たぬきんぐだむ!?
「スキルスイッチ[建国!たぬきんぐだむ!]」
サンクが叫ぶ。
「大丈夫なのか?攻撃力が÷108だって書いてあるぞ?」
「自分のバフがあるんで、÷54ですね。それくらいの記憶容量はないのですか?あなたの頭は1MBですか。」
「そんなん覚えてるわけねえだろ!俺がかけたんじゃねえし!」
「ちょっと二人とも静かにして!
召喚したら、一気に操るのが難しくなった!」
たぬきたちは全員、僕と同じ方向を向いている。だけど、僕の意思とは反対に、薄紫色の目をしている。
「攻撃系のスキルは使わないわ……スキルスイッチ[餌]!散らばりなさい!」
「たぬるたぬっち[たぬ]!たぬたぬ!」
一気に、小さな魔法陣に乗ったたぬきたちがあちこちに散らばる。スキルスイッチ[餌]!アイアイサーって叫んでる……!感情を感じない。ロボットみたいだ。
ダルノドンがたぬきたちを追いかけた。
あっあっ!突かれて綿が出ちゃう!逃げてっ!逃げてっ!
黙って、突かれてちゃ、だめ!だめ!
逃げて、逃げて、逃げてええええええ!
「たああああああぬううううう!」
僕の声が響き渡る。
「!だめ!らいうちゃん!それ以上鳴いたら!」
逃げろおおおおおおおおお!
「たぬうううううううううう!」
たぬきたちの目が、黒色に戻った。
そして、迫りくるダルノドンを見、
「たぬうううううう!?」
凄まじい勢いで逃げ始めた。あっ。しまった、思わず。
よかった?良くはないかも……。逃げ惑っている……。
「ああ……操れなくなっちゃった…スキルスイッチ[エートル・マリオネット]!……ああ、だめね。」
「スキルスイッチ[SPヒール]。っと!らいうさん……いや、たぬきがこっちにまで!うーん。この機に乗じて、逃げてしまいましょうか?」
「ああ。今ならダルノドンがたぬきを追いかけてるから……って、ん?」
たぬきがだんだん消えていく。や、やられちゃった……?
と、思ったら襲い来る脱力感。
「ぱむ。」
「あ。らいうが小さくなって……落ちた。」
「ああ…スキル効果時間が終わったのね……」
「早く立ってくださいらいうさん!ダルノドンが一斉に襲ってきますよ!」
はむうううう…はむーるとら。あむーるとら。アムールトラが食いたい。
「何かよくわからないこと言ってないで!スキルスイッチ[SPヒール]!スキルスイッチ[HPヒール]!ほらこれで歩けるでしょう!」
(スキル[HPヒール]
効果…半径3m以内の指定したドリーマーのHPを回復する。
SP…15
上級…ヒール
取得条件…HPポーションの風呂に浸かる。)
HPポーションの風呂……?え……?
僕はよいしょと立ち上がった。
そして、後ろから射抜かれた。
「だぅ!?」
「らいう!?」
「にがさないよお?」
視界がぼやける。
僕の目の前を靴が通る。ああ……砂が不味い……。
「っ!スキルスイッチ[ヒール]!」
視界が、はっきりしてきた。
「ふゅう、やさしいい。おいていくうとかいってたのにい。そのお、やさしさをお、ちょっとはあ、わけてほしいなあ。」
「黙ってくださいヘンタイ。らいうさん!巨大化で逃げますよ!……え?」
フューの声色が凍った。
サンクが青ざめた顔をしたのが分かった。
僕も、少しばかり、顔が青ざめている……かも。
「!おい!らいうは関係ないだろ!?」
「でもお、やさしい、ふゅうならあ、ほんとうにみすてることはあ、できないでしょお?」
立ち上がるのが一歩遅れた、倒れている僕の首筋に、弓の照準を合わせているハイヤル。あー。即死。これは即死。弓で射抜かれたら即死、かも。
「街にいるだけで追ってくるような、そんな理由がそこにあるんですか!?くどいです!ねちっこいです!本当にうざいです!」
「んん〜おぼえてないい?ねえさまはあ、だれにもわたさないのお。だからあ、ふゅうがじゃまなのお。」
「はあ?」
こんな状況だというのに、暑さによる汗も、緊張からくる汗も流せない。
頼むからフュー、あんまり刺激しないでね……?
「ねえさまはあ、しょたこんだからあ。ふゅうをゆるすのお。」
しょ……?何それ?聞きたい!もしくは調べたい!でも、言われてないけど動いたら撃たれる気がする!
「はあ?」
フューがもう一回、何言ってるんですかお前みたいな声をあげた。フューはお前とか言わないか。
「ねえさまはあ、かわいいおとこのこをお、あつめてえ、ぎるどをつくりたがってるのお。いっしょうけんめいい、かわいくしてえ、そし、してきたけどお、ふゅうをお、ありおーるぎるどがついほうしたときにい、ありおーるにい、こうしょうにいくほどなのお。あのじけんのあともお、ふゅうをようごしつづけているのお。」
「それは……ただ単に、回復術士とか、ヒーラーとか、そういう役割が欲しかっただけ……ではないかしら?」
サンクが探る様に言った。
うんうん、エアサルさんがフューの事を気に入っている、っていうのはそういう理由もあるかもしれないよね。
ポーションは高いし……。僕も今まで会ってきた中で、ヒールできるのフューとルイしか知らないもんね。そういえばルイはアリオールギルドに引き入れられてたっけ。ルイ自身が志望したことではあったけど、アリオールがそれを受け入れたのって、そういうこともあったのかなあ?
「ひーらー、なんて、はいやるぎるどにはあ、いらないもん。[もういいよ]にはあ、SPいらないもん」
「だからあんな何千体、いや、何万体もあの鳥を呼び出せたわけか。」
「そういうことお。」
「チートじゃねえか……」
いや、ずるっこでは……ないと、思う、けど……さっきフューが言ってたとおり、召喚してる間は動けないんでしょ?
でも、あれ?僕のたぬきは最大でも108匹しかしょうかんできないのに!あ、やっぱりずるだ!ずるい!
「すきるでもしょうかんがあるのにい、まじっくでのしょうかんがSPつかうとなったらあ、いみがないでしょお?」
「今はそういう話をしてる時ではありませんよジュンさん。自分が理不尽な理由でしつこくしつこく追いかけられているのが嫌だって話をしているでしょう?」
「だが、マジックの詳細を聞き出すのも今後必要になってくるかもしれないぞ?」
ジュンがむっとして言い返した……ようだった。僕倒れてるから詳しく分からん。
「今後、なんてありません!ここで終わりにします!」
「どうやってえ?」
「貴方と、勝負します。今後自分を追ってこないことを条件に!」
にらみ合い……。
「おい、どうすんだよ。相手はギルドのトップだろ?」
「やっぱり、ギルドリーダーとか、ギルド長とか、そういう人たちって……強いんじゃないの? 少なくともアリオールは規格外だったわよ? 戦っているところを何度も見たわけではないけれど。チェーンベアとクマロスを同時にデコピンで倒していたわ。」
ジュンとサンクがこそこそとフューに言う。……チェーンベアと、クマロス。よく強さは分かんないけど……あ。クマロスって、僕とサンクが一番最初に会った時に僕が追われていたモンスターじゃないっけ。うん。きっとあの人相悪いやつだ。ジュンが勝てなかったやつだ。サンクのサンダーで一撃のやつだ。チェーンベアは……聞き覚えはあるけど、知らん!
「サンクさん、ジュンさん。」
「なに?」
「なんだ?」
フューは大きな杖を構えて……言った。
「最強ギルドに追放された最強ヒーラーは小さなパーティに入ってのんびりと暮らす。……フラグが立ちまくってると思いませんか?」
「無双ね!無双するのね!」
そう返事をしたサンクに、フューがさらに耳打ちした。何かを企んでるみたいだ。……変な事言ってないで早く助けて……。
「俺少年漫画しか読んだことねえから……よくわかんねえ。」
ハイヤルがん~っとかわいい声を鳴らした。え、僕の人間の時よりもかわいい声だっ!悔しいっ!ま、たぬきのほうがかわいいから別にいいけどね!
「そんなこといったらあ、ねえさまだいすきなちいさなぎるどのぎるどちょうは、まじっく[もういいよ]でむそうする……もじゅうぶんにい、ふらぐがあ、たちそうだけどお?」
僕それ知ってる!シスコンって言うんだよねっ!て言ったら弓で射抜かれて、じ、えんど……ジビエだな。借金をこれ以上増やしたくない。よし。僕は黙ること、を覚えた。スキルスイッチ!黙る!
「貴方のギルド、小さくないでしょ!アリオールギルドくらいには人がいたではありませんか!」
そっか。アリオールギルドレベルに。……アリオールギルドって、何人人がいるの?いや、人じゃなくてもいいや。狸でもいい。何人、いや、何頭所属してるの?108?
「さすがにい、いまはまだ1000にん、もいないよお?せいぜいいても300だよお?だれかさんのせいでねえ。」
「戦国時代かよ……」
え、え、数字がいっぱいで分かんない。
僕のたぬきんぐだむは108、僕を入れると、109。
そして、ハイヤルギルドは、300。
で、アリオールギルドは、1000!?
戦国時代かよっていうジュンのツッコミはよくわからないけど、え、ちょっと、すさまじすぎない!?え、そんなにあの建物に入る!?
「そうですか。一般的な大規模ギルドの人数は500人くらいですが、それ以下とは。確かに五人くらいからギルドは作れますが。」
「そんなに居るもんなのか?」
ジュンがドン引きしたような顔で言う。
「それくらいの数がいないと世神竜ヴェイズどころか、その手前の手前、裁決竜バランスすら倒せませんよ。ま、アリオールギルドとハイヤルギルドが共闘した裁決竜バランス戦では、ハイヤルギルドは壊滅状態でしたけど。ああ。それで減ったんですね。」
「あおってるう?それがげんいんじゃないんだけどお。」
「煽ってるとしたらどうなんですか?」
「ゆみでいる。」
……ねえ。
ジュンといいアリオールといい、ハイヤルといい、フューといい。どーにもこーにも。
なんていうんだっけ、これ。
武力行使? に、出すぎじゃないかなあ?
もう少し穏便に。穏便に解決する方法を模索しようよ! 戦闘狂って言うんだよそういうの!
「でもお、ふゅう、たたかうといってもお、[クリエイティブ・バトルスタジアム]もってないでしょお?」
あ、ジュンが殺された時のやつ……。
「殺戮ギルドのハイヤルギルドのリーダーであるハイヤルさんこそ、持っていないのですか?たしか……3000キルで手に入るでしょう?」
クリエイティブ・バトルスタジアムの取得条件ってそんなに怖かったっけ?アリオールが使ってたよね……?あの…石壁がばーんっ!って出てくる……。
「もってるけどお、つかいたあくない。だってえ。それをつかったらあ、ねえさまにさんぜんきるしたあって……ばれちゃうもん。ねえさまにい、みすてられちゃうもん。」
「ですがね、スキル、使わないと、ご自分のギルドハウスが崩れますよ?」
フューが横にずれた。
僕は一生懸命、目を上にやった。うーん。この顔目がつかれるぞ。
「スキルスイッチ[カルテット」!」
(スキル[カルテット]
効果…五本の杖が必要。ひし形を地面に描き、頂点に一本ずつ杖を置くことで陣を発動させ、力を一本の杖に集めてビームを撃つ。
SP…50
取得条件…杖を五本所持していて、明らかに種類が違う遠距離攻撃を四種所持していること。)
サンクがミファスムの杖から……赤い珠から赤い炎と紫色の毒、緑色の珠から黄緑色の電気と青い水を出現させた。
それは地面の砂を巻き込み、目が追いつかない勢いでほとばしり、ハイヤルにぶつかった。
痛い!これは絶対痛い!
「ふにゃうう〜……」
ハイヤルがもろに正面で受けて、目を回している。
よし!今のうちに……!
「さあ!チャンスです!完膚なきまでに叩きのめしますよ!ハイヤルギルドの金銀財宝を全部頂いていきましょう!」
えっ。逃げようよ!?逃げないの?
「え、は、逃げ……いや、あー、この場から一時的に退却しないのかよ?」
あ。ジュン。プライドに負けてる。純粋に逃げると言えばいいのに。
「ここで叩いて置かなければ、また、追われます。前回の叩きじゃ足りませんでしたから……次は資金になりそうなものを八割どころか全て奪っていかないと。」
……ん……?前回?
んーーふーー?きな臭いなーきのこ臭いなーー?
「……ねえ、フュー? ハイヤルくんに狙われるようになったのって……その出来事の……つまり、八割盗ってった後、じゃないかしら?」
「いえ、その前からですよ?」
なーんだ。よかったよかった。
てっきり、フューはハイヤルの物品を全部盗んだのに、被害者ヅラをしてるのかと思っちゃった!
じゃあやっぱり、本当にエアサルを思うが故のハイヤルの逆恨みかー。
「その前々回の叩きで……アリオールさんに、ハイヤルギルドを叩けと言われまして、資金を持っていったら壊滅するだろうとこの天才的頭脳で考えたのです。そうして、三割獲ってった後、ですね。」
一緒だ。理由。変わらないよ。うん。良くないと思います。
「だが、物品を持ってくっていったって、金はハイヤルのスマホの中に入ってるだろ?金のスマホからスマホへの移動は不可能だろう。」
「何言ってるんですかジュンさん。スマホごと持ってくんですよ。ほら、ハイヤルさんがダウンしてる内に本部を叩きますよ。」
フューがハイヤルのスマホを回収しつつ言った。……やっぱりフューが言ってる叩くって、強盗って意味?
「……すごく、抜き取るの、速いな。」
「ま、3回目ですし。」
フューは普通にそう言いつつ、ギルド本部に向かって歩き出した。
「ハイヤルがお前を狙うようになったの絶対お前のせいだろ!」
ハイヤルのスマホを奪って、ジュンは中に剣が入った鞘でぽかっとフューの頭を叩いた。
「!?」
「意味がわからないみたいな顔してんじゃねえよ!馬鹿!」
そしてもう一回ぶったたたいた。
フューは尻もちをついた状態ですごく困惑した表情をして首をひねっていた。
……この人やばいよう。
フューに有り金全部むしり取られるよう。しかも、悪気が全ッ然無いよう。恐ろしいよう。
……これがアリオールギルドクオリティか……。大きなギルドって、恐ろしーんだな。
来羽の中でアリオールギルドへの評判が地に落ちました。
裁決竜バランスはDWで4位の強さを誇っています。
3位以上は……桁違いの強さです。




