服装だ。


「皆、集まったな。

アンサー、ハレミチとリベリオスの同行は?」

皇楓が、低く呟く。いつも真面目な彼だが、今日はいつにも増して真剣だ。彼の白金色の瞳は、強く先を見つめる。

パソコンをいじりながら、アンサーは言う。言葉はずっしりと重みを持っている。

「六十八番街にリベリオス出現。

六十二番街にハレミチの仕業と思われる死体が腐食が出現。

データは10分置きに送信します。」


「向かいましょう。

それぞれの持ち場へ、無理は禁物ですよ。」


──────────────────────────────

六十八番街、市街地。

スーツ姿の男が、電話越しに口論をしている。

「何度も言っただろうが。奴らを仕留めるのは俺の仕事だ。」


「悪いね、レックレス。キミは仕事が遅すぎた。上から、ボクの方で始末しろって言われてるんだ。さっさと昼食でも取ってきたらどうだい?スープバーの時間を過ぎてしまうよ。」


「テメェ、何様だと───。」

ツーツー。

男は電話を切り、吸い切ったタバコを吐き出し、ため息を一つ。


「まったく、脳筋バカの相手は疲れるよ。」


再び、電話が鳴る。


「もしもしトラキュレンス、キミの方からもレックレスに黙れって───なに?六十五番街の方から侵入しろ?

もう後少しで定位置まで着くのにか?

───作戦変更って…もうちょっと早めに伝えて欲しいよ。」


男はコツコツと足音を鳴らし、歩き去っていった。

彼が無視して通った路地裏の奥の腐敗には目もくれず。


昼食のスープバーの時間が終わる頃、英雄たちはやってきた。

アンサーから提示された情報を頼りに、その姿を探す。

店の中、路地裏、立体駐車場、高速道路の入り口。

データが示した場所には、黒いスーツの男はどこにもいなかった。


「どうなってやがる。なーんもいねぇぞ。」

キッドははぁ?と言う様な様子で、銃をくるりと回す。


「リベリオスはもう移動したのか?」

ヘンリーの声は、いつもよりもノイズが多いようだ。


「あれ?シャムは?」

レヴェルが、くるくると辺りを見渡す。

こんな時に、猫が1匹迷子のようだ。


────────────────────────────

暗い暗い路地裏の中、あたしは立つ。

真っ暗で、なんにもいないはずなのに、どこか、気になった。

こんなとこにあのリベリオスとかいうやつがいるはずないのに。

足を進めようとしても、自然と歩みが止まる。

───なんか、こわい。


どこかから、足音が聞こえる。

一気に髪の毛が逆立つのがわかる。

猫じゃないけど、瞳孔が開いて、耳がぺったんこになりそうだ。


「──猫の…お姉ちゃん?」


後ろから、どこか懐かしい声がした。

メカ社の工業にカチコミを入れた時、助けた子だ。あれから、どうしてるのか少し気になってた。

確か、六十八番街に住んでるって言ってた。ひっさびさに会ったし、挨拶くらいしておこうと思ったが、リベリオスがどっかに潜んでるって可能性もある。ここは、乗らないけど、また逃した方がいいかな。


「あんた、あの時の少年か。

ここは危ないからさっさとどっか行きな。」


あたしは背後の少年に顔を向けようとする。

でも、すぐにおかしいことに気づいた。

なんで…足音が止まらないの?


途端、アンサーからの電話のコールが鳴り響く。

「もしもし?」


電波が繋がらないのか、ガビガビで、なんて言ってるのか全くわからない。


「ハ──に──。」


「ふざけてんのなら切るからね。」


回線が繋がった途端。

「逃げなさい!すぐ近くに!ハレ────」

ツーツー。

電話は、すぐに切れてしまった。


「…え?」

そのまま、少年の方を見る。

あの背丈、顔つき、髪型。うん、あの時、工場で助けた子だ。

しかし、その影は2つに重なって見える。


赤黒い瞳が、獲物を見定める様に、ずっと、止まっていた。

あたしは、その瞳を見たことがあった。

パパとママが、殺されたんだった。その瞳の持ち主に。

そして、立て続けに記憶が呼び起こされる。楽しい思い出の下に埋もれていた、思い出したくもないクソみたいな日々が。

あたしは、二人に逃がしてもらったんだ。命だけは助かって、だけどそれ以外はなにもなかった。

あてもなく街を彷徨った日々。ゴミを漁って、お金を盗んで、いっぱい殴られて、何度も蹴られて、たくさん吐いて、毎日飢えて、ずっと這いつくばって、でも踏ん張った日々。

ダンボールに包まって過ごしたあの夜。

風邪引いても、寒くても、なにもなくても、死にたくなくて。死ぬのが怖くて、堪え続けた日々。

異化災害に巻き込まれ、両足を失った瞬間。痛くて、泣きたくて、怖くて、でも死にたくなくて。それでも、立とうとしたあの決意。

楽しい今の下敷きになっていたものを。

全部。思い出した。



現実に戻れば、1秒も経っていなかった。

路地裏の地面が、白く変色していく。

辺りに、肌を刺す冷たさが満ちる。

体の全神経が「逃げろ」って叫んでる。

でも、動けない。動かない。

頭が真っ黒になって、ただ、目の前の獣に対する恐怖だけしか考えられない。

あたし、死ぬんだ。今わかった。


怪物は、大きな手で少年に触れようとする。

「お姉…ちゃん…」

少年も、恐怖に震える声で、微かに呟く。その震える姿に、どこか見覚えがあった。


もう、見捨てて逃げる?

ほんのちょっとだけ、そんなことを考えてしまった。あたしは、死にたくないんだ。

でも、この子は、私が逃げるのをを望んでいた。

「………逃げて。」

────は?


「…なんで。なんで。」

意識の外で、か細いながらも声が擦り出されていた。

誰に助けてもらえなかった、天涯孤独の少女。その前には、自分と同じ、命以外なにも残ってない孤独の少年。そして、少年は、最後の命すら失いかけている。

その時、あたしは思い出した。


「…あたしはヒーローなんだよ…?

…なのになんで、あんたに助けられないといけないの?」

ヒーローっていうものは、あたしたちみたいな、なにもない人を守るためにいるんだ。


赤黒い瞳が、少しだけ動いた。


「…あたし(ヒーロー)は…あんた(孤独な子供)を助けないといけないんだから。」

その時には、もう、知らないうちに、飛び出していた。


「あたしはヒーローだからッ!

助けてって言ってよッ!!!!」


人生で一番大きい声を出した気がする。

音すら置き去りにして、あたしは、なにもない腕を広げ、少年を抱きしめた。

抱きしめ、そのまま、走った。


赤黒い瞳は、一切動じることなく、あたしを見つめ続ける。


「お見事。」

たった一つだけ、聞こえた気がした。

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