火焔竜 キングビースト
しばらく進んでいくと、視界に収まらないくらいに広い場所に出た。
きっと馬に乗ってたら見えたに違いない。それも、端から端までいっぺんに。馬ほしーーーー。
「私、溶け……てないわね。ゆらゆらしたものは見えるけれど。きっと、ただ、暑い、だけよ。」
「みなさん。お水をどうぞ。あと塩飴も。すみません。経口補水液は流石に持ってませんでした。」
持ってたら持ってたですごいと思う……。むしろちょっとひく。
僕はありがた〜くお水を受け取って、飲み干した。ふぁああ〜!生き返るっ!
塩飴を口に含む。ころころ、じんわりと美味しい味が口の中に広がる。世の中にはこんなものがあるのか……。
「それでは、行きますよ。」
フューが足を一歩前に踏み出した。
ドンッ!ドコドコドコドコ……
「たゃっ!?」
すると、いきなり大きな太鼓の音が響きわたった。太鼓の音って心臓がばっくんばっくんいうんだよう……体の中で何かが共鳴して、震えているようで、どうにも慣れない。
あ、でも僕が知ってる太鼓の音より高い、かも……?
さっきよりもより暑くなった。ううん、暑い、よりも熱い。多分、どんどん照明が点いていっているからだと思う。汗が吹き出しそうなくらい熱いライトの光が、空間と僕らを照らして……そして、一番奥の、炎を吐き出す竜を照らした。
ライトか……思ってたより現代的かも……。
ライトに照らされた竜は、ツヤツヤの、良い生活をしていそうな赤い鱗に覆われていた。角が生えていて、うん、顔は……コモドオオトカゲに似てる。子供なのに大蜥蜴だなんて大層な名前だよね。こもどこども。
あの時は、恐怖で体が強張ったけど、今は怖くない。不思議だ。軽口を叩く余裕だってある!
「あれが、火焔竜キングビーストです。」
「まさにドラゴン!って感じの見た目ね。」
「お前だな!熱い原因は!おのれー、僕が成敗してやる!」
「属性があるなら……炎だな。氷は相性がいいはずだ。」
すごいスルーされた。
「ぞくせー?」
「この世界にはありませんから気にしなくて結構です。ジュンさんのいつもの戯言ですよ。」
フューが小馬鹿にした笑みを浮かべた。ふーん。
「うるせえ!いいか、近接系のアタッカーは俺達二人、遠距離アタッカーがサンク、サポートがフューだ。作戦を立てるぞ。」
「フューくんにバフをかけてもらって…‥そして、私が目くらまし、その隙にジュンくんが右から、らいうちゃんが左からドラゴンを挟み込んで攻撃……でどうかしら。」
サンクが、ふんすふんすと息巻くジュンを置いてけぼりにするかの様に、さっさと作戦、なるものを立てた。サンクかっこいー!
「なっ……!
うん。そうだな。そう、だな。それが良い。」
ジュンがそっぽを向いて素っ気なく言った。ジュン、ダサいー。
とりあえず僕は左から……、ね。
うんうん。
僕が頷いていると、そっぽを向いていたジュンが何かに気づいたようにこそっと僕に耳打ちをした。
「合わせ技の時に技名叫ぶぞ。それっぽく。」
「合わせ技?」
「同時に攻撃する時、だ。」
ほほーん。
「ほう。技名ね……ししょーが言ってたやつか。つまり、詠唱か!」
「まあそんな感じだ。必殺〇〇って俺が叫ぶから、何か適当なかっこいいやつ叫べ。」
「りょっ!」
僕は敬礼した。何にしようかなと思いつつ改めてドラゴンを見る。
ふと、二つある尻尾のうちの、ひしゃく型の尻尾が気になった。
「……ひしゃくで水をすくってかけて鎮火するのかな?火を使うときの原則を心得ているドラゴンだなあ。」
「なんでそうフラグを立てちゃうんですか。そんなわけないじゃないですか。水辺もないのに。」
「じゃあなんのために使うの?」
「さあ……?アリオールギルドに付いて行った時は二撃でしたし。」
ひい。二撃……。にげき……ドラゴンを…ほう……。
あれかな、アリオールと一緒に戦った時も、アリオールがデスヘルと直接戦ってたら、二撃で直ぐ終わってたのかなあ?
あれ、そしたら、僕が痛い思いをしなくて済んだんじゃ……。やっぱりアリオールって……女をいたぶる趣味でも……?
「らいう避けろ!」
考え事をしていたら、眼前に炎が迫ってきていた。
え。
途端に衝撃が体を襲い、体中に痛みが走った。
うが……。
「らいう!」
誰のものかも分からない声が響く。全身から白い霧が吹き出している。
「スキルスイッチ[HPヒール]!しっかりしてください!らいうさん!」
意識がはっきりしてきた。
ああやっぱり、フューを助けておいてよかった。
「ありがと……」
「いいえ!スキルスイッチ[ハイ☆パワー]!」
フューが地面に杖をカンッと押し当てて言った。力がみなぎってくる!
「仕切り直しね!スキルスイッチ[ウォーターメイキング]!」
明らかにただの水じゃない紫色の液体が、ぎょろりとした目玉がついた杖から向かっていく。空中で炎と紫色の液体がぶつかり合い、爆発を起こした。
その隙に、僕はキングビーストの左、ジュンは右に回り込んだ!
「必殺絶対零度」
来た!必殺〇〇!
「たぬき!」
なんかそれっぽいことを叫んだよ!
「スキルスイッチ[アイスシールド]!」
「からの~スキルスイッチ[君臨!たぬきんぐ!]」
ごばああああああああ!っで、でも我慢だ僕!
爆風でキングビーストがよろめく。
「今だ!らいう!ここにうちこめえええええええええええ!」
がってん承知!
「だああああああああぬううううううううう!」
僕がキングビーストに突進し、キングビーストがアイスシールドを割り、壁に激突する。
「スキルスイッチ![アイスフォール]!」
アイスシールドの破片が身体に刺さり、素早く起き上がれなかったキングビーストめがけて、無数の氷が空から落ちてくる!
「グオオオオオオオオオオオオオオ!」
怒りの咆哮が、さっきの太鼓みたいに僕の心臓を揺らす。
僕はやけども怪我もお構いなしに、再びキングビーストに突進した!
「たぬううううううううううううううううううううううううう!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
もう一回神殿の壁に打ち付けられたキングビーストは、恨めしそうに僕を見た。途端に、高揚した気持ちがすっと沈んだ。なんだろう……この冷たい目……。
「流石にこれだけじゃ足りないかしら!?なら、これでどうかしら!スキルスイッチ[サンダー]!」
「マジックオープン![冷剣装着]!」
サンクは赤と緑の、ミファスムの杖に変えて雷を放ち、ジュンは銀の剣に氷をまとわせてキングビーストに襲い掛かった。
「! 皆さん下がってください!」
「な!?」
ジュンが吹っ飛ばされた。え。どうして!?だってキングビーストの本体は僕が抑えて……。
「本気モードでニューゲーム、ですか。」
フューが冷静に言う。
キングビーストが、居ない!どこに行った!?
僕の手の下にあった巨体はどこにもなかった。
そのあとすぐ、首筋がチリチリした。左に転がる。
僕がいた場所に、青白く、透明にも見える炎が吐き出された。
ひっ!直接当たってないし結構離れているのに、やけどしそうなくらい熱い!
あんなの、直撃したらひとたまりもないんじゃ……!ジュンは!?
「気を付けてください。追い詰めた獲物に喰われることもあります。」
「助かった。……死ぬかと思ったに、ごほっ。」
大丈夫そうだ。フューの治療を受けている。
「!?あれは……!?」
サンクが目を見開く。
空気中に粉がばらまかれた。あのひしゃく型のしっぽから。
そしてそこにもう一方の尻尾の炎を……
「スキルスイッチ![結界]!」
僕らにフューが結界を張った瞬間に、キングビーストの目の前で大爆発が起こった。神殿が壊れていないのが不思議なくらいの大爆発だ。
「くっ…あっ……!」
フューが後方に吹き飛ばされた。結界はもしかしたらそれをかけてくれた人にダメージがいっちゃうのかも……。おいそれとかけてって言えないな。……ってそうじゃない!フュー!?
「らいうちゃん!時間を稼いでちょうだい!フューにHPポーションかけるから!」
時、時間!?えっ…えーっと、ええ……!?
「たったぬぬぬぬっ!」
僕はキングビーストに突撃した!
「ゴグワアアアアアア!」
ぶつかった拍子にキングビーストが粉を振りまいた!
ひいいいいい!?胞子みたいいいいい!気持ち悪っ!
僕の近くで緑色の炎がごおおっと燃えた。それを避けた時……なんとも言えないような部位が熱うくなった。
背中の…後ろ?でも背中じゃない……熱い!
僕がそのあたりに手を伸ばすと、そこには尻尾らしきものがあった。あー…そっか…僕…たぬきだもんね……尻尾…あるか……。
じゃ、なくて!燃えてる!炎ちゃんと避けたのに!?
「たぬぬううううううう!?」
尻尾に付いた火を急いで消さなきゃ!
僕は尻尾をがむしゃらにぶん殴った。
「たぬううう!たぬうううう!」
「グガアアアアアアアアァアアアアアア!」
更に燃えろと言わんばかりの勢いでキングビーストがまた粉をまき、今度は少し紫がかった炎を、またもう一方の尻尾で点火した。
今度は……全部避ける!
僕は薄紫色の炎を避けた!
「らいう!下がれ!スキルスイッチ[アイスシールド]!」
目の前にジュンが躍り出て氷の壁を作った。危ない!踏みそう!
そこに炎が当たったのか、氷の壁が割れて溶けて粉砕される。
僕はジュンを背中に乗せて空中に飛んだ!
ぱふんっ!
気の抜けた音がして、僕はちっちゃな、ジャイアントたぬきに比べたらジャイアントたぬきの足のさきっちょのさきっちょくらいのサイズしかないような姿になって……地面に落ちた。効果時間の終了だね〜……。
「へぬう……」
「気ぃ抜けてる場合じゃねえぞ!」
僕のふわふわぼでぃで無傷だったジュンが言った。うう……こんないたいけなたぬきをクッションにするなんて……うっうっ。
「グガアアアアアアア!」
キングビーストが大きく尻尾を振った。
キングビーストの背後でくすぶる炎が見える。ノーマルたぬきじゃ、避けきれないし耐えきれない!
ジュンが僕を抱き上げて横に飛んだ。
僕らが居た場所を粉が舞い、その後すぐに赤や黄色、緑、青、紫……色々な色の炎が燃えた。きれいだけど……この中に居たら、たぬきのたの字も残んなかっただろーなー。おそろしたぬたぬ。
だんだん力が抜けてきた……。SP切れの脱力感と、HPの低下だあ……。
「マジックオープン![冷剣装着]!」
ジュンが氷の剣を構えた。銀色のあの剣に氷を纏わせている。
「どっからでもかかってこい!キングビ…」
「スキルスイッチ[ハイ☆パワー]!」
「スキルスイッチ![ウォーターメイキングフォルティッシモ]!」
(スキル[ウォーターメイキングフォルティッシモ]
効果…ウォーターメイキングの上位版
SP…45
取得条件…ウォーターメイキングを5回使う。)
キングビーストを包み込むほどの美しい水がキングビーストにあたり、ffというマークが最後にキングビーストに当たって振動し、弾けた。
「ギャャマアアアアママ!」
先程までの堂々さはどこへやら、この世のものとは思えない声でキングビーストが叫んだ。
「やっぱりね!炎には水が効くのよ!さあ!今のうちに隠れて体制を立て直すわよ!」
「氷は全然効いてなかったぞ!?」
「スキルスイッチ[SPヒール]!それはジュンさんが弱いからです!サンクさんの武器は環境に左右されませんから、今はサンクさんの方が強いですよ!」
僕、復活!フューのSPヒールで元気になりましたー!
僕らは炎が轟々と灯る松明の影に隠れた。
「なにをう……いや、間違ってはいないが…いないけどな……いねーけど…でもな…釈然としねーな……。」
「とりあえずみんな、力を貸して!SP全部使い切ってスキルをたくさん撃つから!具体的には……」
つづく




