殺戮ギルドって誰のこと?
「ほんっとに昨日は、大変な目にあいました。主にジュンさんのせいで。」
「……どうやって神殿に行こうか。」
「まったく。謝罪の一つでもないんですか?間違ったときは謝るんですよ?」
「……ドウヤッテシンデンニイコウカ……」
「ほらほら言ってみてください。ごめんなさい、と!」
「っのなあ!朝からずっと!終わったことをグチグチと!続けるんじゃねえ!悪かったよ!ごめんなさい!」
「だぬうううううううう!」
朝っぱらからたぬきの腹の上で喧嘩しないでくれるかなあ!
朝日が僕の顔を照らす。
うーん。目覚めの良い朝!
砂漠の砂嵐はすっかり収まっていて、遠くの方にぼんやりと、神殿らしきものが見えた。
「だぬう〜!だあぬぬぬう〜!」
「らいうちゃん、どうしたの?ほら二人とも!らいうちゃんが元に戻れないでしょ!らいうちゃんから離れて!」
サンクがずるずると、寝癖がついたフューと、スマホをいじっているジュンを僕が化けた民家から引きずりだした。
ぽふんとな。
僕は元の姿に戻った。
「それで、どうします?街に戻るか、神殿をやみくもに探すか。」
フューはどうやったのか簡単に寝癖を整えて、いつものアホ毛が一本立っているフューになって言った。あのアホ毛は直さないのかなあ。
フューは間髪入れず続けた。
「とりあえず朝ご飯を食べましょう。目玉焼きでいいですね?」
目玉焼き……なんの卵だろう……僕、鶏と言ったらコカトリスしか会ったことないよ……?
「フュー、それ何の卵?」
「タマフォーです。」
「?」
なにタマフォーって……。僕の頭の中で、卵がサンバを踊っている様子が鮮明に映し出された。あれ、フォー!ってサンバじゃないかも。
「卵の進化版?」
「卵型のモンスターです。」
へー。
「白身には猛毒がありますが、目玉焼きにする際、解毒薬を混ぜる事で美味しく食べられます。この工程をしっかりやっておかなければ、自分がいない限り、死人が出ます。」
え、不穏!
「そうねえ……街に一回戻ったほうがいいと思うわ。方法は思いつかないけれど。」
簡易料理セットを取り出し、タマフォーと呼ばれるモンスターをスマホから取り出して強くフライパンに打ち付け、中身をどろーっと熱々のフライパンに入れ、そこに透明の液体をじゃぼぼと注ぎ込んだフューに、サンクが平然とした顔で言った。
……いやいやだいぶスプラッタだと思うんだけど!だってだってタマフォーの気持ち考えてみてよ、暗いところに閉じ込められて、取り出されたと思ったら殻…つまり人の骨みたいなとこ叩き割られて中身出されてその中身を自らの身を清める液体と共にじゅわーっと焼かれる……うえ。吐きそう……。
「僕、なんか、建物、見つけ、たよ……おうえ……ぷ」
「ほんと!?らいうちゃん、でかしたわ!」
「なんでらいうはそんな気持ち悪そうなんだよ。」
僕はさっき思ったことをジュンに言った。
「そりゃあな……そう考えればそうかもしれないが。でも食わなきゃ生きていけないだろ。だから、いただきます、と、ごちそうさま、があるんだろ?」
うーん。納得できない。
「とりあえず食べてください。その建物まで行って、キングビーストを倒して、そして早めに、違う街に行かないと。」
「あ、ありがとー……。」
「ありがとね、フューくん。」
「ありがとな。」
僕はジュンの言葉を思い出して、手を合わせて、タマフォーに思いを巡らせながら、いただきます、と言った。
目玉焼きは太陽を反射してつやつやと輝いており、黄味は若干オレンジ色だ。
見た目は普段の目玉焼きと変わらない。そして、その匂いは僕のお腹を、お腹空いてないですか、とでも言うようにノックして……。
僕は我慢できずに目玉焼きにかぶりついた。ちゅるっと、まるごと、口に入れる。むしゃむしゃ。……あ。美味しい!
「うわこいつ何もつけずに食いやがった!」
「別にいいと思うけれど……お醤油っぽいのないかしら?バターもあったら嬉しいわ。」
「ありますよ。どうぞ。」
「あるのね!?ダメ元だったのに……」
サンクが驚いた顔のまま、ふふ、と柔らかく笑うフューから調味料を受け取ったその後、ジュンは理解できないという顔をしたまま、今度は面倒くさそうな顔をしたフューからいろいろな調味料を受け取った。なんでフューはそんなに調味料をたくさん持ってるの? 一体、原材料はなんなんだろ……?
さて、僕の食べ方に文句がありそうなジュンは、どういう風に食べるんだろう、見ものだね!
胡椒をかけて、一部を食べる。ソースをかけて、一部を食べる。醤油をかけて、一部を食べる。塩をかけて、一部を食べる。砂糖をかけて、一部を食べる。
ふーん……食べにくそう……。
サンクはバター醤油をかけて丁寧に食べているし、フューは胡椒をかけて白身だけ食べ、残りの黄身は何もつけずに食べていた。
みんな食べ方違うんだなあ……。もきゅもきゅ。
口の中で白身と黄身が混じり合い……すごい美味しい。この白身を食べれるようになるまでに、何人が死んだんだろう……?ま、生き返るけど。
ごっくんと飲み込み、僕はフューに聞いた。
「少しばかり気になってたんだけど。フューがずっと急いでる原因になってるのって、だれ?」
「あー。街の中で自分が言ってた人たち、の事、ですか……そうですね…‥。……この世界に存在する、ギルドが、アリオールギルドだけなわけがない、ということですよ。」
?
「分からないって顔をしてますね……。確かに回りくどい言い方だったかもしれません。アリオールギルドの他にも、この世界には無数のギルドがあります。アリオールギルド程の勢力を誇っているギルドもあります。そうなると、どうなると思いますか?」
んー?
「対立する……のかしら?」
「サンクさん。さすが。ご名答です。」
「やった。ふふん。」
少しばかり嬉しそうなサンク。
へー。そうなんだー。
「自分はアリオールギルドに在籍していた時、今キングビーストにいる、ハイヤルギルドとちょっとしたいざこざを起こしてまして……まあ自分のせいじゃないんですけど。」
ふーん?
「それで少し、合うたびに因縁をつけられるので。」
はあん……?僕の中で、髪型がリーゼントで目つきが悪い人が、ぎろりとこちらを睨む……という妄想が膨らんだ。
「因縁……か……。やっぱ都会は怖えにゃ……」
ジュンがぼそっと呟いた。最近、ジュンの語尾になんか付いてる気がする、気のせいだと思うけど。
「急いだほうがいいのね……嫌だけど……らいうちゃんに、乗るしか、無いのかしら……嫌……いやああああ……」
サンクが頭を抱えて震えた。え、そんなトラウマになってるの!?ジャイアントたぬきの乗り心地って!?で、でもきっとあそこまで一分もかからないよ!?そういうメリットが、あるよ!?
「普通に歩けばいいんじゃないの?」
僕が言ったタイミングで、フューがいきなりスキルを発動した。
「スキルスイッチ[遠視]」
(スキル[遠視]
効果…1km先のものを見る。
SP…5
取得条件…ブルームの森のツリーハウスから遠くを見る。)
えっ!ブルームにツリーハウスなんてあったの!?行きたかったーー!!
「どしたのフュー?」
「らいうさん!早く!変身!逃げますよ!」
「え、らじゃあ![巨大化]!からのマジックオープン[たぬき変身]!」
「え、ちょ、ちょっと待って!待ってよ!お願い!今乗ると目玉焼きが、目玉焼きが!」
ジュン、フューがひらりと僕の上に乗り、サンクを手招きする。
サンクは足を棒にして、動かない。
「あ、あの、あのね。どうにかならないかしら?歩く、とか!そうよそれがいいわ。歩きましょう!」
「サンクさん。相手は、ユニコーンに乗っています。勝ち目がありません。」
フューが僕の背中をスーッと滑ってサンクの前に降り立った。
「ユニコーン!?まじかよ……ユニコーンか……見てみたいな……」
ジュンがキラキラと目を輝かせている。ゆにこーんって何?
「それに、よ。相手が私達を追ってきてるとは限らないじゃない?位置もわからないんだし。」
「世の中には他人の現在位置を、隠蔽スキル等関係無く探知できる様なマジックを持った人がいるのです。」
「たぬうーたぬたぬー」
ストーカーじゃん!
「先程、まっすぐにこちらに向かってくる集団を確認しました。」
フューが謎の建物とは違う方向を向いて言った。
「十中八九だな。」
ジュンが僕の上で胡座をかきながら言う。
「なんなのよ!何したのよフュー!」
「サンクさん痛い痛い。」
サンクに胸ぐらを掴まれるフューと、半泣きのサンク。
……まじでそんなに嫌?泣くほど?フューを呼び捨てにするほど?
「ハイヤルさんは、しつこさと執念深さと面倒くささと血の気が多いのがウリなんですよ!」
「なにそれサイテー!」
サンクは崩れ落ちた。そんなに僕に乗るの嫌かあ……。ちょっとショック。
「土煙が近づいてきたが、あれか?」
「あー。あれですあれです。殺戮ギルドのハイヤルギルドは。サンクさん。面倒なことになる前に、逃げましょう?」
「いやああああああ!乗りたくないいいい!やめてえええええ!」
分かった分かった!じゃああれだ。僕がもっと乗り心地よーく走ればいいわけだ。
無理やり乗せられたサンクと、それを後ろで逃げないように、がしっとつかむフュー。
「たぬううううう!」
じゃあ行くよおおお〜!
いけ〜我らのおお〜きょだあああいいいいたぬうううう!
バリトンのいい声が頭の中で響く。
たぬたぬたぬたぬ…
なるべく揺らさないように、動きをセーブして動く。
「あのー。らいうさん?これでは、普通に歩いたほうが速いんですけど……」
「いいえ!これでいいわらいうちゃん!これなら……」
「追いつかれるな。」
ジュンが言い、フューもサンクも後ろを向く。
「おらあああああああ!はーっはっはっはっは!まてええええいいいいいフュウウウウウ!」
土煙を上げて、角つきの馬に乗った人が迫ってくる。……あの馬が!ユニコーン!
砂漠に似合わないねえ……。
「うわ。出た。逃げてください。らいうさん。」
「やめてらいうちゃん!これ以上は!……えっと、体が……崩壊するかもしれない!」
えええええ!?
「嘘は良くないですよ?サンクさん。」
「ひくっ……ひくっ……ほんとよお……だって……体中がひっくり返ってしまいそうなのだもの…あれ……やめてえ……。」
ごめんよサンク。
でも僕は追いかけられると逃げるタイプ。
びゅーーん!
「たぬううううう!った。」
痛っ。突然、僕はお尻のあたりに鋭い痛みを感じた。
「あっ。」
フューがちょっとこわい声をあげた。え、何?なになに何が起きたの!?
「ふははははははは!妾の麻酔針の威力を見よ!」
えー!えー……
どんどん体が、なまっていく……。
とうとう僕は、一歩も動けなくなった。
「仕方がありません!らいうさんを置いて逃げましょう!」
えーー!?ひどいっ!
「私降りられない……」
さすがサンク!僕をおいて行けないと!優しい!
「目が回って……気持ち悪くって……一歩も歩けないわ……」
物理的に不可能だったパターンだった!僕のためじゃないの!?
「というか、逃げるのはフューだけでいいんじゃないのか?」
あれ。そうなの?
「だってさっきの話じゃ、追いかけられてるのはフューだけだろ?」
「う。」
フューが目をそらした。
「つかまえええたああああああああ!」
「びゃあーーー!」
いつの間にそこに移動したのか、女の人がフューを後ろから羽交い締めにした。待って!僕の上で暴れないで!痛い!
僕は全員を振り落とした。
あー、この人がハイヤルさん、かな?ハイヤルさんって、女の人だったんだ?
「フュー。妾の弟君がお呼びじゃよ?」
「嫌です。離してください。自分はこれからキングビーストを倒して他の街に行くんです。」
女の人は首を傾げた。
「はて?キングビーストの神殿はこことは真反対じゃよ?」
「色々あったんですよ!」
フューはそう言ってジュンを睨んだ。ジュン……?真反対ってどういうこと……?
すっと目をそらすジュン。もう先頭には絶対に立たせない。
「ねえさまあ。つかまったあ?」
ひょこっと女の人の後ろからジュンやフューと同じくらいの年齢の少年が出てきた。いや……もっと幼い?
「ああ。妾に任せておけば、一瞬じゃ!」
「すごおい。さすがあ、ねえさま」
そしてその人はフューのアホ毛をぐいっと掴んで引きずっていった。
「ああああ〜助けてください〜」
ちょっと動けるようになってきた僕は、元に戻ってこう言った。
「がんば。」
「うわあ。らいうちゃん……置いてかれそうになったこと根にもってるわね……?」
持ってます。
一人称が妾の女の人は、ハイヤルではありません。




