この押し問答は無くてもいいもの?
「それで、お主らはどうなんじゃ?」
「ぱえ?」
「仲間が連れて行かれたというのに、助けなくていいのか?」
女の人……妾妾言ってるから妾さんでいいや……妾さんは、その顔くらいある胸を揺らしながら首を傾げて、そう言った。
えーー。
「えーーーー。」
「えーーーー。」
僕とサンクは顔を見合わせて、微妙な返事を返した。僕ら仲良し。
そういえば、妾さんとフューも仲良さそうだったね。旧知の仲みたいな。呼び捨てだったし。
「だって、置いてこうとしたしー。」
「らいうちゃんに無理やり乗せたもの……私は逃げなくてよかったのに。」
妾さんはえ、え、と戸惑った姿勢を見せた。十二単の肩見せ版みたいな服が風で揺れる。
「え、でも、でもじゃよ?パーティメンバーじゃろう?助けるじゃろう?」
「「えーーー。」」
「ええええええええ……」
今度はハモった。
妾さんは困ったような顔をした。
うーん……。
「じゃあさじゃあさー。ハイヤルさん?はフューに対してなんか恨んでたんでしょー?そんなん勧めていいのー?」
「妾の弟君は妾が何をしようと許してくれるのじゃ!妾的にはフューを気に入っておる故、傷つけられるのを見たくないまでのこと。」
……ん?
「ハイヤルさんって、妾さんだよね?」
「なんだよ妾さんって。」
ジュンに小声で突っ込まれた。なんでジュンはさっきから僕の後ろに身を隠してるの。
「だって一人称が妾だから……」
「違うぞ?妾はハイヤルではないのじゃ。」
違うの!?
あー。やっぱりイメージ違うと思ったんだよねえ。リーゼントの人想像してたのに、来たのは癖っ毛の二人組……妾さんと、フューを引きずってった人、だったし。
アリオールのところの、ワープゥとまだ名前がわからないメイドさん、みたいな立ち位置、の人達なのかなあ。その、ねばねばハイヤルにとって。この人達は。
「ハイヤルは妾の弟君の名じゃ!妾はエアサルじゃ!」
名前がローマっぽい。見た目は和装なのに。それにさっきの、弟君?妾さん、つまりエアサルさん?の弟の方は砂漠に似合わない暑そうな……ん?
つまり、さっきフューの髪の毛掴んで連れてった人が……あの、"サイテー"な人?
「しつこさと執念深さと面倒くささと血の気が多い……そうは見えなかったけれど。」
サンクも、うーんと首をひねった。薄紫色のサラサラの髪の毛が揺れる。僕もそう思う。リーゼントじゃなかったもん。
「妾の弟君はとっても素敵じゃよ?」
ふーん……。
「こ、こんなところで立ち往生してたら時間食うぞ。真逆だっていうからな。早く行かないとな。」
その通りだ。でもねジュン。ジュンのせいで道に迷ったんだよ?そしてなぜそんなにキョドってるの僕の後ろで。
まあいいや。謝ってたし。
「じゃあ行くかあ〜!」
「ちょっとまって。今思ったけれど、フューがいないと回復ができないわ。それって、キングビーストに挑むには、かなりの痛手なんじゃ……」
あー……。そうかあ……。もうなー。怒りもなー。収まってきたしなー。
それにしても、サンクはよっぽど先程の事を根に持っているらしい。フューを呼び捨てのまんまだ。何気に怖い。
「そうかも」
「ん?フューをお主らが助けた後に、お主らのパーティに再度加えていいなんて、いつ誰が許可したんじゃ?」
……えっ。
「きゅ、急にどうし」
「当然、お主らがフューを助けた後は、妾と共に行動させるに決まってるのじゃ!」
……ええええええええ!?
妾さん、え、僕らの味方じゃないの!?
フュー、フュー取るの!?
「あ、あら?そうなの? ……フューはそれを望むかしら?私の事が好きみたいだけれど?」
「顔だけじゃろ。」
余裕な顔をしていたサンクが、端的に返されて黙ってしまった……。近寄ると、それはそうなのよねとか言ってる。そんなことないよ!?少なくとも僕はそうじゃないよ!
う、でも確かに、さっきの……姉弟との仲良し?な感じを見てると……フューが僕らのとこに残らない可能性も無きにしもあらずかも……。
「なら助けなくていいんじゃないか?ポーションもあるしな。」
ジュンがなんか言ってる。生憎と金欠である僕はその提案には乗れない。
「それは困るのじゃ!」
意気消沈しているサンクと、エアサルさんとは目を合わせないジュンしかいないので、必然的に僕が会話するしかないな?
「じゃあエアサルさんが自分で助けるのはダメなの?」
「妾の弟君は妾が何をしても妾の事は許してくれるのじゃが、妾が慕っている人に対しては容赦がないのじゃ。」
ほーん。
……八方塞がりってやつじゃない?これ。
僕らがフューを助ければ、フューはハイヤルギルドに取られちゃうかも。
でも助けなかったらフューは今頃……ひいいっ!
「助けるわよ。」
サンク!?何言ってるの!?
助けても助けなくてもフューは取られちゃうんだよ!?
「そうするのじゃ!フューを助けるのじゃ!」
と、エアサルさんが子供っぽく、大きく頷いて返してきた。エアサルさんは見た目はすごいオトナなんだけど、行動がいちいちとっても子供。
「待って待って、でもでも」
「最、終、的、に!決めるのはフューよ。……私はどちらでもいいけれど!」
明らかに何か、僕には分からない何かの感情がサンクを邪魔して、正しい判断ができなくなってるって!
「サンク落ち着いて」
「ならフューには妾を選んでもらわねばのう。」
エアサルさんはサンクを煽らないで!?こういう時だけ妖艶で大人っぽいの意味分かんない!
「なら、とっととフューを回収しに行くぞ!」
ジュンが僕らに背を向けて歩きだしつつ言った。
ジュンまで!?
あっ違う、ジュンはこの場から逃げたいだけだ!
エアサルさんは満足気に胸の下で腕を組んでいる……うわあ……僕にはない谷間がある……僕は決して下品たぬきではないけど、でも、うん、ついつい見ちゃうね。
サンクがエアサルさんの胸を見、自分の胸を見て、しょんぼりした。大丈夫サンク。サンクもおんなじくらいあると思う……いや、エアサルさんのほうが少しばかり、いやだいぶ大きい?
でもフューはそんな観点では選ばないはず……だよね?
……。
はっ!
と、ともかく、ともかくね。こんなおやじたぬきみたいな事考えてないで!
「ジュン。」
「ふぁっにゃっひゃっうっ!……なんだ?」
なんなのだろう今の動揺。
……もしかして、さっきから、エアサルさんの大人のミリョクで緊張してたりする?え、ジュンきもーい。
「あのさあ。」
「あ、ああ。なんだ?」
「どっちに行けばいいのか分かるの?」
「……多分、こっちだ。」
ジュンが砂漠の向こうを指差した。
その指をエアサルさんがそっと手のひらで包む。ジュンが息を呑んだ。サンクがさらに、気分を害した様な顔をする……はっ!まさか!エアサルさんはジュンも欲しい……!?
「!?」
エアサルさんはそのまま、ジュンの指をくいっと真反対に向けた。ゴキッ……。ゴキっっ…って言ったよ!?ゴキっっ…って!
「いっっっっっつっっっっっ」
「ギルドはあっちじゃよ?」
エアサルさんが小首を傾げた。ああああ気づいてない!ゴキっっに気づいてない!天然だ!天然だ!
ジュンは人差し指をおさえつつ転げまわっている。うわ痛そ。
……とりあえず行くか〜。
考えるのが面倒くさくなった僕は、折られたジュンの指が指した、遠くの方に陰になって見える建物に向かって、歩き始めた。
エアサルはジュンはタイプではないです。
もっと細身の少年がタイプ。
サンクは実は負けず嫌いだったりする。
ジュンは女の人が苦手。その理由の一つは、都会に来た時に美人局にあいかけたため。




