第十三話 火曜日は希望が燃えた
数時間に渡る討論の末、やっと、意見が収束し川となった。
それもそうだ。全員の命が懸かっているのだから、一から百まで、完璧にしないといけない。
「では、決定事項をまとめます。
全員生存で成功確率は20%。1人でも死ねば、作戦は崩壊します。
どうにか、掴み取りますよ。」
アンサーが、ノートパソコンになにかを打ち込む。
「作戦決行は、明後日の正午。
六十六番街、その中でも、開けた郊外のイーストパッセージ区まで、ハレミチとリベリオスを誘導、ここで、同士討ちを誘います。
リベリオスの誘導は、キッド、スティーブ、シャムル、レヴェル。任せましたよ。」
「任せとけ!こーいうのは俺は得意だぜ。」
キッドは腕をぶんぶんと回す。仮面越しのその目には、自信と闘志を感じる。
「ギュゥゥーン!」
いつもよりも高い唸り声を上げたスティーブは、やる気に満ちている様だ。
「死にそうになったら、あたし逃げるからね。」
足を組み、飴の包みをシャムルは開ける。
「私がみんなを守るよ!」
レヴェルの持つ剣が、いつもより輝いて見える。
「次に、ハレミチの誘導ですが、エリ、ソル、貴方たち2人で問題はありませんね?
第一、危険な状況ならすぐに助けを呼びなさい。」
空気が一瞬凍りつく。
僕とエリであっても、ハレミチが相手なら、0.1秒の油断が死につながる。
この作戦が失敗すれば、誰かが死ぬ。
ハレミチを相手取るなら、僕たちが死ぬ可能性は当然高くなる。
それが、はっきり分かっていた。でも、僕たちじゃなきゃ誰がやる。
この中で最強に近いのは、僕とエリ。
僕たちが2人揃って、負けるなんてことは滅多になかった。
しかし、相手は過去最悪の都市災害と呼ばれた男。被害と犠牲者の数は、数えることすら不可能だった。そんな化け物相手に、大立ち回りをしなければならない。
多分、僕たちでも、陽動が精一杯だ。
「みんなの期待を背負おう。」
僕は腕を組み、小さく頷く。瞳は、三度輝いた。一度目は勇気を宿し、二度目は恐怖を投げ捨て、三度目は希望を燃やした。
「あたしたちが揃ったら最強よ!」
エリはいつも通り自信満々。彼女となら、どうにかなる、そう思わせてくれる。
「…よろしい。
ヴラド、皇楓、私は3つの地点に付き、支援と誘導ルートの確保及び、対象の逃走ルートの封鎖を行います。」
「皆、いつでも俺を頼ってくれて構わない。」
皇楓は、手を強く握り締める。
「エスコートの為のレッドカーペットを引くのは、俺たちに任せてもらおう。」
ヴラドは帽子を深く被り直す。
「そして───エイヤ、ベンジャミン。
貴方たちは自身の役割の重要性を理解していますね?」
「…リベリオスとハレミチの記憶を操作、同士討ちするように書き換えろ。って、簡単に言うけどさ、記憶の書き換えのむずさ分かってから言いなよ。大変なんだから、あれ。」
エイヤは足を組み、目を瞑る。
「ヘヴンの護衛及び、イーストパッセージ区の半径500m内を除く、六十六番街全体の時間停止、だろう。
私しかできないことだ。全力で臨ませてもらう。」
ベンジャミンの針は、前に進み続けている。
彼らは、この作戦のキーパーソンだ。この都市の中でも、『最強の能力』を持つ一角。彼らの存在そのものが、勝利の要因だったことも少なくない。
「…私にも、なにか…出来ることって…ないの…?」
掠れた声で、ヘヴンが静かに言う。
その声はか細いが、確かな「黄昏れ」としての誇りと闘志を秘めていた。
「貴方は…出来ればで構いません。
ベンジャミンが停止しない半径500mに結界を展開できれば、お願いいたします。」
僕たち心が、メラメラと燃えている。
目指すは一つ。
生き残る。たった、これだけ。
薪は、一本ならすぐに火が消えてしまう。
でも、十二本なら、燃え続ける。
「あっあの…!」
今まで黙り込んでいたユウが、口を開いた。
「僕にも…できることはありますか…?
みなさんの為に、僕も、何かしたいんです…!」
震えているが、強い意志を感じる。その心は、全くもって英雄と遜色はない。
「──ですか。なら、重要な役割を与えます。
貴方は此処を守っていなさい。たった、それだけです。」
アンサーの言葉が、深く深く響いた。
しかし、僕は気づく。知っている。彼は、冷徹に見えて情がある。戦えないユウに、死んでほしくない。だから、此処に居させるんだ。ただ、恥ずかしいから、面と向かって言ったりは絶対にしない。
そんな人だ。
「って、本当は、ユウに死んで欲しくないから、でしょ?
直接言えばいいじゃん。」
シャムルが、揶揄うように言い、アンサーの服の裾をツンツンする。
「…黙りなさい。」
アンサーの色白の顔が、少しだけ、赤くなった気がした。
「ともかく、会議は終了でいいでしょう。
明日に備え、今日は皆休息と準備に充ててください。」
会議が終わった頃には、もう朝日が昇っていた。
僕たちは、一晩中、何も飲まず食わず席も立たずにいた。
「──腹減った。」
ただ、それしか頭にない。
本来なら朝食の時間なのに、僕たちは夕食にあたるはずだった物を食べる。
いつもなら、みんなが他愛もない雑談や、ふざけ合いながら食べるはずなのに、今日だけは、無心でカルボナーラを頬張る。誰も話そうともしない。つけっぱなしのテレビの音だけが響き渡る。
料理は、卵とチーズの香りに、ベーコンのしょっぱさが合わさって美味い。
10分もしないうちに、全て食べ切ってしまった。
「ご馳走様」を一言、僕は2階にダッシュ。
爆速で部屋の戸を開け、新品のベッドにダイブした。
1秒たりとも意識が保つわけもなく、死んだ様に眠りについた。




